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Skyward 第11話



窓の外には漆黒の闇が広がっている。波の音と、微かな船のエンジン音が闇に吸い込まれていくかの様だ。
しかし顔を上げ、空を見上げた者は知っている。
そこには、満天の星空が広がっているということを。

レオンは、教育係であったネヴィルの「自分の足で世界を見ろ」という言葉が彼の心に響いてから、15歳という若さながら幾度も旅へ出かけた。その内容は、他州から隣町のレストランまでと多岐に渡る。そして各地の色んな人々と交流を図ってきた。
この数ヶ月の間に出会ったある人物との出会いは、特に興味深いものがあったようだ。

「世界の秘密…って坊っちゃん、そんな大げさな!マンガや映画じゃあるまいし」
レオンの警護係であるマックスは笑った。
「なんだと?」
レオンは、その幼くも凛々しく鋭い眼光で、マックスを睨む。
「その話、だいぶ前からしてますけど、坊っちゃんはからかわれてるんですよ」
「ちがう!絶対本当だって!」
「ち、ちょっと待って!いったい何の話?」
アーツが二人の会話に割って入った。
「この世界には超能力みたいな、不思議な力を使うヤツがいるんだって!」
両拳を握り、レオンは突然、大きな声でそう言った。
アーツとリクオは目を点にする。ライリーとマックスは首をすくめた。
「ホントなんだって!」
まるで駄々っ子の様に叫ぶレオン。
ライリーが「もう遅い時間ですから、大きな声を出さないでください」と慌てて制止する。
「それは、あれじゃない?科学の力とかそういう…」
アーツがなんとかフォローしようとしている。
「前に別の国へ旅行に行ったときに知り合った奴が、オレに見せたんだ」
レオンはさきほどまでのやんちゃな雰囲気から一変、真剣な目をしていた。
「見せたって何を?」
「そいつは同い年くらいの女の子で、その子は触らずに物を動かしたり、小さな爆発を起こしたりしたんだ」
レオンの話に、ライリーは優しげな視線を送り、そして苦笑した。
「坊っちゃんは冒険や戦いのお話が好きなので、そういう不思議な話に興味津々なんですよね」
「作り話じゃないんだってば!」
レオンが身を乗り出した。「オレが…、名前は忘れたけど、ある土地をブラブラしてたら一画に子供たちが集まっててさ、路上生活をしてる子たちみたいで、その中心でジニーが、力を見せてたんだ。私はリバースなんだって言ってた」
「リバース?」
アーツが聞き返すと、レオンは頷いた。
「『rebirth』。力を持つ者の事をそう呼ぶんだって」
「……」
リクオもアーツも、何とも言えない表情をしている。
「まぁ…、確かに胡散臭いと想われるような話かもだよな。オレの話、誰も信じちゃくれないんだ」
レオはため息をつく。「でも本当に見たんだよ。手品かもしれないけど」
「それで?」
リクオが話を促した。
「私と一緒に来ない?ってその子は周りの子供たちを誘ってた。来ればみんなもこの力が使えるようになって、リバースになれるよって」
「怪しすぎますって~!」
ライリーとマックスが言う言葉を、レオンは何度も聴いたのであろう。半分諦めたような口調で続ける。
「女の子がオレに気づいて、興味あるの?って話しかけてきてさ。ビルム・インガムには“家”があって、家ではみんなが家族になれるからもう寂しくないよって。周りにいた子たちは、その気になってた。オレはそのあとこいつらに呼ばれて、それっきりにはなっちゃったけど…」
レオンはライリーとマックスを指さす。
「あとからその話を聞いてゾッとしましたよ。坊っちゃん、誘拐されてたかもしれませんからね」
「そいつは、ビルム・インガムのどこから来たって?」
リクオがレオンに問う。厳しい表情になっている。
「詳しくは…わからない」
