眠りと猫は似ている
明日が待ち遠しい夜。
明日が憂鬱な夜。
誰かのことが気がかりな夜。
何かすべきことを後回しにしてしまっている夜。
私はわかりやすく寝付けなくなってしまう。
布団に横たわり、目を瞑り、呼吸を整えて、いつもなら気にするまでもなくやってくる眠気が、今夜はやけに遅い。考えごとの根っこが徐々に引っこ抜けて、私から離れ、思考が思考を呼んでふわふわと漂うような時間がやってこない。
ひょっとして、今晩、眠れない夜?
そう察してしまうが最後、本当に眠れなくなってしまうのだ。
眠気というやつは猫に似ていて、気まぐれで思い通りにはならない。
「今はいけません」という時に限ってすり寄ってきて膝の上で丸くなり、人を動けなくするくせに、待ちわびる態度が見て取れると絶対にやってこない。
本当に眠りたいと思う夜は「お前のことなんて待ってないよ」というポーズを取るに限る。
昨夜はそれに失敗した。
明日は月曜日。早く眠らなきゃ。……また一週間が始まるぞ、いやだなぁ。あぁ、書きかけのエッセイはきちんと面白くなるかしら。週末には夫に会えるぞ、嬉しいな。すべきことをして堂々と会いに……明日からまた忙しくなるから。やだ、早く寝ないと……。
不安、楽しみ、焦燥感。
眠れない要素全部盛りじゃん。
そう気づいてしまったせいで、眠気は私の元に寄り付かなくなってしまった。
とはいえ目を瞑ってじっとして待つ他ない。眠気よ来い、いや待ってなんかいないんだけど……大丈夫、少し眠くなってきた気がするから。
こちゃこちゃうるさく頭の中で考えていると、突然、私の枕がスッと沈んだ。それと同時に、右頬にチクチクとこそばゆい感覚。
猫だ。猫が来たのだ。
猫が私の枕に座り、布団の入口を覗き込んでいる。どうやら冷房で寒くなり、布団の中で眠りたくなったらしい。長いヒゲが私の頬を撫でている。
猫は眠気と似ている。一緒に寝ようと誘っても来てはくれないが、こうやって他のことに気を取られている時、ふと気づけば近くにいる。
布団の入口を持ち上げ、猫に中を見せる。猫は迷っている。依然として目は閉じているけれど、猫が布団の中と私の顔を交互に見比べているのがわかる。色気を出してはいけない。私はお前と一緒に寝たいだなんて、別に思っていないよ。
今度は見事欺けたらしい。猫がしゅるりと布団に入ってゆき、突き当たりでくるりとUターンし、私の右肩にのしりと顎を乗せて丸まる。そしてまもなく、穏やかな寝息。
ふわふわだな。温かいな。かわいいな。……しかしこいつ、重いなぁ。右腕が壊死ししちまいそうだぜ。
目を閉じたまま、猫のことを考える。猫を前にしてしまえば、他の悩みごとなど取るに足りない。
そうこうしているうちに、眠気は私のそばに忍び寄っていた。
猫の重みに引きずられて、沈むように眠った。
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