バベルの塔 -人はわかり合えないのかな-(2011.11.16)
1.
彼らは、「さあ、天まで届く塔のある町を建て、有名になろう。そして、全地に散らされることのないようにしよう」と言った。主は降って来て、人の子らが建てた、塔のあるこの町を見て、言われた。「彼らは一つの民で、皆一つの言葉を話しているから、このようなことをし始めたのだ。これでは、彼らが何を企てても、妨げることはできない。我々は降って行って、直ちに彼らの言葉を混乱させ、互いの言葉が聞き分けられぬようにしてしまおう。」主は彼らをそこから全地に散らされたので、彼らはこの町の建設をやめた。
【創世記11章3-8節(新共同訳)】
「バベルの塔」として知られる話です。こうして人間はいろんな言語を話すようになったことで意思疎通が困難になり、一つにまとまることができなくなった。
でもこれ、今読んでみると日本語とか英語とか、自然言語についての話なのでしょうか。Googleなどの機械翻訳はいまだにひどい翻訳文をはき出してくれますが、全く意味不明ってことは少なくなってきたのではないでしょうか。少なくともきちんと勉強する気さえあれば、外国語でコミュニケーションするのは不可能ではないと思います。
2.
福島第一原発での事故が起こって以来、いろんなことが起きました。私自身が失敗したことだけでもいろいろあります。
すべての外部電源が喪失した後、復旧までこんなに時間がかかるとは思っていなかった
政府と東電が事態を隠蔽しようとしても、地元の自治体が黙っているはずがないと思っていた
妻が東京の友達に雨合羽を送ろうとしていた時、無意味なことだと思った
日本の軽水炉で実際に過酷事故が起こることはないだろうと(なんとなく)思っていた
ほかにもあると思いますが、最低でもこれらの点については「ごめんなさい」と言うしかありません。見ていたにもかかわらず、「ぼんやりと」しか見ていなかったのです。告白することで免罪されるとは思いませんが、間違ったのは事実です。そしてこれからも間違えるでしょう。自分の判断が必ず正しいなんて言えません。
3.
低線量被曝が人体に及ぼす影響について、それぞれの立場から議論が交わされています。というか実際のところは議論になっていないのかもしれません。
低線量の被曝は人体に影響がないとか
むしろ健康を促進する(ホルミシス効果)とか
被曝量と健康被害の増加は比例関係にあると仮定する(LNT仮説)とか
低線量被曝はLNT仮説で想定した以上に害が大きい(バイスタンダー効果,ゲノム不安定性)とか
どれが正しいのか現在のところはっきりしたことはわかりません。
専門家はそれぞれの立場で主張しますし、自分の仮説を裏付けたい、という野心も当然あるでしょう。また噂されるように莫大な研究費が特定の主張に対して投入されてきたのかもしれません。
しかし、少なくとも私たちは、どの仮説が正しくてもそれによって利益を得たり、損失を被ったりする立場にはないはずです。どの立場の人たちも、被災地の人たちに健康でいて欲しいと願っているはずです。ですが私たちは自分が受け入れられない主張をする人たちを「御用学者の手先」であるとか「社会に不安をまき散らす悪人」であるとか言って非難し合います。
バベルの塔の話って、こういう状況のことを指しているのかもしれません。