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「走る歓び」はここにある。自然と笑みが溢れる"Jinba Ittai"の運転体験。 Mazda Roadster 試乗記録 #5

今回はMazda ND Roadster(MX-5 / MX-5 Miata)に乗ってきた。私はMazdaが全世界で掲げる"Jinba Ittai"(人馬一体)の思想によるドライバー中心の設計、思い通りに操縦できる愉しさが大変好みであった。さらに、魂動デザインの採用や、余白に美を見出し光や風景も合わせてクルマを芸術とする"引き算の美学"に基づいた美しい内外装デザインも、私を虜にさせている。そして、このクルマはそれらの素晴らしいクルマ作りの方向性の最たる例と言えるだろう。今回はせっかくなので東京から群馬へ向かい、下道で碓氷峠を越えて軽井沢にドライブに向かった。

Information

Mazda Roadster (MX-5 / MX-5 Miata)
年式:2022年式
グレード:S
パワートレイン:1.5L 直列4気筒 自然吸気
トランスミッション:6速AT
駆動方式:FR
最高出力: 130馬力(7000rpm)
最大トルク: 152Nm(4500rpm)
車両重量:1.05t

Driving

このクルマを丸一日運転して感じたのは、運転すればするほどクルマが自分の身体に馴染んでいくという感覚だ。帰宅する頃には最早自分自身の一部なのではないかというくらい、まさに人馬一体という感じだ。

Mazdaらしい余計なプレスラインを排除した豊かな曲線は美しいの一言

搭載するのは1.5Lの直列4気筒自然吸気エンジンで、最高出力130hp、最大トルク152Nmを発揮する。トランスミッションは6速ATか6速MT。一部市場ではソフトトップモデルにも181hpの2.0Lエンジンの設定もあるが、本邦でそのエンジンはRFモデルでのみ選択可能となる。

このパワーユニットはパフォーマンス面では明らかに不足していて、普段使いの範囲内でもしっかり踏み込む場面が多くなるため、長距離の旅行のようなGT的用途を想定してしまうと、パワーに余裕がないと感じてしまう。ただ、このクルマはGTでも、ましてやサーキットで速く走るスポーツカーでもない。このクルマの非力さやアクセルの踏み込み量に対する挙動からわかるように、このクルマは"公道で"思う存分踏み込んでいっぱいエンジンを回して楽しむクルマだろう。パワーはなくても、スロットルレスポンスは素晴らしく、踏んだら踏んだ分忠実にエンジンが吹き上がり、エンジンを回せば回すほど適度な速度が出る。この操縦している感覚がたまらなく楽しい。

P5-VP型エンジン

今回乗ったクルマは6速AT。低速域の挙動がDCTのように若干もたつくため、ここはGR86の6速ATの方がスムーズで、街乗りのしやすさという観点では優秀だ。ただ、高速域や峠道では特に問題はなく、逆にアナログ感があって楽しさという観点ではこちらに軍配が上がると思う。

当然MTモードのシフトパターンは「正しい」

ステアリングは十分な重さで、全速度域で遊びが無く、ダイレクト感が極めて強い。GR86は一般のToyota車に近い、低速域で軽い万人が扱いやすいセッティングだったが、このクルマは自らの手でクルマを操舵している感覚が強く、最早ステアリングが自分の身体の一部であるかというくらいクルマからの情報もクルマへの入力も直に伝わる。

マッシブ且つエレガントなスポーツカーたる佇まいのお尻

サスペンションは、一般的なクルマと比べたら硬めではあるものの、思ったよりも柔軟なセッティングで不快感は抑えられている。流石に街中のマンホールの蓋や削れて荒れたような路面は苦手だが、この価格帯のクルマとしては、路面を這うようなダイレクト感と快適性を高いレベルで両立できていると思う。さらに、ボディが軽いためか、そのような足回りでもコーナーでリーンするとか安定感が崩れるとかそういったことも抑えられている。

エンジンサウンドは始動時から低音が五臓六腑に染み渡る。このクルマは踏んで回して楽しむクルマなので、当然走行時のエンジンサウンドも気持ち良い。特に、オープンにしていると直接耳に届くので最高だ。

ここまでは運転感覚の話をしたが、このクルマの魅力はもう一つある。オープンルーフの乗車体験だ。この気持ちよさは格別で、普段使いの環七でさえ、このクルマがあれば最高に楽しいドライブコースになる。こういうロードスターやコンバーチブルは剛性も車重も価格も(クーペに比べて)不利だとか思っていたが、風を感じながら駆け抜けるこの体験は、それらの代償を払ってもお釣りが出る。

