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かつて描いた"未来"はもう今の選択肢になっているのか。Toyota Mirai 試乗メモ

今回はToyota Miraiを試乗した。Toyota Miraiは、世界初の量産市販燃料電池車として、初代が2014年にデビューした。現行型である2代目JPD20型は2020年に登場しており、初代とは全く異なる車へと変貌した。初代Miraiは、ZVW30型Priusをベースにした、未来感を少し取り入れた5ドアハッチバックであった。一方、2代目は、Toyota CrownやLexus LSと同じGA-Lプラットフォームを採用し、伸びやかで流麗な4ドアクーペ風フォルムの後輪駆動サルーンとして設計されている。

4ドアクーペ風の流麗なスタイリング

近年、多くのメーカーが、かつての伝統ある名前を不格好なSUVに使用したり、世代交代を機にSUV化する例が見られる(例えば、Ford Capri、Ford Mustang Mach E、Mitsubishi Eclipse、Renault Megane、Toyota Crown、Citroën C5などなど)。しかし、Miraiはこれらとは対照的に、「醜いアヒルの子」が見事に進化を遂げたような存在である。特に注目すべきは、車格、サイズ、装備、質感、パワーなど、全てが大幅に向上しているにもかかわらず、デビュー当時と比べると13万円ほど価格が下がっていることだ(現在では価格改定などにより販売地域によっては同程度になっている場合もある)。通常では考えにくいが、これこそがトヨタの努力と技術の進歩の賜物であろう。

今回の試乗では、東京から浜松に行く550kmのロングドライブを通じて、Miraiのドライビングフィールや実用性を確かめ、燃料電池車が日常の使用に耐えるパワートレインであるかどうかを検証した。

Information

Toyota Mirai
年式:2021年
グレード:G
パワートレイン:FCスタック, モータ
駆動方式:FR
FCスタック最高出力:172hp
モータ最高出力:180hp
モータ最大トルク:300Nm
車両重量:1.9t


Driving

まず、このクルマ最大の特徴であるパワートレインについて記述すると、172hpのFCスタックで発電した電気でリチウムイオンバッテリーを充電し、その電気を使って最高出力180hp以上、最大トルク300Nmのモータで後輪を駆動する。車体重量はグレードにもよるが、およそ1.9tで、同クラスの内燃機関車と比較するとやや重めである。しかし、PHEVやBEVと比較するとバッテリーが小さいため軽く、BEVよりも燃料電池車が優位に立てる大きな理由となる。軽さはクルマのパフォーマンスや挙動を向上させる大きな要素だ。コーリン・チャップマンもそのように言っていたはず。多分。

さて、この最高出力だが、諸元表での数値は182ps(英馬力にして180hp)であるものの、Toyotaはカタログなどで「180hp以上」と表記しており、実際に「180hp以上」あるのではないかと思ってしまう。なぜなら、数値以上に気持ちの良い伸びやかな加速をしてくれるからである。特にSportモードでは250~300馬力くらいあるのではないかと思えるような鋭い加速をしてくれる。実際、Toyotaは0-60mph加速を9秒としているが、実際に計測したところ7.8秒であったという話もある。C、Dセグ級のBEVが300や400hpで登場する中、180hpで300NmというCセグのHEVモデル程度の数値には拍子抜けしたが、実際に乗ってみるとその印象は間違いだったと気づかされた。確かにTesla Model 3 PerformanceやVolvo XC40のツインモータ仕様など400〜500hpクラスのBEVの馬鹿みたいな速さには敵わないが、クルマのコンセプト的にも「これで十分ではないか」と思う。ちなみに、Normalモードでも十二分な加速性能があり、高速道路での追い越しも全くストレスがない。大満足であった。

尚、モード切り替えではアクセルのレスポンスとブレーキの感覚が変化するくらいで、ステアリングの重さはほとんど変わらない。

ステアリングは低速域から単に軽いのではなく、Lexus系のようにしっとりとした質感を感じられ、30~40km/hあたりからは十分な重さになる。決して俊敏でスポーティな味付けではないものの、運転が好きな人でも満足するくらい十分なレスポンスとクルマとの一体感を感じられる、素直なステアリングフィールである。曲線の多い田舎道では特にこのクルマの素性の良さが感じられた。FRであり、前後重量配分が50:50と完璧な設計であるため、コーナリングが最高に気持ちよく、その5m近い巨体と数値上最高出力180hpしかないパワートレインからは考えられないくらい意のままの操縦体験であった。

