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地獄視

私はその春…失恋した。
春とは出会いの季節というが、別れの季節でもある。
私はそれを目の当たりにした。
ある病院に勤務の医師と知り合い、お付き合いを始めて一年は順調かと思われた。
しかし、彼はそれ以上の関係を求めなかった。
求めてこないのか?私がそれに気付いていないだけなのか。
私は知ることは出来なかった。
聞く勇気がなかった。
恋とはあっけない。
2人で会うことがあっても、会話はなく。
ただ一緒に時間を過ごしていた。
私にはそれが耐え難い苦痛だったが、彼はどう思っていたのか。
あるとき、彼に連れられて病院を案内された。
私にはそれが進展に思えていた。
しかし、彼の心の中を見ることはできない。
病院の中は忙しなかった。
みな、機敏に動き仕事に振り回されているように私には思えたが
働いている人たちは、それがとてつもなく充実した時間だったのかもしれない。
こういう状況下に置かれると、私には「それがみえていた。」
病院内には様々な患者が溢れている。
死の契約、死の密約を交わした人たちがそこにはいる。
私の彼もまたその1人だ。
だって私には目の前に存在している彼と半分存在していない彼が見えている。
あ…この人もか。
そう思うと私の中で恋が覚めてしまう。
彼の背後に死神が2人張り付いている。
彼は医師だから人の苦しみから解放してあげる立場の人間のはず。
そんな彼さえ…

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