オープンにする方法は極めてシンプルで、天井のレバーを引いてロックを解除して、そのまま手動で開いて、最後に「カチッ」と音が鳴ってロックされるまで畳めばok。

ここのロックを解除するだけでオープンにできる
ルーフのロックを解除するとウィンドウが自動でちょっと下がる

逆にルーフを装着する時は、左右席中央のレバーを引くと畳まれていたルーフが持ち上がるので、そのまま手動で展開して、最後にレバーで引っ掛けるようにロックすれば完了。

(バネの力だろうか)小さい力でも開閉できるようなメカニズム的サポートもあるので、(個人差はあると思うが少なくとも私は)片手でルーフを開閉できたくらい簡単だ。

ここのレバーを引くとルーフが浮き上がるので、あとは手で閉じれば良い

ソフトトップ故のデメリットは、断熱性の弱さと、ルーフを閉じても90〜100km/hを超えるとAピラーとルーフの境目付近から強めのウィンドウノイズがすることくらいだろうか。断熱性の弱さは仕方ないが、どうしてもオープンルーフだと寒さが快適性を大きく損ねるので、S Leather PackageやRSなどシートヒーターの装備されるグレードを選ぶべきだ。

今回のドライブは街中から高速道路、峠道と様々な道路を走り、最終的に平均燃費は18.0km/Lだった。JC08モード燃費が18.6km/Lであることを考えるとほぼ理論値通りの数値を叩き出しており、かなりお財布に優しい。

視界は、ルーフを閉じた状態だと後方の見通しが悪く、特に斜め後ろは(顔からルーフまでが近いためか)視認しずらい。しかし、全てが身体から物理的に近いため、周囲の状況を把握しやすく、オープンにすると何もかもを目視で確認できるため、最高に視界が良く運転がしやすい。また、後輪駆動故にクルマの挙動が素直で予想しやすいため、駐車や低速域での取り回し性は優秀だ。

年式にもよるが、安全装備はそれなりに装備されている。私が乗ったモデルは衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱警報は装備されていたものの、残念ながらアダプティブクルーズコントロールは非搭載だった。現行型はアダプティブクルーズコントロールも装備されるので長距離運転も快適だろう。

クルマを再起動した時の設定の保持については、アイドリングストップは毎回リセットされてonになるし、スタビリティコントロールも毎回onになる。車線逸脱警報のみ前回の設定が保持される。

運転関連のシステムのon/off切り替え

Interior and Practicality

Front

ドライバー中心に設計されたコックピット

内装の質感は価格に対してかなり良好で、触れるところは柔らかい素材や合成皮革でできており、プラスチックパーツも安っぽくなく、メタル調のパーツの金属感も強い。エアコン操作ダイヤルはやや軽いチープな感じもするが、全体的にボタンの押し心地も良くできている。部品自体はND型デビュー当時のものがそのまま使われていてMazda 3など他のモデルと比較すると古さを感じるし、「今エアコンは何度に設定されているのか」分かりにくいことが欠点だが、ダイヤルは大径でボタンも大きいので、例えばグローブを嵌めていても扱いやすい。また、あらゆる操作インターフェイスが運転者の手から届きやすいのもお気に入りポイントだ。

ドアポケットはないが、触れるところの質感とクッション性は抜かりない
大径故にグローブをしていても操作しやすいエアコン操作ダイヤル

ドアパネルの上部がエクステリアカラーと同じ色に塗装されているため、クルマとの一体感が増して居心地が良い。

今回の個体はジルコンサンドメタリックなのでドアパネル上部もジルコンサンドメタリック

センターコンソールのアームレスト下に収納があるが、小さく浅いので、財布かスマホくらいしか入らない。エアコン操作ダイヤルの下にUSBポートが2つあり、そこにスマホを収納できるが、最近の大きなスマホや折りたたみスマホは入らないのではないか。

センターコンソールボックスは極めて小さい

このクルマにはグローブボックスもドアポケットもない。小さいクルマで最大限乗員のスペースを確保しつつ軽量化を突き詰めているため、後述する収納の設計を見ると、かなり頑張って設計したんだなと思えてくる。

