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セレブ亀の恩返し①
N氏は夕方になると、近所のため池に来る。
亀たちにエサをやるためだ。
今日は甥っ子と一緒に、亀にエサをやりに来た。
甥っ子と一緒に魚肉ソーセージをちぎって投げる。
亀たちは集まってきて、パクパクとたべていた。
するとため池の前の邸宅から、N氏と同じくらいの背格好の男が現れ、紙袋から食パンをとりだし、ちぎって、投げはじめた。
男は、軽やかに、慣れた手付きで、ポンポンと食パンを投げる。
すると亀たちはすさまじい勢いで、食パンに食らいつき、奪いあいをはじめた。
N氏と甥っ子はすごい勢いの亀たちを見ていた。
「カメ!カメすごい!」
甥っ子が叫ぶ。
「すごいねー」
N氏は甥っ子の横でつぶやき、その男の手元を見た。チラッと。
――え!?
男が持っている紙袋は、近所で有名なパン屋さん「ルビーをつけながら」の袋であった。
――亀にあげるには、高すぎないか?この亀、俺より良いパン食ってるな、、
男は、パンの入っていた紙袋をくしゃくしゃと丸め、ジーパンの後ろポケットに入れ、意気揚々と家に戻っていった。
うむ。
N氏は謎の敗北感に包まれ、甥っ子とともに家に戻った。
次の日の朝、N氏は甥っ子をつれて、車で遠出して有名店「わたし、入籍します」の食パンを買い求めた。
「ルビーをつけながら」、と同じベーカリープロデューサの携わる系列店の食パンである。
――リベンジだ。
ため池の前に立ち、N氏は、食パンをちぎって、投げいれる。
亀たちがゆっくりと集まってきた。
――そもそも、ベーカリープロデューサーって何してる人だ?
そんなことを思いながら、パンを投げていた。
すると、
「パン、パンちょーだい」
甥っ子が、言うのでちぎって渡すと、
そのまま食べはじめた。
N氏は自分の行為が、バカらしく思えてきた。
――うん、家帰って、このパンでたまごサンドでも作って食べよう、、
亀たちはパクパクと「わたし、入籍します」のパンをつまんでいた。
すると、邸宅から男が現れた。紙袋を持って。
男は無造作にパンをちぎって、投げ入れはじめた。
N氏は男の手元をみる。
――嘘だろ、、
それは「銀座 に志かわ」の紙袋であった。
〈続く〉