このクルマは乗り心地も気持ちの良い仕上がりとなっていた。最近のプレミアムサルーンとは異なり、とても柔らかい足で滑るように走り、まるでホバークラフトのような乗車体験を提供してくれた。ドイツ製プレミアムサルーンとは異なるしっとりとした上質感があり、路面の凹凸への対応力は素晴らしい。そして、そのような柔らかい足回りでありながら、車重が1.9tとBEVと比較すると軽いこともあり、コーナーでの安定性も優れているのだ。また、モータ駆動であり、車内の静粛性がLexusレベルで高いため、総じて静かで心地よい車内空間を実現している。

とはいえ、静粛性も完璧とまでは言い切れない。ロードノイズはほとんど感じられないが、100km/hを超えたあたりからAピラーの上部から大きめの風切り音がする。これさえ解決すればスムーズで気持ち良いクルージングを全速度域で楽しめるだろう。

また、足に関しても私個人としてはちょっと不満点がある。これは個人の好みの問題かもしれないが、高速域ではVW系のようなしっかりとしたサスペンションが欲しいと感じた。Miraiの柔らかいセッティングは決して悪いものではなく、コーナーでの安定性も十分なので、街乗りから田舎道まで快適且つ気持ちの良いドライブを楽しめるが、高速道路ではちょっとふわふわしすぎていると感じてしまう。このクルマは残念ながらオプションを含めてもアダプティブダンパーの設定がないため、より硬いセッティングも可能なアダプティブダンパーが欲しい。

このクルマの欠点として挙げられるのはブレーキである。ハイブリッドカーやBEV、燃料電池車などモータで駆動する車は、ブレーキを踏むと最初は回生ブレーキがかかり、その後摩擦による従来のブレーキがかかるため、踏み始めでブレーキのかかり具合が弱く、最後にキュっと強くかかる。Toyotaのハイブリッドカーは他社と比べてマシなブレーキのセッティングであるが、このクルマは残念ながら違和感が大きいものであった。特に柔らかい足であるからか、最後のキュっとかかるブレーキで車体が若干揺すられる。特にecoモードにすると顕著であり、sportモードで多少は改善される。このクルマの快適な乗車体験を実現するには、この癖のあるブレーキに慣れる必要がある。

ついでにアクセルペダルについても触れると、この車ではオルガン式アクセルペダルを採用している。Lexusでも一部車種はオルガン式ではないため、これは良いポイントであり、踏み込み量を調整しやすいし、高級感がある。

最後に視界と取り回しについて言及すると、このクルマはサイズの割に取り回しがしやすいと感じた。斜め後ろに小窓(CピラーとDピラーの間)があり、ウインドウ下端が低い位置にあるため、斜め後ろも含めて4ドアクーペ風な見た目の割に視界は良好である。Aピラーが太すぎることもなく、斜め前の視界も悪くない。最小回転半径は5.7mで,これはEセグメントとしては平均的かやや良好な値だ(Lexus ESやMercedes EQEと同等で,Audi A6やBMW i5より良好)。そのため、街乗りで取り回しに苦労しなかった。

窓が広く取られているため斜め後方の視界も悪くない

Interior and Practicality

Front

ピアノブラック塗装の樹脂が気になるが、それ以外は上質で快適なインテリア

インテリアパネルは基本的に合成皮革や柔らかい樹脂素材が使われていて、Toyotaのプレミアムモデルとしては十分な質感である。特にドアトリム上部やドアアームレストは柔らかい合成皮革になっていて、長距離運転中に肘を置いても全く痛くならず、質感・快適性ともに満足できる。ドアパネルはリアドアについてもフロント同様の素材が使われており、全く手が抜かれていない。

