
何を作りたいのかが見えてこない。日産は本当にこれでいいのか......? Nissan Kicks 試乗記録 #11
今回はNissan Kicksに乗ってみた。日産"キックス"というと2008年から2012年まで販売されていたMitsubishi Pajero MiniのOEMで軽自動車ながら本格的な性能を備えたクロカンを思い浮かべる人も多いだろう。しかし、そちらはスペルが"KIX"であり、今回のKicksとは全く血縁関係がない。そして同じコンパクトなSUVではあるものの、こちらの"キックス"はモノコックボディに横置きFF、さらにはあくまで基本的に2WDが標準という、所謂"なんちゃってSUV"である。要するに、今最も売れ筋のジャンルのクルマだ。全世界で競合犇くコンパクトSUV試乗に於いて、このクルマはどのような方向性のクルマなのか、数々のライバルに対してどのような戦い方をしようとしているのか、実際に乗って確かめてきた。
Information
Nissan Kicks
年式:2022年式
グレード:X ツートーンインテリアエディション
パワートレイン:1.2L 直列3気筒 自然吸気, モータ(フロント1基)(シリーズ方式ハイブリッド)
駆動方式:FF
エンジン最高出力:80馬力(6,000 rpm)
エンジン最大トルク:103 Nm (4,800 rpm)
モータ最高出力:134馬力(3,410〜9,697 rpm)
モータ最大トルク:280 Nm(0〜3,410 rpm)
車両重量:1.36 t
Driving

このクルマの運転感覚の特徴の一つがサスペンションの硬さだ。かなり硬い。スポーティとは対極な性格になりがちなBセグメントSUVでも足が硬いクルマは少なくないが、このクルマはVW T-Crossのような粘り強いしっかりとした硬さというより、単にハードだ。高架道路の一個一個の繋ぎ目や舗装の凹凸全てで「どすんどすん」と上手く振動を吸収できずにキャビンにまで伝わってくる。故に、乗り心地が良くない。20年前のファミリーカーのような感じだ。
この足回りは完全にダメというわけではない。褒めるべき点としては、この硬い足故に、コーナーでのロールがほとんどないことだ。高速コーナーを強気に攻めても、車体がコーナー外側に持っていかれる感覚が弱く、まるでホットハッチを運転しているように感じられる。コーナーでも安定感のあるSUVは他にもあるが、それ以上にこのクルマは優秀だ。
ただ、果たしてこのようなコンパクトSUVに乗る人が、硬い乗り心地と引き換えにホットハッチのような安定性を求めているのかというと、甚だ疑問である。それよりも、KonaやT-Crossくらいの乗り心地と安定感のバランスの取れた塩梅にした方が売れるのではないか。
では、ホットハッチのような運転感覚を求めている(数は多くはない)層に対する訴求という方向性で足を設計していると仮定しよう。しかし、その方向性だとしても残念ながら評価できない。その最大の理由は、軽過ぎてフィードバックのないステアリング感覚だ。
例えば、Subaru車のステアリングは意図的な遊びがあり、センターから左右5度くらいは無反応な区間があるが、それ以上の角度になるとちゃんと操舵追従性もクルマからのフィードバックも(それなりに)感じられる。Toyota車やHyundai車にはセンターに戻ろうとする弾力がある遊びがあるが、操舵追従性もフィードバックも多少はある。しかし、Kicksのステアリングの感覚はSubaruの無反応区間の軽さが常に続く感じがした。まぁ、"無反応"というわけではなく(そりゃそう)、操舵したらクルマはちゃんと旋回するが、どの速度域でもクルマからのフィードバックや抵抗感が弱すぎるので、ステアリングホイールとクルマのメカニズムが繋がってないのではないかと思えてくる。ある評論家があるクルマ(BYD Atto3だった気がする)のステアリングフィールを「ヒューストンの司令室から火星探査機を操縦しているようだ」と言っていたが、このクルマも同じように言われることだろう。
同じようにハードな乗り心地のライバルだとMazda CX-3が挙げられるが、こちらはクイックでクルマとの一体感の強いステアリングで、運転が楽しい。ホットハッチのようなキビキビと走れる楽しいBセグメントSUVが欲しいならこちらを選びたい。
流石にそろそろ褒めのフェーズに入っていこう。ライバルであるYaris CrossやVeselと比べてこのクルマの最大の特徴はパワートレイン、シリーズ方式ハイブリッドである。このシステムは、全ての速度域に於いてモータでクルマを駆動させ、エンジンは発電に特化している。

