脱炭素経営を始める「5つのステップ・5つのメリット」
最近よく聞く「脱炭素」というキーワードは、企業経営においてもとても重要な取り組みとなっています。
今回は、TBM新規事業部の奥秋が、脱炭素経営とは何か、どのような取り組みを始めたらよいのか、について5つのステップでご紹介します。
脱炭素経営とは
環境変動対策、特に事業活動における温室効果ガス排出量を減らす取り組みを企業経営に取り入れることを「脱炭素経営」といいます。
CSR(企業の社会的責任)活動の一環で、企業が倫理的な観点から行うものに留まらずに、経営戦略として温室効果ガスの削減に取り組むことで、事業リスクの低減や企業価値向上につなげる狙いがあります。
2016年に行われたパリ協定をきっかけに世界の国々が具体的な温室効果ガスの削減目標を公表しました。日本においては、2030年までに2013年度比で46%削減、2050年までに実質排出量をゼロとする「カーボンニュートラル」を宣言しています。
実質排出量ゼロというのは、排出量に対して吸収量が同じであればプラスマイナスが0となる考え方です。
温室効果ガス(GHG)について
温室効果ガスは英語でGreen House Gas、略してGHGと表記されます。二酸化炭素(CO2)に限らず、メタン、一酸化二窒素、フロンなどの地球温暖化の原因とされている物質のことです。
ちなみにCO2以外の温室効果ガスの削減も含まれているのに、なぜ脱炭素やカーボンニュートラルという言い方をするのかというと、GHG排出量の90%以上がCO2だからです。
脱炭素経営が必要な理由
気候変動による災害被害は年々増えています。
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第6次評価報告書によると、世界の平均気温は産業革命前と比べて1.1℃の上昇が確認できており、2030年代には1.5℃まで達する可能性が高いことを指摘しています。
パリ協定では、産業革命前と比べて2050年までの気温上昇を1.5℃までに抑えることが目標となっていますが、今のままでは4℃上昇するとも言われています。
そうなると異常気象による被害だけでは済まなくなり、感染症の拡大や生物多様性の損失などが起こることが予想されています。
そのため、企業に対するGHG排出に対してのペナルティはますます厳しくなることでしょう。
脱炭素経営の取り組みを始めることで将来の事業リスクに備えることができます。
脱炭素経営の5ステップ
では、どのようにして脱炭素経営を進めればよいか見ていきましょう。
ステップ1:会社のGHG排出量の把握
脱炭素経営の入り口は、自社のGHG排出量の把握から始まります。一般的には「GHGプロトコル」という国際規準を基にScope1・Scope2・Scope3と言われる範囲を算定していきます。
Scope1は事業者自身が燃料の使用や製造工程などで直接排出したGHG排出量のこと。Scope2は他社から供給されたエネルギー、たとえば電気、熱、蒸気などの使用に伴う間接的な排出のこと。そしてScope3は、Scope1、Scope2以外の間接排出を指します。例えばサプライヤーから購入した原料や部品も、それが加工・製造される過程でGHGを排出しています。そうしたサプライチェーン全体の排出量を指します。
自社で使う燃料(ガソリンなど)や電気の量以外に、仕入れた材料やサービス、加工や輸送、廃棄などの過程で排出されるCO2まで把握するのは大変ですが、物量や金額からそれぞれの「排出係数」と言われる専用係数があり、そこから算出します。
ステップ2:温室効果ガスの削減目標を設定
排出量が把握できたら、次は企業としてのGHG排出量の削減目標を設定します。パリ協定の目標に整合した共通基準であるSBT(Science Based Targets)という削減目標を参考に設定するのがおすすめです。5~10年先または2030年を目標に毎年どの程度削減をするか数値目標を設定します。
削減目標の設定ができれば、SBTの運営事務局であるSBTi(Science Based Targets initiative)に申請をすることも検討しましょう。認定されれば、ステップ5でご紹介する社外に向けたPRにつながります。
ステップ3:具体的な削減施策の立案・実行
GHG排出量の削減目標が決まったら、具体的な削減施策を検討していきます。まずは算定で把握できた自社の排出量を分析し、排出が多い箇所やすぐに取り掛かれそうな施策を優先して検討するのが良いでしょう。