しかし、センターコンソールやエアコン吹き出し口などはピアノブラック塗装の樹脂となっていて、あまり質感が高いとはいえない。特にセンターディスプレイからメーターにかけては大きなピアノブラック塗装のパネルになっていて、ベゼルの太い20年前の初期の液晶テレビのような古さを感じる。ピアノブラック塗装はすぐ傷がつく上、埃や指紋でベタベタになるから今すぐに禁止すべきだ。そして、最上位グレード含めて全モデルでピアノブラック以外の他の選択肢がない。ほぼ同じメカニズムで価格も同等のToyota Crown Saloonは標準で木目調だ。インテリアの質感を重視するなら価格も性能も同じToyota Crown Saloonを選ぶべきだろう。

さて、センターコンソールをみていくと、真っ先に目につくのはシフトノブの手前にあるワイヤレス充電だろう。目立つ位置にあり充電機器としては使いやすいのだが、運転操作によっては(例えばコーナーで)スマホが滑ってどこかに行ってしまう。今の時代CDプレイヤーなんていらないんだからエアコン操作ボタン下にあるCDプレイヤーを廃して、そこにできるであろう奥まった収納空間にワイヤレス充電を配置すればいいのに。ただ、シフトノブからアームレストまでに腕を遮るオブジェクトがないのでワイヤレス充電をしないのであれば結構良いレイアウトだと思う。センターコンソールのカップホルダーは2つあり、500mlボトルが入る。こいつの欠点は縁がシルバーのメッキ調加飾になっていることだ。晴れた日に運転すると太陽光が反射してかなり眩しい。スコットランドで設計したのだろうか?

センターコンソールのアームレストは革張りになっていて、柔らかくしっとりとしていて質感が高い。この下には収納があるわけだが、このクルマはセンターコンソールの下に水素タンクが配置されているので収納スペースは結構浅い。しかし、USB Type-Cのソケットが2つ、12Vソケットが1つあるので利便性は悪くない。そしてセンターコンソールの下に水素タンクが配置されている故にセンターコンソールの立て付けは非常に良好で、揺すろうとしてもびくともしない。

エアコン操作は基本的に物理ボタンを用いる。素晴らしい。インフォテインメントシステムからもエアコン操作が可能だが、Subaruや数年前のLexusのように「物理スイッチでは最小限の操作、基本的にインフォテインメントシステムで詳細設定できる」というものではなく、操作範囲はほぼ同等だ。また、シートヒータ&シートベンチレーション(Gはヒーターのみ)も同様に物理ボタンで操作するようになっていて、さらにシートヒータ&シートベンチレーションにAutoモードが備わっている。

シートはLexusのシートのような感じで非常に座り心地がよく、サイドのサポート部でほどよく体を包み込んでくれる。そして、シートポジションの設定範囲は結構広く、ステアリングのチルト・テレスコピックの範囲も含めて、ドライビングポジションとその調整は良好だ。

続いてドアポケットについて言及すると、500mlのボトルが2本入るか否か程度のかなり小さく薄いものになっていて、今回のドライブでは2Lのボトルの置き場所に困った。ドアを閉じた音は前後ともにLexusレベルで重厚感は良好だ。リアドアのソフトクロージャーはExecutive Package系にのみ装備される。ドアノブはLexus LCやLSほど造形美を極めたデザインではないものの日本刀のようなシャープな形状になっていてお気に入りだ。

その他収納やフロントインテリアの機能について言及すると、グローブボックスのサイズは大きめで十分。この価格帯なので当然減衰機構も入っているが、他のクルマより説明書や車検証その他もろもろの書類が多いので(多分?)、減衰が負けてしまっている。他にはバニティミラーは当然カバー開閉に合わせて照明がつくタイプで、頭上にはサングラスホルダーやタッチセンシティブタイプの室内照明、Z系グレードはデジタルインナーミラーが備わる。

操作系について「Toyota あるある」な欠点が見られた。普通、スイッチはその種類ごとにかたまって配置される(照明系、 安全装備系、 運転モード系など)ものだが、Toyotaの技術者は何を思ってボタン配置を決めているのか全くわからない。例えば、運転モードに関する操作でも、ドライブングモードの設定はセンターコンソールのシフトノブ下にあるがスタビリティコントロールと(G以外は)SNOWモードはステアリングの右下の水素補給口開閉やバックドア開閉の近くにある。照明系も普通VWやBMWのように1箇所に集めるものだが、なぜか先ほどのスタビリティコントロールとSNOWモードのところにある。その結果、スタビリティコントロール、SNOWモード、オートマチックハイビーム、オートフロントワイパー、(G以外は)360°カメラ、水素補給口開閉、バックドア開閉が集まることになる。物理ボタンにしているのは良いが、本当に難解な配置だ。