レオンがモゴモゴと口ごもったのを見て、リクオはそれ以上訊くのをやめた。
場がシンとなる。
すると突然、レオンが笑い出した。
「ま、今回は大人しくこのまま帰るわ~!」
わははっと笑っているので、みんなはじめはキョトンとしていたが、ライリーやマックスは釣られて笑い始めた。
「まったくもう、少しは反省してくださいよ、坊っちゃん」
「悪い、悪い!それにしても、シェルーズベリーは穏やかで暖かくて良いところだよな。オレの住むヴィーヴァスは夏でもそこまで暑くならないから、過ごしやすいけど、オレは南側の暖かいところの方が好きだなぁ。王室のあるトルメリアも綺麗なところだったし。あっ!そうだ、トルメリアって言えば、オレ王女と知り合いなんだぜ!ついこないだも久々に逢ってさ。アーツ見たことあるか?」
レオンは急にペラペラと語りだし、アーツに「なあ?」と念を押してきた。アーツははじめ、何の話かよくわからずキョトンとしていたが、間を置いてハッとする。
「え、王女?…王女ってシャーロット王女様のこと?」
「そうそう、シャーロット!オレはシャルって呼んでるけど」
「シャル?」
リクオが聞き返した。
「ああ、あいつとは幼なじみだから」
「はい、その話は本当ですね」
ライリーが続ける。「坊っちゃんとシャーロット王女様は幼い頃から交流があって、今回の旅行にもルース博士がトルメリアで王様に会うため、スケジュールが組まれていたんです」
リクオとアーツは驚いて口が開いている。
「驚きますよね、さすがに」
マックスは2人の表情を見ながら、なぜか自慢気だ。
「…どういう繋がりなんだ、あんたの親父さんと王は」
リクオが冷静さを取り戻し、尋ねた。
「親父と王様が大学時代の友達で、今でも時々交流があるんだよ。お忍びで父さんの研究室に来ることもあって、オレは昔からシャルの遊び相手をしてたんだ」
そう言ってレオンは上着のポケットから携帯電話を取り出すと、画面を触って一枚の画像を見せてきた。
そこにはレオンと正真正銘、ビルム・インガムの王女シャーロットが2人並んで写っている。しかもレオンの外見からして、最近のもののようだ。
「うわー…、本物っぽい」
アーツとリクオが画面に釘付けになっている。
「本物だよ」
レオンはニヤリとする。「オレとシャルを結婚させようなんて、親父たちが話してたこともあったんだぞ。オレたちは断固拒否してるけど」
「レオンとシャーロット王女が、結婚?」
アーツが驚いて声を上げる。「じゃあ将来、レオンがビルム・インガムの王室に入るかもしれないってこと?すごい!!」
「確か彼女、まだ13歳くらいじゃないか?」
リクオが言った。
「父さん達が勝手に言ってるだけだよ。オレ、その気ないし。シャルはイイヤツだけど、将来の女王だろ?ムリムリ」
「そっかぁ」
がっくりと肩を落とすアーツの様子を見て、レオンとリクオは顔を見合わせて笑った。
「まあ、そうがっかりするなって。結婚なんてしなくても、オレたちはもう友達なんだからいつでも南側に遊びに来るし、シャルも呼んでやるから!」
「王女様がそう易々とくるわけないだろ」
リクオが苦笑する。
「あいつなら来るよ。全然王女っぽくないんだから」
「本人が遊びたくても、周りがそうはさせないでしょう。気の毒ですが」
ライリーが言う。「でもレオン坊ちゃんが遊びに行くときは、必ず私たちに声かけてくださいよ、お供しますので!」
ライリーとマックスに迫られ、あ、ああ…と圧倒されるレオン。
「もう追いかけっこするのは懲り懲りだしな」
リクオの言葉に、レオンとアーツは笑い、護衛2人は苦笑している。
そして時計を見て、そろそろ部屋に戻ろうとアーツとリクオが立ち上がると突然、レオンがアーツの腕を引っ張り、小声で耳打ちをした。
「朝食前、3人で話したい」と…。



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