故にドライビングフィールは(若干BEVより反応が穏やかだが)基本的にBEVと同じなので、数値的には特別パワフルではないが、初動からトルク全開で気持ち良く加速してくれる。このクラスのSUVの大半がCVTを採用してもっさりとした加速感しか実現できていない中で、この気持ち良さは大きな長所となる。
ただし、静粛性は良くない。モータで駆動するため日産は静粛性の高さを謳っているが、時折エンジンが発電のために起動して、「ブォーン」という低い音が入ってくる。特に、高速域など電力の消費が激しいシチュエーションでそれが目立つ。吸音材が少ないのだろうか、発電中のエンジンノイズは勿論、車外からの騒音を遮ることができていない。故に、モータで駆動している場合でも、静粛性は(エンジンを駆動軸に繋げられるタイプのハイブリッドの)Veselの方が優秀だし、さらに静粛性の高さをこのセグメントで求めるなら、Konaが1番良い。
このクルマにはEco, Standard, Sportの3つのドライブモードがある。Standardモードでのブレーキの感じは、ハイブリッドカーによくあるタイプで、始めは弱く、最後に強くなる感じ。踏んだら踏んだ分ブレーキのかかるガソリン車よりは違和感があるが、ハイブリッドカーとしてはこんなもんだと思う。安定感は強いので、ブレーキを強めに踏んでもサスペンションが鳴いたり、前後に揺れたりすることもない。
Ecoモードは基本的にStandardモードと同じ操作感だ。ただし、Standardモードの挙動に加えて、回生ブレーキがワンペダルドライブになる。このクルマのワンペダルドライブは悪くない。普段ガソリン車に乗っている人でも、1時間も乗れば慣れるのではないだろうか。例えば、Volvoの電気自動車ではアクセルペダルを離すとかかり始めも停止直前も急ブレーキのように強くかかるので、それに比べたらかなり馴染みやすい。
Sportモードにすると、ステアリングの重さは変わらないが、アクセルペダルを踏むと最初からモータのパワーがぶっ放される感じがする。BEVとほぼ同じような感じだ。鋭くて気持ち良い加速ができて、このクルマの長所を最大限享受できるモードだと思う。私は基本的にこのモードを使っていた。ただし、このモードにすると強制的にワンペダルドライブになる。これは、Sportモードでアクティブな走り方をしたいユーザの希望に噛み合ってない。例えば、Hyundai Ioniq 5にはブレーキモード切り替えがあり、それをNormalからSportにすると回生ブレーキをさらに弱くしてよりガソリン車に近い自然なフィーリングにすることができる。さらに(電動車のほとんどにある機能だが)回生ブレーキの強度を段階的に調節できる。日産はSportモードを実装する際に、誰がどういうシチュエーションで使うのか、スポーティな走りとはどのようなものなのか、ちゃんと考えていたのだろうか。ドライブモード切り替えとは独立して回生ブレーキの強度を調節できるようにすればこの点は改善されるだろう。
このクルマはハイブリッドカーだが、燃費は期待してたほどよくない。WLTCモードで23 km/L(市街地23.2 km/L, 郊外25.3 km/L, 高速21.6 km/L)のところ、実燃費は良くて市街地でも19.0 km/Lだった。そして、ちょっと首都高など中〜高速で走ったらすぐ18 km/Lくらいになった。こんな感じだ。まぁ、WR-VやCX-3のような競合の1.5Lクラスの純内燃機関車は15 km/L程度なので、それらよりは良いが、同様にハイブリッドのYaris Crossが実燃費で25〜28 km/Lくらい走るから、ハイブリッド故の経済性のメリットは極めて薄い。特に、高速域での燃費が悪いので、長距離のドライブが多いなら尚更。このハイブリッドは燃費じゃなくてモータ駆動故の加速に惹かれて選ぶべきシステムだと思う。
視界は平均的だが、サイドミラーがドアパネルではなくAピラー付け根にあるタイプなので、クルマによっては三角窓が設けられる位置(Aピラー周り)の死角が気になる。(クーペ風SUVにありがちな)後ろにいくほど造形がせり上がりウィンドウエリアが絞り込まれるデザインのように見えるが、思ったより後席ドアやリアゲートの窓がまともなサイズなので、CH-Rのように視界が極端に悪いわけでもない。