例えば、施設や事業所・工場などのエネルギー効率化、環境に配慮した素材への切り替え、再生可能エネルギーの導入など、様々なアプローチがあります。
ステップ4:削減施策の評価と改善
実際に削減施策を実行する際には、目標を達成するための継続的な算定と評価が必要です。GHG排出量を年一回以上は算定し直し、実際に予定通り削減されたかどうかを確認し、課題や改善点を洗い出します。
削減施策方法についても、新しいサービスがないか常に最新情報を取得できるようにしましょう。
ステップ5:社外に向けた情報開示
算定や目標設定ができた時点でHPにサスティナブルページを作成し、社外に向けてGHG排出量を公表する企業も増えています。その際に、SBTiに申請を行い、削減目標設定の妥当性を認定してもらうことも検討しましょう。
上場企業ではTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)といって、統合報告書や有価証券報告書に気候関連財務情報の開示を行うことで、金融機関や投資家へ気候変動によるリスクと機会の理解を進めています。
その他、事業全体で使う電力を100%再生可能エネルギーを使うことを目標とするする国際的なイニシアティブ「RE100:Renewable Energy 100%」などの宣言などもありますので、企業として環境に配慮した活動をPRするのに有効です。
ステークホルダーの協力はとても重要です。顧客、従業員、株主、地域社会への理解を促していくためにも開示できる情報は公表していきましょう。
脱炭素経営の5つのメリット
脱炭素経営に取り組むことで、下記のメリットが考えられます。
コスト削減につながる
支援金や補助金を受けられる可能性がある
金融機関の評価が向上し、融資が受けやすくなる
求職者から働く先として積極的に検討されやすくなる
取引先からのGHG排出量の提出要望に対応できる
反対に脱炭素経営に取り組まないままでいると金融機関や求職者、取引先からの評価に影響が出る可能性があります。気候変動への対応を企業リスクと捉え、リスクマネジメントの一環として脱炭素事業活動に切り替えていくことが大切です。
長期的にはなりますがコストメリットにつながる削減施策もあるため、そういったところから検討をしていくこともよいでしょう。
企業の脱炭素経営の取り組み事例
実際に取り組みを早くから始めた企業も多くあります。一例をご紹介します。
セイコーエプソン株式会社
SBTiの承認も受けた2℃目標のGHG削減目標を掲げる
Scope1+2を2025年度までに2017年度比で34%削減
Scope3を2025年度までに2017年度比で事業利益当たり44%削減
主な取り組み内容
インクジェット技術で印刷時の電力消費を抑え、オフィス電力の削減に貢献
太陽光発電や省エネなどの設備投資
再生可能エネルギー電力の活用
カーボンプライシングの設定
物流効率の向上、拠点の見直し
株式会社セブン&アイ・ホールディングス
「GREEN CHALLENGE 2050」を宣言し、店舗運営のGHG排出量を2030年までに50%削減、2050年までに実質ゼロを目標に掲げる
主な取り組み内容
太陽光発電やLED照明などの省エネ設備の導入の推進
配送車両を環境対応車に切り替え
配送センターの使用電力を自動制御にすることで、電力効率を向上
大成建設株式会社
2030年までに売上高あたりのCO2排出量を、2019年度比でスコープ1+2では50%、スコープ3では32%削減する目標を掲げる
主な取り組み内容
「TAISEI Sustainable Actionポイントシステム」を構築し、建設現場における環境負荷低減活動の取り組みを定量的に可視化
「ゼロカーボンスチール・イニシアティブ」を始動させ、鋼材製造時の更なる脱炭素化技術の導入とCO2排出量の削減・除去に係る貢献活動等に取り組む
コンクリート内部にCO2を固定することで、CO2収支をマイナスにできる、カーボンリサイクル・コンクリートの開発
まとめ
これらのステップを踏むことで、企業の環境負荷を軽減し、社会からの信頼を高めることができます。また、脱炭素経営を実践することで、コスト削減や新たなビジネスチャンスを生み出す事例をご紹介したように、成長戦略に掲げている企業もあります。
とはいえ、脱炭素経営は一朝一夕に実現するものではありません。長期的な目線で計画を立て、継続的に取り組むことが重要です。経営戦略の一部として捉え、企業価値向上につなげていきましょう。