『侍タイムスリッパー』が最高だった話
少し前から話題の「侍タイムスリッパー」をようやく映画館で見ることができました!流行語にもノミネートされています。鑑賞した感想は、一言で「最高」だったわけですがなぜそう感じたのか自分の考えを共有します。
作品について
まず簡単に作品について。未来映画者が作成した劇場映画社の劇場映画第三弾。コロナ禍で資金集めがままならないところ、東映京都撮影所の協力によりなんとか完成に漕ぎ着けた自主映画である。「自主映画で時代劇を撮る」という無謀をやり遂げたのだ。
作品の紹介は以下の通り
※ここからはネタバレも含むのでご注意を
「緊張と緩和」
観客をアツくさせるこの作品のキモは「緊張と緩和」にあると感じた。
まず冒頭のシーン。真剣な勝負の雰囲気を感じさせる。時代劇の戦いのシーンは真剣な切り合いである場合が多いという我々がもつ固定観念がそうさせている。身構えているとすぐ同士との砕けたシーンが入り、笑いどころをくれる。映画全体としてゆるい感じなのかな、笑っていい作品なんだと理解させ、ツカミはバッチリだ。
そして、雷に打たれタイムスリップする主人公の高坂新左衛門。まず、現代の時代劇の場面に実際の侍が入りんでしまうおかしさがある。昔の人が来たらここに驚くだろうなと想像できるシーンをしっかり回収してくれることが気持ちいい。中身が空洞の魚をもっているや、人間がさっきと同じ場面を繰り返すことなどは笑ってしまう。
主人公高坂のキャラクター性
ここまではまだあり得る展開だと思う。ここまでのコメディはどの侍が来ても起こりうるだろう。だが、高坂は仮に現代で育ったとしてもあまりに変わっている。「絶対にそうはならんだろ!」とツッコミを入れたくなる展開が観客の笑いのボルテージをさらに高める。個人的に好きなシーンは、テレビに初めて出会い、時代劇を見るシーンだ。テレビという未来のものに驚くことはあるだろうが、なんと作品にのめり込んで心から感動して泣いているのである。テレビへの理解が早すぎだし、ましてや普通の大人はそんなにストレートに感動しないだろという裏切りだ。
ツッコミどころしかないような大ぶりなコメディの連続だが、徐々に笑いのボルテージが高まっているので見る人を置いていかないし、なんなら、映画館の中で高坂というキャラクターをみんなで楽しんで見ようというような一体感すら生まれていた。
そして、そうさせてくれるのは山口馬木也さんの演技あってのことだろう。不器用ながら素直に生きるこの役を本人役なんじゃないかと思わせるような立ち回りだった。
そしてクライマックスへ
高揚が高まりきってきた頃に、『侍』としての生き様とはというテーマに物語が転換していく。死んでいった仲間たちに対してみっともない姿を見せられない強い想いであり、すっかり高坂のファンになってしまったのに加えてカッコいい部分も見せられたらもう目が離せない。
こうして、作品を通して作り上げた壮大なフリが全員が固唾を飲んで見守るラストシーンに繋がっていく。
おわりに
見終えた後の満足感は今年一かもしれない。映画館に見にきて正解だった。
一つの映画館で始まった映画が全国の映画館で上映されるほどになる。これは「カメラを止めるな!」のように、面白いものや目を惹くようなものがあれば口コミを通じてきちんと広がり、一つのムーブメントにまで繋がったのだ。これはつまり、グローバルな映画市場における邦画もこのように評価される余地があると感じる。