このクルマにはデジタルルームミラーが装備されるが、リアシートにデカい人が乗っていたり荷物がこれでもかと詰め込まれていない限りは無用の長物だ。デジタルルームミラーをOnにすると、後続車やその他オブジェクトとの距離感が掴めない。さらに、デジタルルームミラーをOnにしていても、ただの鏡の時と変わらず反射するので、鏡の像か映像かどちらに焦点を合わせたら良いのか、瞬間的に迷いが生じて危ない。
これは余談だが、今回は深夜に出発したのでリアガラスが凍っていて、「これはデジタルルームミラーの出番か?!」と意気揚々と使ってみたのだが、カメラのレンズも表面も凍ってた。残念。
Interior and Practicality

ドアアームレストやインパネ中央部など目立つところはフェイクレザーで、それ以外は硬い樹脂素材でできている。なんというか、新しさが感じられない。先代型Toyota Corolla WXBや、高級感を謳う軽自動車をイメージしてもらえるとわかりやすいが、つまりカタログを見ると合成皮革のインパネなどが良い質感を出しているものの、実際にキャビンに身を置いて触れて見ると安っぽく感じるやつだ。総合的に見て、このクルマの価格(308〜370万円, このクルマは322万円)に見合っているかというと、より安価な(228万円〜)CX-3の方が質感が高くデザイン的にも洗練されているし、全てが硬い樹脂パネルで構成されるもののデザインが良い仕事をしているWR-Vの方が良い感じだ。
センターコンソールのサイド(ニーパッド)は合成皮革巻きだが、硬いので長時間の運転だと膝の骨に当たり続けて不快。シフトノブの位置は悪くないが、Prius等にもみられるタイプのシフトノブを採用しており、従来のシフトノブと比較して今どのレンジに入っているのかわかりにくいし、何の抵抗感もなくスッとシフト操作ができてしまうので、インタフェースとしてイマイチ。

センターコンソールが低いため、包まれ感はない。パーキングブレーキ横のスペースは仕切り板を展開して2つのカップホルダーにすることができる。センターアームレストはこのクラスにしては悪くない大きさで、柔らかさも十分だが、その下のコンソールボックスは浅く、収納スペースとしての使い勝手は悪い。Yaris Crossのように下位グレードでそもそもアームレストが装備されないよりはマシだが、室内の収納という観点では平均的かそれ以下となる。この点ではKonaが頭一つ以上抜けて優秀だ。



エアコン操作パネルは素晴らしいことに物理スイッチ&ダイヤルで使い勝手が良好。特にダイヤルは径が大きく握りやすいのでグローブなどをしていても扱いやすいだろう。

その下にはUSB Type-Aポートが1つと12Vソケットが1つ。設計当時としては十分だったのかもしれないが、今となっては物足りない。
ドアパネルは特に安っぽい設計で、基本的に硬い樹脂パーツなので、長距離の運転中にドアパネル上部に肘を置くことは想定されていない。一応、ドアアームレストは柔らかい素材で合成皮革巻きだが、なんというかビニール感が強く、逆に質感が悪化している気がする。ドアポケットは1Lのペットボトル1本と500mLが1本余裕で入る、十分なサイズだ。

さて、最低地上高の高いクルマならではの気をつけておきたいポイントだが、ドアパネルがサイドシルを覆っていない。乗り降りするときに、泥や雨水で汚れたサイドシルがズボンのふくらはぎに当たり、汚れてしまう。



運転席シートは形状と(つるつるとしたビニール感の強い合成皮革の)素材の両方が原因でホールド性が弱い。また、Hyundai車ほどではないがシートがフラットでやや硬いのでお尻に馴染みにくい。

運転していて思ったのが、ハザードランプのスイッチが結構ドライバーの手から遠い距離にあることだ。運転中に使うスイッチなのだから、もっと手前に配置してほしい。
フロントシートのみだが、ロッキングタングを採用しているのは好印象。これがあることで、衝突時に体全体が前に瞬間的に移動した際に胸部が過度に締め付けられることを防いで体へのダメージを軽減してくれる。



