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EBM = 科学的根拠にもとづく医療の『科学的根拠』って何?

『医学情報を読み解く』その1

『魚を与えるのではなく、釣り方を教えよ』という格言についての解釈はいろいろありますが、医学や健康に関する情報を集めるという観点に立つと、この考え方は有用だと思います。新型コロナウイルスのように未知の脅威がある場合は、情報をたくさん知ること、いち早く知ることが大事な場面と言えますが、私たちが普通に生活する中で必要な情報は、どちらかというと正確性、再現性が求められます。その場合、可能な限り適切な情報を選ぶ選定眼が重要になるでしょう。そもそも信頼できない情報を集めても、惑わされるだけですし、害になることもありえます。

信頼できる情報を集めるのは医師でもちょっとした工夫がいるものです。とはいっても、医学雑誌や、医学情報を咀嚼した臨床支援ツール・リソース(内科領域ではUpToDateというサービスが有名です)にアクセスできるため、われわれはよりオリジナルの情報源に近いところにいます。

一般の方でそれらを使いこなすツワモノも増えてきましたが、どちらかというとGoogleやYouTubeで検索したり、まとめサイトで情報を収集する人の方が多いのではないでしょうか。

このシリーズでは医学・医療・健康に関する情報をどうやって選別していくのか、その選定眼を養うための、ごく基本的なやり方を説明していきたいと思います。

第1回はEBMとは何ぞや?です。

エビデンスって何?

エビデンスは、簡単にいうと、「現在利用可能な情報・科学的データ」になります。

EBM(Evidence-Based Medicine)とは?

医学の世界では『エビデンス(根拠、証拠)』をもとに医療行為を行うのが主流であり、これをEBM(Evidence-Based Medicine: 科学的根拠にもとづいた医療)といいます。

さて、『科学的根拠』があれば何でもいいのか、というと、実はそうでもありません。大切なのは『その時に利用可能なデータの中で、その状況に最も適切なデータを選び、考えられる最善の治療を行うこと』なのです。これをEBMと言います。(ちなみに利用可能な最善のデータのことをbest available evidence/researchと言います。)

医学雑誌のBig 5の一つ、BMJ(British Medical Journal: インパクト・ファクター 27.604)にEBMの解説がありますので、意訳して部分的に引用します。

『EBMとは、医師の経験や患者さんの価値観・バリューに合わせて、利用可能な最善の根拠・データを適用することである。ここでいう最善とは、目の前の患者さんに最も当てはまるという意味である。』

それらが含むものは:
診断・検査の最適解
予後(寿命や機能がどのくらい保たれるかの見通し)に関係するデータ
安全かつ有効な治療、機能回復、予防的戦略
患者さんの価値観や経験を理解すること

医師は臨床経験や知識・技術をすばやく統合して患者さんに本当に必要なものを見つけ出し、それに対して最善のデータ・研究結果を当てはめ、治療による効果と副作用・合併症を天秤にかけ、最終判断をする。
最終的に、EBMの目指す世界は個々の患者さんの好き嫌い、心配ごと、期待に応える最適解を導き出し、最善のケアをすることである。
EBMは新しい概念・コンセプトではなく、むしろ過去からの知識や経験の蓄積の結果を受けて、今なお進化し続けるプロセスである。

繰り返しになりますが、EBMそのものはただ最もらしいデータを羅列することではありません。データはデータ。まずはデータが正しいのか、どのくらいもっともらしいのか(これを内的妥当性と言います)を判断し、次に目の前の患者さんの疑問やリクエストに応えられるものなのか(外的妥当性と言います)を判断します。そして、医師の経験をマッチさせ、最適解と思われるものを提案します。

はい、小難しく聞こえますが、世の中一般で行われているコンサルタントの仕事と一緒ですね!

ただ、医療・医学という、健康や命に関わる情報なので、「なんとなく」「個人的な経験」によるバイアス(偏った見方)を排除し、より客観性のある科学的手法にのっとったデータを重視している、あるいはそれが業界のならわしになっている、という部分が、一般的なコンサルテーションとの違いでしょうか。

よく、医療はアート&サイエンスと呼ばれます。
すべては「目の前の患者さんに最善をつくしたい」というゴールを果たすこと。
医師一人の経験だけではなく、過去、そして世界中の研究結果・知見(サイエンス)を集め、総合判断します。そして、「どのデータを当てはめるのか」は、医師の知識や経験によります。患者さんとの対話のなかで、その患者さんの求めている答やゴールを設定することが重要で、そこに医師のスキル(アート)が求められます。

まとめ

EBMは科学的なデータを、個々の患者さんの状況に当てはめて、最適解を導き出す手法です。これが現在の医療の基本スタンスです。

EBMは素晴らしい手法だと言えますが、その限界もあります。次のシリーズでは、科学的根拠の妥当性(データの確からしさ)について考えてみましょう。

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