Infotainment System

次にインフォテインメントシステムに言及する。今回運転したモデルは途中2022年12月の一部改良前のモデルだったので、インフォテインメントシステムは先代型のものであり、使用感はイマイチだった。グラフィックは悪くないものの、UIや操作に対する反応の速さは現行のものに大きく劣る。エアコン操作についてすでに言及した通りタッチパネルからも操作でき、その操作パネルは常に画面に表示されている。エアコン操作系UIは運転席側助手席側左右どちらか任意の位置に表示できるが、閉じることはできないので、ナビゲーションを見たい時正直邪魔だ。Apple CarPlayとAndroid Autoは2022年12月の一部改良で追加されている。しかしワイヤレス対応はCarPlayのみであり、Android Autoは有線で接続することになる。

ドライバーズディスプレイ(デジタルメーター)はメーターフード内の領域は大きいものの実際の画面は7インチしかなく、表示できる情報も極めて少ない。運転支援装備の作動状況と設定、速度、オーディオの選局、燃費程度しか表示されない。しかし、こちらも2022年12月の一部改良で大きく改善されており、画面が12。3インチに拡大し、Z系グレードはフルカラーHUDも追加された。しかし、表示できる情報やカスタマイズ性はあまり改善されていない。せっかく大きなディスプレイを採用したのだからAudiのデジタルコックピットのようにマップも表示できるようにしてほしい。

Rear

次にリアシートについて言及する。リアシートは正直狭い。フロントシートの下に足先を滑り込ませる空間はなく、身長176cmの私だと膝周りは拳0.5個分空間があるかないか、頭上は指2本分しか隙間がない。パノラミックグラスルーフを装着したり、身長180cmの人だったりしたらかなり厳しい。しかし、小柄な人だったら快適に移動できるはず。シートは深く十分なサポート性と柔らかさを備えており、心地よい。このクルマと同じGA-Lプラットフォームを採用するS22型Crownではシートから座面までの高さが不十分で膝が浮き長距離移動は疲れやすい感じだったが、Miraiはシートが十分に深いので問題ない。後席空間は狭く、前席のシートの厚みと横幅により閉塞感があると思っていたが、ウインドウ面積が広く(そしてちゃんと下まで開く)センターコンソールが幅広いので前方視界も良好で思いの外開放的だった。リアシートは一応3人掛けなので中央にも座れるが、ここは人間が座れる空間ではない。前述の通りセンターに水素タンクがあるため中央の床はセンターコンソール並みの高さで中央席の足元空間は皆無。座面も高いので首をキュッて丸めて無理矢理体を捩じ込まないと座れない。さて、このクルマはExecutive Package系のグレードを選ぶとリアのセンターアームレストに静電容量式の操作パネルが設置され、ここから後席のみ独立してエアコンやオーディオ音量を操作できる。さらに後席両方にシートヒーター&ベンチレーションが設定され、ショーファードリブンとしての用途も可能だ。まあ、Executive Package系にしても空間は狭いままだが。Executive Package系以外のグレードではセンターアームレストはカップホルダーのみ設置されていて、このカップホルダーの開閉動作はLexusのものと同様にいい感じに減衰されており、満足度が高い。また、後席は全てのグレードでUSB Type-Cが2口、AC100V1500W電源が1口あり、充電設備は申し分ない。さらに付け加えると、このクルマは後席左右にISOFIXアンカーポイントが設置されており、一応チャイルドシートを装着できる。しかし、そもそも後席空間が狭く、リアドアの開口部も開口角度も狭いのでチャイルドシートを載せるのはかなり難しい。あと、リアドアにはドアポケットがないことに留意しておきたい。

