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TCFDって何? 気候変動と財務リスクに関する情報開示「全解説」
気候変動による環境影響はとても深刻になっており、企業においても利益追求だけではなく環境に配慮した活動を求められてきています。
今回は環境配慮をした企業活動を外部に開示するのに重要なTCFDについて解説していきます。
すでに知っているけれど、どう取り組めばいいか悩んでいるという方にも相談先やそのポイントについて解説していますので、参考にしていただけると嬉しいです。
TCFDとは、気候変動へ取り組みと財務影響の情報開示
TCFDとは、日本語では「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」と呼ばれている国際的な組織です。2015年、G20からの要請を受け、日本銀行など主要国の金融当局で構成される金融安定理事会(FSB)によって設置されました。「気候変動リスクは金融システムの安定を損なう恐れがあり、金融機関の脅威になりうる」との懸念から、今後の経営計画は気候変動による影響を加味して分かりやすく開示をしていきましょうと提言しています。
多くの機関投資家もこの動きに対して賛同をしているため、TCFD提言に取り組むことで投資の機会も増えると言われています。
いままでは環境部門などでCSR(企業の社会的責任)の対応などをしているのが一般的でしたが、気候変動は企業運営そのものにリスクがあることから、全社としての取り組みが必要となってきており、経営企画部門などがTCFDの開示をしているところもあります。
日本でも、金融庁から2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書や有価証券届出書に、サステナビリティに関する企業の取り組みとコーポレートガバナンス(企業の透明性など)に関する開示を求めています。(参考:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案の公表について)
これらはTCFDという言葉は出ていないものの、TCFDに沿った内容の一部となっています。
また、環境省も「気候変動対応は、従来は環境・CSR部門が対応していたが、 『企業価値』『事業売上』『資金調達』の面でも気候変動課題がリスク・機会となりうる ことから、全社として取り組む必要性が高まっている」と「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ」の中で述べています。
気候変動による2つのリスク
環境に配慮した活動は、経済活動にとっても非常に重要になってきています。
ですが、気候変動リスクがあるとわかっていても、企業の意思決定においては蔑ろにされていることも少なくありません。
将来の企業成長のためにも、改めてリスクを正しく理解し、取り組みを始めていきましょう。
気候変動リスクは、「移行リスク」と「物理的リスク」の2つがあります。
移行リスク……世の中が脱炭素に向けた活動に「移行」していく際のリスク
物理的リスク……洪水や平均気温上昇のような異常気象によって受けるダメージリスク
物理的リスクはイメージしやすいと思いますが、企業にとっては移行リスクも見逃せません。すでに取り組んでいる企業では、移行リスクは、政策(法規制)・技術・市場・評判のような側面でリスクを検討し、開示している企業が多いです。
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TCFDで開示する4分類と11項目
TCFDで開示を求められているのは、気候変動による財務影響です。
それらを4つの基礎項目で分類し、合計11項目ごとに詳細を記載していきます。
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ガバナンス
気候変動への取り組みに関して経営陣がどの程度関わるのか管理監督体制を開示します。ここで企業としての姿勢が見られます。
(例)
・気候関連の課題に取り組む委員会や担当役員が設置されているか
・取締役会への気候関連の課題に関して報告ルールや頻度が決まっているか
・経営戦略などの企業意思決定の際に気候変動リスクの考慮がされているか
・気候関連の課題目標に対しての進捗管理を行っているか
気候変動における企業リスクと機会に対して、経営の中に組み込めているかどうかを示すことになります。
戦略
気温2℃(1.5℃)以下またはより上昇するシナリオなどを想定して、企業では気候変動リスクをどのように捉え戦略を検討しているかを開示します。
(例)
・短期・中期・長期での財務影響
・製品やサプライチェーン、研究開発投資、事業オペレーションなどにはどのような影響があるのか