Infotainment System

このクルマは標準装備でオーディオレス、純正インフォテインメントシステムは27万円(工賃別)のオプションである。このシステムはQashqaiやX-Trailで既に出回っているものより1つ古いタイプのものとなり、解像度やUIのレイアウトは良好だが、動きがカクカクしていて必要な処理にコンピュータの性能が全く追いついていない。残念ながら、Apple CarPlayとAndroid Autoは非対応。
日産はだいぶ昔から360°モニターを売りにしている印象があるが、このクルマにも当然全グレード標準装備される。しかし、デビュー当時はなかなか便利なシステムだったが、今となってはカメラの解像度が荒く、360°モニターだけでなく単なるバックモニターも結構視認性が悪い。デジタルルームミラーに表示するならこのくらいの解像度で問題ないのだろうが、9インチのディスプレイに表示するとなると、実装を見直した方が良さそうだ。


また、360°カメラを呼び出すボタンのアイコンもなんとかしてほしい。ディスプレイ右下にある金平糖みたいなアイコンのボタンがあるが、これが360°カメラのボタンだ。誰が金平糖を押したら360°カメラの映像が出るなんて思うだろうか。カメラのアイコンに"View"と一言添えるとか、そういうもっとわかりやすいものにしてほしい。
ドライバーズディスプレイは右にアナログ速度メータ、左から中央にかけてディスプレイが配置されているタイプで、今となっては古さを感じるものの、設計当時としてはよくあるパターンだ。ディスプレイに表示される情報のカスタマイズ性はほぼない。

Rear

このクルマのエクステリアを見ると屋根が絞り込まれたスタイリングをしているので後席空間が狭そうに見えるが、実際は割と余裕がある。T-CrossやWR-V、Konaには敵わないが、このクラスとしては満足のいく広さだと思う。ファミリーカーとしては十分だ。
頭上空間は、身長176 cmの私で拳1個分くらいの余裕があり、Cピラーの圧迫感も弱いので思ったより閉塞感は薄い。また、肩周りの空間に余裕がある。
(北米仕様等内燃機関モデルではトランスミッションやプロペラシャフトが通る)センタートンネルの幅が広いので、KonaやWR-Vより足元空間が狭いが、Yaris CrossやCX-3と異なり大人が余裕で座れる空間は確保されている。膝前の空間は身長176 cmの私が自分のドライビングポジションの後ろに座って拳1.5〜2個分の余裕があった。大人3人が並んで座るとなると、肩や頭は(このサイズのクルマにしては)大丈夫だが、足の置き場の奪い合いが発生するため厳しい。

ハイブリッドカーなので案の定座面から床面までの距離が近く、足をまっすぐ下ろして座ったら膝下に隙間ができる類のクルマだが、前席下の隙間には余裕があるので脚を伸ばせば問題ない。


センターコンソール後方(リアシート中央)にはUSB Type-Aポートが1つある。この部分が結構リアシート側に張り出しているので、後席の左右移動はややしにくい。

後席用エアコン吹き出し口や、後席用センターアームレストは存在しない。どちらもYaris Crossのような車両価格が低いクルマなら仕方ないが、Kicksの車両価格を考えると装備されていないのは不満だ。
ドアパネルはフロント同様の素材&設計で、樹脂パネルの見た目と触感の安っぽさが残念。ドアポケットには1Lのペットボトルは入らないが500 mLなら入るので、平均的。ドアの開口部はWR-Vのように高さも幅もあるスクエアなものではないが、横幅が十分あるので乗り降りはしやすい部類だと思う。
後席のウィンドウは1番下まで下がる。素晴らしい。
小さな子供のいる人は要注意なポイントだが、ISOFIXアンカーポイントの位置が結構わかりにくい。カバーも溝も無いタイプで、シート生地の向こう側(?)に埋もれてしまっている。故に、チャイルドシートの装着に苦戦しやすいだろう。


