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甘やかなるひみつ

鏡台の手に取りやすい位置にある、少しくすんだ紅色のリップスティック。
広告のモデルさんのくちびるが、あまりに可憐だったので心惹かれた一本だったが、購入の決め手は「おいしいそうだったから」であった。

化粧品を買い求める時は、必ずレビューを確認する。私はメイクがあまり上手ではないし、何より肌が荒れやすい。扱いやすくて低刺激な品であることは、購入の必須条件だ。
レビューを見る。ふんふん、くちびるが荒れたっていう口コミはないな。よしよし。でもうーん、付属の刷毛でくちびるに塗るタイプの口紅なのか。私に扱いきれるかしら……。
悩みながら画面をスクロールしていると、一件の口コミに目が留まった。

「口に入ると甘いところが好きです。シロップみたいな感じでおいしい」

リップスティックのレビューなのに、色味や使い心地には一切触れておらず、ほとんど食レポのようなその投稿。だけど私はその人の感想に、すごく心を動かされた。
くちびるが甘いだなんて、なんてエロティックでかわいらしい秘密だろう。
購入ボタンを押していた。


数日後、リップスティックはていねいに梱包されてわが家にやってきた。
受け取ったその足で洗面所に向かい、鏡を見ながら使ってみる。少しくすんだ紅色は、くちびるにのると、思っていたより華やかに発色した。

おそるおそる、くちびるを内側にしまいこんで、舌先でくちびるをなぞってみる。

甘い。

お砂糖と煮詰めたいちごのように艶々と、そして赤く色づいたくちびるは、見た目から期待する通りの甘い味がした。
うれしくなって、頻繁にちろちろと舐めてしまったものだから、夕方になる頃には、くちびるはほとんど元の色に戻ってしまっていた。

懸念していた通り、少し扱いづらい。
なので化粧ポーチに入れて持ち歩いたりはしないけど、じっくり鏡と向き合う余裕のある朝は、そのリップスティックを使ってメイクをする。
そうして出かけ、忘れた頃にくちびるを舐め、その甘さに不意を打たれると、私はたまらなくうれしい気持ちになるのだ。


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