
オーラル・ヒストリーの事例集
オーラル・ヒストリーに何ができるか?
その可能性を探るにあたって参考になったのが、アメリカのオーラル・ヒストリー学会(Oral History Association)が「オーラル・ヒストリーを活用して現代の学問に大きく貢献した本」として2015年に表彰した Listening on the Edgeだ。
「危機の後に行われたオーラル・ヒストリー」という副題の通り、戦争や自然災害、政治革命、民族弾圧など様々な「危機(Crisis)」における人々の経験談をまとめている。オーラル・ヒストリーによる12事例が紹介され、各章の後半にはインタビュー担当者による分析が掲載されている。
事例として登場するのは、地方紙や大手メディアによって報道された危機。例えば、2005年にアメリカのフロリダ州に壊滅的な被害をもたらしたハリケーン・カトリーナ、2001年のニューヨークの同時多発テロ、1994年に起きたルワンダの民族虐殺など、日本でも新聞やテレビを通じて見聞きしたことがあるものばかりだ。既にジャーナリズムが取り上げている出来事を、わざわざオーラル・ヒストリーの手法で聞き取る意味は、どこにあるのだろうか?
際立つジャーナリズムとの違い
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