左右席の間にある施錠可能な収納はそこそこ大きさがあるが、説明書や車検証で半分くらい埋まってしまう。

あまり大きくないが、このクルマで車内からアクセスできる収納は超貴重

左右席を前方に倒すと後ろの小物入れにアクセスできる。左右それぞれ30cmくらいの深さはあるが、鞄などが入るサイズではないので実用的とは言えない。左右に小さな小物入れを設けるのではなく、Toyota MR-Sのようにシート後ろの空間を全て収納スペースにしたような設計にしてほしかった。

小物入れ3つに分けるなら、MR-Sのように1つの大きな収納にしてほしかった

カップホルダーは助手席膝の位置に1つ、左右席の間に2つ装着できる穴がある。カップホルダー自体は標準装備で1つ、あとはオプションで追加可能。助手席膝の位置は助手席に座ってると邪魔なので今回は2つのカップホルダーを両方左右席の間に設置した。設計者の努力が感じられるカップホルダーだが、左右席の間に設置してペットボトルを入れるとセンターの収納が開けない。

カップホルダーを使うとセンターのボックスが開けなくなるのが悩ましい
ここにも設置できるが、パッセンジャーの邪魔になるので今回はずっと左右席間に設置していた

サンバイザーとバニティーミラーは最低限の質感・装備となっていて、細いのであまり遮光性がない。当然、バニティーミラーの照明はない。

軽量化という面では最適化されている

ドライビングポジションは、小さいクルマなので「空間に座る」というより「クルマを着る」と言った方がよいくらいピッタリな設計だ。しかし、全く窮屈には感じられず、ステアリングもシフトノブも各種ペダルも全部自然体で操縦できる位置にある。ちなみに、シートはスライドとリクライニングのみで、リフトアップはできない。

今回の乗車でわかったこのクルマの最大の欠点はシートだ。シートの背もたれの中央が柔らかすぎで、サイドが硬い。それでいて、幅が極めて狭いので、慣れないうちは肩から肋骨にかけてが若干圧迫され続けて苦しい。

ホールド性の高いシートはピッタリ体を包み込むものだが、これは狭い隙間に体を捩じ込む感覚が強い。小柄な人には良いのかもしれないが、多分世界の8割の人は私のように不快感を覚えるだろう。北米でもこのクルマは人気だが、本当にアメリカ人このシートに座れているのだろうか?日本人の私でも窮屈なのに。

幅が狭くて窮屈なシートは要注意

(特に大柄な人は)必ず試乗してシートが身体に合うか確かめるべきであり、納車までに"心地よく座れるためのクッション"を調達しておくべきだろう。(確かにシートは最大の欠点だが、この欠点故にこのクルマを諦めるのは極めて勿体無いので、何らかのクッションで解決したい。)

加えて、腰回りのサポート性がほぼないくらいスカスカなので、ランバーサポートが欲しいと感じた。

Infotainment System

インフォテインメントシステムは7インチのタッチパネルが標準搭載される。今となってはやや画面が小さいため設計の古さを感じるが、コマンダーコントロールからの操作もできるので、運転者も使いやすい優秀なシステムだ。Apple CarPlayもAndroid Autoも有線対応となる。尚、現行型は画面が8.8インチとなり視認性もUXも圧倒的に改善した。

コマンダーコントロールは信号待ちなどで運転姿勢のまま操作できるため非常に助かる

Rear

このクルマはその名前の通り後部座席はない(Roadsterは2座のオープンカーの意の英語)。

まぁ、私のように専ら2人以内で乗る使い方なら2座でも全く問題はないのだが、後席が存在できるくらいの空間は欲しいと感じた。なぜなら、このクルマのようなロードスターではシートがリクライニングできず、例えばSAで仮眠を取るなとといったことができないからだ。これこそ、このクルマが長距離のGT的用途には向かない最大の理由かもしれない。人間の座る空間としての後席は不要な場合でも、リクライニングするための車内空間のゆとりを考えると、ロードスターよりも後席のある2ドア3ドア(クーペならGR86、オープンならLexus IS 350Cなど)の方が良いと強く思った。

Boot

荷室容量は130L(RFは127L)しかないし、入り口が完全に上向きなので、積み下ろしがしづらい。機内持ち込みサイズのスーツケース1つであればギリギリ入るが、2人で旅行するとなるとリュックサックかスポーツバッグを使わないといけない。ただ、大人2人で1泊2泊程度の旅行をするなら、必要な大きさは確保できているため、そもそもこの手のクルマに広い荷室を要求してはいけないことも踏まえると不満はない。

2人での旅行するくらいなら実は困らない……?