Boot

さて、最後に荷室を見ていこう。このクルマはセンターコンソール下以外にもリアシートと荷室の間にも水素タンクが設置されているので、荷室から車内へのスルーローディングも可倒式リアシートもない。そのためスキー板など長尺物の積み込みは不可能だ。また、そもそもサイズが極めて小さく321Lしかない。これはCorolla Sportの361Lより小さい。VolksWagen Poloなど荷室大きめのBセグメントハッチバック程度だ。とはいえ実際に使ってみると、意外と積み込みはしやすいのではないかと思う。Lucid Airのように荷室開口部の下の縁が低い位置にあるので、重い荷物を持ち上げて取り出す際も他のサルーンよりは苦ではない(大抵のサルーンは荷室が深くなっていて荷物をある程度持ち上げる必要がある)。また、横幅が広く入り口が絞られていることもないので積載はしやすい。続いて床下収納についてだが、ここには工具類用のスペースしかない。1つ言及するならば、床下収納を開くための取っ手がちょうど荷室の上の縁に引っかかるようになっているので床下収納を使う際はちょっと便利だ(工具しかないので使う機会はほぼ無いが)。そうそう、このクルマは重量配分を前後50:50にするために12Vバッテリーを荷室横に配置している。BMWのような徹底ぶりで気に入った。

Other Equipment

安全装備は、Toyota Teammate Advanced Driveという高速道路でほぼレベル3の自動運転並みの運転支援を実現するシステム(正確にはまだレベル2)が一部グレードに装備される。Advanced Drive非装着車でもアダプティブクルーズコントロールなど先進安全装備は一通り装備されている。Z系グレードではマトリクスLEDヘッドライトも標準装備される。

「排気ガスを出さないのにフェイクエキゾーストか?」と思ったらちゃんとリアルなベントだった

Economics and Price

現在日本国内の水素の価格は1650円/kg であり、Miraiの今回の実燃費は98 km/kgであった(エアコンを使わなければもっと伸びるはず)。ここから計算すると1 km走るのに16.8円かかる計算だ。例えば、同クラスの内燃機関車としてVolkswagen Arteonを考える。この車は実燃費で10.8 kmとのことなので、ハイオクが180円/Lとすると1km走るのにArteonは16.6円かかる。つまり、Miraiのランニングコストはハイオク燃料を使う同クラスの車と同程度であるようだ。

価格は726.1万円~861万円。とはいえ、同クラスの内燃機関車(Honda Accordは545万円~、Volkswagen Passatは525万円~、Volkswagen Arteonは646万円~)より100~200万円ほど高価格であるように感じるし、装備内容は価格相応で充実しているとはいえ内装の質感を考えるとどうしても割高に感じてしまう。しかし、Miraiには補助金という武器がある。Miraiは補助金が(東京都の場合)およそ265.3万円(国145.3万円+東京都120万円)交付されるので、実際の購入価格は460.8万円~595.7万円にまで抑えられる。これなら内燃機関車と比べても十分すぎるくらい市場競争力のある価格になっているし、BEVなど(Volkswagen ID.7は日本に上陸した場合800万円前後と予想されている)と比較しても、圧倒的にお買い得ではないだろうか。また、一部では「Miraiは水素タンクを交換する必要があり、それには200万円もかかる」という声が上がっている。確かに、Miraiの水素タンクは15年の使用期限があるが、そもそもMiraiに限らず一般的には15年も一台のクルマを乗り続けることはあまり考えられない。もちろん、車検では水素タンクの点検費用など内燃機関車とは異なる項目があるが、特別高額という訳ではないようで、車検や水素タンク交換を理由にMiraiを諦める判断は必要ないだろう。

As a FCEV

ガソリンやディーゼルと違って水素はどこでも補給できるわけではない。そのため、ドライブする際は事前に営業中の水素ステーションがどこにあるのか調べておく必要がある。しかし、実際に使ってみた感じ、都内や首都圏に住んでるなら水素ステーションは普段使いできるくらい十分あると思う。「ステーションが足りないから燃料電池車はまだ早い」という意見はよく見かける。確かに地方ではそうかもしれないが、実際にMiraiを使ってみてそれよりも重要なことに気づいた。それは水素ステーションの営業時間だ。大抵の水素ステーションの営業時間は9時から17時まで、一番遅いところでさえ21時とかなり限られている。なぜかというと今の法律だとガソリンみたいなセルフ補充ができないから専門のスタッフがやる必要があるためらしい。都内に居住している場合、他県への長距離ドライブとなると、営業時間までに水素ステーションにたどり着けるかが問題になってくる。それを意識して旅行を計画しないといけないのだ。これさえなんとかすれば(講習や免許でセルフ補充可能にして24h対応するなど)、燃料電池車は電気自動車以上に使いやすい、普及可能なクルマになるだろう。