Boot

このクルマの荷室容量は423L。BセグSUVとしては十分な大きさで、奥行きも幅も満足だ。ただし、Kicksの荷室はタイヤハウスの張り出しが大きいのと、なだらかに傾斜したボディ形状であるから、大きな荷物や段ボール箱を複数積む場合は期待してたより入らない可能性が高い。より低価格な選択肢であり、ほぼ完全な箱型ボディのWR-Vの方が大きな荷物を積載しやすいし、サイズも458LとKicksより大きい。

荷室には特に機能はなく、袋を引っ掛けられるフックこそ左右計2箇所あるものの、(大抵のクルマに最低限装備されるはずの)床面近くの紐を通せるリングもないので、ロープで荷物を固定することはできないし、床下収納はない。(当然トノカバーの収納はできない)

後席は60:40分割可倒式で、後席を倒すと荷室床面と後席背面の間に大きな段差が生じるし、左右席の境目の付け根にある斜めのパーツが結構邪魔なので、大きな荷物を積載する時に引っかかって苦労する。さらに、荷室入り口にも大きな段差があるので、スーツケースのような大きくて重い荷物の積載が大変。T-Crossなら荷室の入り口から後席の背面まで完全にフラットになるのと、サイズ自体も455Lと大きいので、荷室の使い勝手を重視するならこちらを選びたい。

後席を倒した際にシートベルトが巻き込まれないようにするためのクリップが肩の高さにある。これがなかったら、後席を戻したときにシートベルト全体がシートの裏側になってしまうが、このクリップを使ったとしてもシートベルトのタングがシートとボディの隙間に挟まって取り出しにくい。

Is the Nissan Kicks a good car?
このクルマは、シリーズ方式のハイブリッドシステムを採用したことで、BEVのような鋭くてスムーズな加速を実現している。確かに、その部分にはメーカーの拘りを感じるし、ライバルに比べて魅力的ではある。ただ、それ以外の要素が本当にイマイチで、「どんなクルマを作りたかったのか」「どういう顧客に買ってもらいたいのか」「そもそも売れると思って作ってるのか」が全然見えてこなかった。
スポーティで運転が楽しいクルマにするならステアリングフィールを改善しないとダメだし、逆にマイルドで快適な性格にするには足回りがハードで乗り心地が悪い。どういう方向性にしたいのか、全くわからない。確かに、Yaris CrossやWR-Vも洗練度や質感であればKicksに近いかもしれないが、それらは200万円前後で買えてしまうクルマだ。Kicksの価格は308万円〜370万円と、国産BセグメントSUVとしては高価な部類であり、標準でオーディオレスであるから、純正ナビゲーションシステムを装着することを考えるとなかなかな価格になる。しかし、遮音性や内外装の質感は到底そのレベルではなく、ありとあらゆる場所にあからさまなコスト削減設計が見受けられるし、乗り心地の洗練度合いやインタフェースの設計からは10年以上前のクルマのような古さが感じられる。50万円以上価格帯が下のVeselやCX-3の方が圧倒的に質感が高くて造りも良いし、設計も新しい。
したがって、このクルマが選択肢になることは極めて難しいというのが私の結論だ。Kicksの予算で似たサイズのSUVを選ぶなら、利便性・居住性に優れていて性能も優秀なT-Crossや、快適で質感の高いVeselあたりがより良い選択肢になるし、質感も運転の楽しさもハイレベルなCX-30、利便性も居住性も一気に拡大するCorolla Crossなど一つ上のセグメントのSUV、さらには(下位グレードなら)HarrierやCX-60も余裕で視野に入り、選択肢は大きく広がる。さらに、(補助金を含めると)Hyundai Konaも良い候補になる。BEVだが航続可能距離も余裕があるし、装備も利便性も快適性も高いレベルで実現している魅力的なクルマだ。
さて、Nissan Kicksは北米で既に次期型が出ているので、(普通のメーカーなら)日本向けもそろそろ世代交代すると思われるが、Mk.3 Rogue(Mk.4 X-Trail)を北米で発売してから日本で発売するまで2年も遅れた日産なので、Kicksもしばらく現行型の販売が続くだろう。
次期型は質感も装備も大幅に改善されていそうなので期待したいが、おそらく日本向けはシリーズ方式ハイブリッドのみとなり、価格帯も現行型と同程度かやや高くなることが予想される。素直に北米と同じ2.0L純ガソリンモデルを出せば価格を大きく抑えられて、ライバルとまともに戦えるようになるのに……。果たして日本仕様の次期型はどうなるのか、デビューしたら後日試乗してみたいものだ。

