ブローチ#1
穏やかな日の光が降り注ぐ、午前の刻。
庭の入口の花壇には、ピンクとアプリコットの薔薇が優雅に咲いていた。
ロサさんは、いつもこの時間に刺繍をしているはずだった。煉瓦造りの古い家屋。窓から日が差し込む小さな部屋で、ロサさんはか細い指で繊細なレース編みのように針を動かしている。
彼女のことを、魔女のようだと思ったのはいつ頃だろう。少しウェーブのかかった白に近い明るい金色の髪。深緑を森を閉じ込めたような瞳。麻のワンピースを身にまとい、赤い頭巾のついたローブを羽織っている。
気難しそうな印象と裏腹に、案外面倒見のいい妙齢の女性だった。彼女の作る料理は、庭に咲いているハーブを使ったものが多かった。白身魚のローズマリー焼き、ポテトのバジルソテー、ラベンダークッキーなど。薬草の知識が豊富で、風邪を引いたとなればエルダーフラワーのシロップ、眠れないとなればカモミール入りのホットミルクを飲ませてくれた。
彼女の本業は薬剤師だった。彼女の庭から摘み取った薬草を煎じたり擂ったりして薬として診療所などに届けていた。
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