いつもの道で|#文字でスケッチ
今日は出張会議があったので、いつもより早い時間に家を出て駅に向かった。
駅へ行く途中に、ひとつだけ横断歩道がある。横断歩道の対岸脇には、大きな楠が一本立っていて、今の季節は色づく前に風雨で落ちた薄緑の実が、あたりにちらほら散らばっている。
信号は赤。4、5人が並んで待っていた。私は後ろの方にいて、日差しの暑さもあり「早く信号が変わらないかな…」と思っていた。
やがて信号が青になり、並んでいた私たちは一斉に前進を始めた。そのうちの一人が、左右をキョロキョロした後、右手を挙げて歩き始めた。まるで小学生のように!
私より年配の女性、彼女は黄色い帽子ではなく、上品なグレーの帽子をかぶっていた。そしてランドセルではなく、ちょっとお洒落な横長の茶色いリュックを背負っていた。長袖の白いブラウスに薄いグレーのフレアスカート… スカートの裾を風にひるがえしながら、右手を挙げたままゆっくりと横断歩道を渡った。最後に、ドライバーさんに少しだけ会釈もしていたような。
渡り終えたら、彼女はもちろん手を下げて普通に歩き、やがて雑踏にのまれてしまった。
私はなんとなく「手を挙げて横断歩道を歩かなくなったのは、いつからだろう…」そんなことを考えながら駅に向かった。
以下、蛇足。
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