Pros
・モーター駆動故のスムーズで力強い加速
・コーナーでも安定性が高い
・十分な広さの室内空間と荷室
Cons
・硬い足で乗り心地が良くない
・ステアリングが軽過ぎて、操舵感・クルマとの一体感が極めて希薄
・価格に対して内装が安っぽいし、設計の古さが隠せていない
・純正オプションのインフォテインメントシステムは反応が鈍くて使いにくい
・Standardモード以外のドライブモードでは強制的にワンペダルドライブになる
Alternatives
VW T-Cross
368万円~と、Kicksと比較して同等かやや高めの価格帯となるが、室内空間も荷室もかなり広く、フルフラットになる荷室床面や充実した標準装備など細部まで作り込みが良い。経済性はハイブリッドモデルのライバルに劣るものの、小排気量ながら十分なパワーのエンジンやキレの良いトランスミッションなど、運動面の完成度も高い。Kicksくらいの予算で完成度が高く優秀なBセグメントSUVを探しているならT-Crossは必見だ。
Hyundai Kona
CセグとBセグの中間の大きさで、サイズ感はKicksに近い。BEVなので本体価格は399万円~で、予算的に比較対象にならなそうに感じられるが、東京都内であれば110万円(国65万円+東京都45万円)の補助金を受けられるので実質289万円~になり、一気にKicksより安価になる。そして、下位グレードでもKicksの上位グレード以上に装備が充実しており、室内空間の広さも荷室の広さもクラストップレベルとなる。また、特別高級感があるわけではないが、質感もKicksより圧倒的に優れていて、作りが良い。航続可能距離は最大625 km(私が試乗した時の実測値は94%程度)もあるから、「BEVもアリかな……」とほんの僅かでも思っているなら、Konaに試乗してみるのもおすすめだ。
Honda WR-V
質感や機能性はKicksと大差ないが、後席の空間が(頭上も足元も)BセグメントSUVトップクラスの広さであり、荷室も大きい。さらに、209.8万円〜(+純正ナビゲーションシステム16.3万円)という低価格も魅力的だ。Kicksよりも予算を節約しつつ、利便性をさらに求めるならかなり良い選択肢になるだろう。ただし、エンジンは非力で性能は最低限といったところ。ここからさらに運転感覚や性能も求めるなら、Kicksと同程度の価格帯であるT-Crossが良いだろう。
Honda Vesel
純内燃モデルは264万円〜、ハイブリッドモデルは288万円〜377万円と、Kicksより若干お手頃価格のSUV。内装の質感の高さや柔らかで快適な乗り心地などが魅力で、作りも走りもKicksより洗練されているし、室内空間はKicksと同程度の十分な広さが確保されている。ただし、荷室は319Lしかないため大人数での旅行など荷物を多く積み込みたい場面で物足りなさを感じるだろう。主に短距離の使用、或いは荷物の少ない人で快適なコンパクトSUVを探しているならピッタリだと思う。
Mazda CX-3
荷室も後席空間もクラス最小レベルで、利便性は妥協する必要があるが、クルマとの一体感が強く機敏なステアリングやレスポンスの良いエンジンが魅力的で、BセグメントSUVとしては最も運転が楽しいクルマと言っても過言ではないだろう。また、ガソリンモデルで227万円~、ディーゼルモデルで279万円~と充実した装備内容や内装の高級感の割に手頃な価格も嬉しい。1~2名乗車前提であり、運転の楽しさを重視したいなら良い選択肢となる。
Toyota Yaris Cross
ガソリンモデルで190万円~、ハイブリッドモデルで229万円~と、クラストップレベルの低価格と経済性と高さが魅力的なクルマだ。とはいえ、質感や装備、快適性は価格相応なので、洗練度で言えばKicksと大差ないかやや劣るし、ここに挙げたクルマの中では比較的小さいクルマなので荷室も室内空間も期待できない。クルマにかけるコストを極限にまで抑えたい人におすすめしたい。(追補:上位グレードで後席が40:20:40分割可倒式なのは驚いた)