一方で、BEVと比較すると、水素補給の所要時間がガソリンスタンドでの給油とさほど変わらないことから、BEVのように40分50分も1箇所にとどまり続ける必要はないし、充電器の空き状況を考える必要がないことは大きなメリットだ。BEVだと充電に時間がかかるので、旅行の目的地を充電器(特に急速充電器)があるか否かで決めないといけなくなることも考えられる(実際、私はBEVを試乗するときはそうしている)。

Miraiの航続可能距離については十分なレベルだと思う。理論値で航続可能距離が850km(528mi)。これは燃費にして152km/kgとのこと。そして実測値は今回のようにエアコンを贅沢に使っていると航続可能距離で547km(340mi)、燃費を計算すると98 km/kgであった。このくらい航続可能距離があるなら(今回私は足柄と浜松で水素ステーションに立ち寄ったが)東京浜松間往復も不可能ではない。

Is the Toyota Mirai a good car?

まずこのクルマが燃料電池車であることに目を瞑って純粋に評価すると、このクルマは非常に良くできている快適で優秀なサルーンであると思う。確かに後席の居住空間や荷室の利便性は明らかに欠点だが、前席の快適性や質感、運転する楽しさ、装備内容は全く文句のない仕上がりになっている。主に2人以内で使うのであればほぼ文句なしだ。クルマとしての完成度は極めて高い。私個人としても試乗後に本気で購入を検討しても良いのではないかと思ったくらいだ。

ただし、デビューから4年が経ち、若干”未来感”が褪せてきた感じもする。特にここ1年でToyotaはデザインを大幅に進化させており、他のラインナップと比較するとどうしても物足りなさを感じてしまう。また、質感も補助金込みの価格を考えると妥当であるが、ピアノブラックが多用されたインテリアはプレミアムとは言い難い。そこで、Miraiを検討するならメカニズムは共通であるが、デザインも装備も新しくなり、質感も後席の居住性も圧倒的に改善しているCrown Saloonを勧めたい。Crown Saloonも補助金込みで564.7万円から購入できる(補助金なしで830万円)し、後席の居住性も優秀で、内装もより上質であり、荷室も若干大きい(400L)。Miraiも十分魅力的で素晴らしいクルマだが、今新車で購入するのであれば、さらに完成度の高いCrown Saloonを選びたい。

次に、燃料電池車であることを加味して評価をすると、ちょっとまだ内燃機関車には利便性で劣ると思う。航続可能距離も水素補給にかかる時間も特に問題はないのだが、水素ステーションの営業時間の制約が大きすぎる。また、都内であればそれなりに水素ステーションが整備されていて水素ステーションの数には困らないレベルにはなってきていると思うが、そうでないのならば水素ステーションの数も制約となる。一方で、BEVと比較すると水素補給時間がガソリンと同等であり充電のように何十分何時間もかからないことは大きなアドバンテージとなっていることは確実で、BEVよりは普段使いも旅行もしやすいのではないだろうか。

総合すると、都内など水素ステーションの多いエリアが生活圏の人であれば内燃機関車には劣るがBEVより良い選択肢となる。完成度が高く快適で気持ちの良いドライブを楽しめる素晴らしいサルーンだ。とはいえ、もしMiraiを買うなら質感・居住性の観点からCrown Saloonを勧めたい。一方で1県に1つ程度しか水素ステーションが整備されていない大抵の地域ではまだ選択肢にはなり得ないかと思う。今後の水素ステーション網の拡大と、営業時間の拡大に期待したい。特に水素補給のセルフ解禁などで後者が解決すれば扱いやすさが圧倒的に改善するはずだ。

また乗りたいと思える、とても良いクルマだった

Pros

  • 快適な乗り心地

  • 素晴らしいハンドリング

  • 価格に対して充実した装備内容(補助金を含めると特に)

Cons

  • 狭い後席空間

  • 極めて小さい荷室容量

  • 水素ステーション網が限られている(特に営業時間)

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