【SS】伝説の安心感|#毎週ショートショートnote
「お前、まだこんなもの使ってんのかよ」
同僚のアイツが背中を叩いて、スーツの上着襟元から手を突っ込んだ。
「やめろよ。恥ずかしいだろ!」
「なに言ってんだよ。こんなものを貼っている方が、俺は恥ずかしいぞ」
アイツは俺のシャツの背中に貼られていたカイロをはがして、机の上に叩きつけた。
「しょうがねぇだろ。寒がりなんだよ。着膨れもしたくないし、カイロ貼ったってバレないだろ?」
「そんな猫背で仕事していたら、シルエットで貼っているのバレバレだぞ」
「お前は、寒がりじゃないんだな。羨ましいよ」
俺は新しいカイロを貼るために、席を立とうとした。
「ババシャツ着ているんだよ」
アイツが言った。
「知らないだろう?昔は寒がりなおばあちゃん専用の肌着だったけれど、最近は薄手で色やデザインも豊富になったんだ。メンズもあるんだぜ」
俺はババシャツを買ってみた。
今では寒い日も伝説の安心感に包まれている。
[410字] 博士出番無し
ちょっと匂わせ的な、私にしては珍しい作風にしました。