当然ながら、長尺物の積み込みは不可能だ。例えばBMW Z4はスルーローディングがあるため、スキー板も積載できるが、このクルマにはない。

Is the Mazda Roadster (MX-5 / MX-5 Miata)a good car?

Mazdaの作り上げた"Jinba Ittai"は本物で、本当に素晴らしい運転体験だった。クルマからの情報がダイレクトに伝わってくるし、私の操縦も全部クルマに正確に伝わる。後輪駆動故のコーナリングの気持ちよさも最高だ。まるでクルマが自分の腕や足の延長線上にあるように感じられるくらい、私とこのクルマは一体となった。さらに、オープンルーフにした時の気持ちよさは格別で、運転するのが楽しいと本当に自然と笑みが溢れるということを実体験した。私自身「新しくクルマを買うならFRのサルーンかエステートかな〜」と思っていたのだが、このクルマに乗車してから「こういうオープンルーフがいい!」と本気で思うようになった。本業が落ち着いたら買おうかな……。

当然、このクルマを買うということは、室内空間や積載性、快適性など色々な要素を妥協する必要がある。ただ、この運転の楽しさとオープンルーフの気持ちよさはそれらの代償を払っても余裕でお釣りが出るほど最高な体験で、ロングツーリングはもちろん、日々の運転さえも笑顔にしてくれる。そして、その極上の運転体験をこの価格(289万円〜, RFで379万円〜)で実現しているのは、(かつてはFiat BarchettaやToyota MR-S、MG TFなどがあったものの)現在このクルマしかない。同様の運転体験を実現できる選択肢はもうBMW Z4やPorsche 718 Boxsterの価格帯になってしまう。

買おうかな……

Pros

・最高に運転が楽しい
・簡単且つ迅速にオープンにできる
・燃費が良い
・この価格帯でオープンカーの気持ちよさとFRライトウェイトスポーツの楽しさを両方味わえるのは唯一無二の価値

Cons

・シートの幅が狭い
・パワーに余裕はなく、ほとんどのCセグメントハッチバックの上位グレードや所謂ホットハッチの方が速い
・荷室や収納は本当に限られている

Alternatives

Toyota GR86
GR86とRoadsterはどちらも一体感のある軽量FRスポーツカーだが、GR86は低速域のステアリングとかアクセル踏み込み量に対する出力とか乗り心地とか変速の挙動とかに、「日常使いも街乗りもできますよ」「GTとしても使えますよ」「お買い物にも行けますよ」というクルマ側からの意気込みと懐の広さを感じられる器用なクルマでもある。もちろん、荷室容量がそこそこ確保されていて、後席もあるので荷物の置き場には困らないという点も重要だ。

一方でRoadsterはドライバーの身体の一部であるかのようにピッタリくっついて、とにかくクルマと路面の感覚をダイレクトに伝えてくるし、それ以外の用途は(大きく快適性が損なわれない程度に)削ぎ落とされている、ピュアな感じ。故に、低速域の乗り心地も取り回しも変速挙動も、全部峠道やワインディングのために完成されている感じで、GR86のように、多少はマルチに活躍できる器用さはあまり無くて、本当にRoadsterのための舞台で最大限輝くためのセッティングになってた。

とはいえ、完全にGR86の方が器用かというと必ずしもそうとは言えない部分もあって、一番大きいのは、GT的用途を考えたときフロントタイヤのグリップが弱くてケツから出たがるから、そういう用途なら安定感重視の兄弟であるBRZがいるし、この点に関してはRoadsterの方が安定感がある。

両方の乗り比べてみると、GR86はサーキットから街乗りまで全部こなせる器用なスポーツカー、MX-5は峠道やワインディングといった公道で実力を発揮しきってフルに味わい尽くせるピュアスポーツという感じだなと思った。故に、一家に1台分しか駐車場がないような都心部在住の人にはGR86(もしくはBRZ)を選びたい。日常的な用途もこなせる素晴らしいFRスポーツだ。しかし、もう一台(サルーンやエステートなど)普段使いできるクルマがあって2台目以降として選ぶなら、私はRoadsterを選びたい。身体にピッタリ馴染む軽量FRスポーツの楽しさと、オープンルーフの気持ちよさの両方をこの価格帯で楽しめる、本当に素晴らしい選択肢だ。


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