・営業収益や設備投資、資金調達などにそのように影響するのか
リスク管理
気候変動リスクに対しての評価プロセスや管理方法について示します。
(例)
・気候変動によるリスクの優先順位とその重要性の決定方法について
・組織全体のリスク管理に気候関連も含まれているのかの統合状況
・リスク評価の状況や見通し
指標と目標
リスクや機会などの測定・管理をするための指標を示し、目標を設定します。指標においては、変化が分かるように示し、計算方法も含めます。
(例)
・組織としての戦略とリスク管理に用いる指標は何か
・内部炭素価格を設定した場合の情報や根拠となる指標
・GHG(温室効果ガス)プロトコルに従い算出したGHG排出量
・気候関連の目標や期間など
日本企業の取り組み状況
TCFDへ賛同表明している日本企業数は1,266件となっています(2023年3月末時点)。
世界的に見ても賛同している数は多く、日本の金融機関や投資家も企業価値を業績だけではなく、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の観点で評価を行っています。ESG評価の投資額は日本でも年々増えており、サステナブル投資残高は約500兆円に達しています。
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TCFDの開示準備6ステップ
TCFDの重要性はご理解いただけたと思いますが、実際どのように取り組めばよいのかがまだイメージできていない方も多いかもしれませんので、環境省の「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ」を参考に基本的なステップを解説します。
また、どういったところに相談すれば解決できるかも併せてご紹介します。
TCFDの基本ステップ
①準備
(例)
・TCFDについて経営陣から理解を得る
・シナリオ分析実施体制を構築
・シナリオ分析についての対象範囲を設定
⇒売り上げの大きい事業、CO2は排出量が多い事業、データを集めやすいなど
・何年を対象にしたシナリオ分析を行うか決める
⇒2030年、2050年など
②リスクの重要度評価
(例)
・気候変動によるリスクと機会を洗い出す
・洗い出した項目の事業インパクトを定性的に表す
・事業インパクトを大・中・小に分け重要度を決める
⇒セクター別やサプライチェーン別といった粒度を決めると進めやすい
③シナリオ群の定義
(例)
・気温上昇が2℃以下も含んだ複数の気温上昇シナリオを選択する
・客観的な将来データから自社に対する影響を具体化する
・ステークホルダーの行動など、自社を取り巻く環境について社内の合意形成を図る
④事業インパクトの評価
(例)
・検討した項目が、損益計算書や財務諸表にどのように影響を及ぼすか整理する
⇒売上と費用への影響を検討する
・試算可能な項目から、財務的影響を試算できる算定式を検討する
・試算結果から将来の事業へのインパクトを把握する
⑤対応策の定義
(例)
・事業インパクトの大きい項目について、自社の対応状況を確認する
・競合他社の対応状況も併せて確認
・具体的な対応策を検討する
・社内体制の構築し、具体的なアクションに着手する
⑥文書化と情報開示
(例)
・どのように開示するかを決める
⇒年次報告書または年1回以上発行される公式な企業報告書
・TCFDの開示項目を目次に①~⑤の内容を記載する
・今後企業としてどう対応していくかを記載する
TCFDの相談先について
TCFDを進めるにあたって相談先が欲しいという方もいらっしゃると思います。その場合は、費用や実績で下記のような会社が候補になります。
・TCFDなどのコンサル会社
・ESGやCO2算定に関するツール提供企業
・経営相談ができる商工会議所や公益財団法人など
まとめ
今回は、TCFDが定めているシナリオ分析と情報開示についての方法を解説しました。
企業戦略において、気候変動のリスクと機会について考えていくことは将来の企業成長を考えるととても重要です。大企業に限らず、中小企業も情報開示によってビジネス機会につながる可能性もあります。
また、イギリスで設立されたCDP(Carbon Disclosure Project)という非政府組織は1年に1度企業や自治体へ質問書を送り、環境対策の取り組みについて情報収集と開示をしていますが、組織情報開示の際に環境対策レベルをスコアリングしています。その質問書の一つに「シナリオ分析の導入」という項目もありますので、TCFD対応をすることは、CDPのスコアアップにつながることにもなります。
全社の取り組みとして、是非この機会に検討してみてください。
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