味変でデリヘルに行った話
これは昔から再三述べているが、人間とは常に何かを汚し続けている生物である。富を求めて奪うし、未来を求めて蹴落とすし、優しさを求めて潰すし、愛を求めて裏切るし、理解を求めて拒絶するし、許しを求めて強要する。
罪を償うために、罪を塗りたくっている。
なんて気持ち悪く、矛盾している生き物なのだろう。自分もその一人なんだと思うと死にたくなる。まあ、思うだけで実行するほど、自分はできた人間ではないのだけれど。
なんて、いつも通りの戯言を脳に這わせながら過ごしていた、某年某日の肌寒い時期のこと。まだ暖房を出していない自室の隅で、謎の虚無感に襲われていた。
ゲームをしてもつまらないし、執筆は一文字も書けないし、ソープへ行くには遠いし、何をしても何も得られない。低賃金で低身長の低能が、ただ無意味にエネルギーを浪費している。
このままではまずい。負のスパイラルから抜け出せなくなってしまう。
そう思い、危機感を覚えながらスマホをなぞる。幸いなことに、つい最近給料日だったので金に余裕はある。こういうときは、ぱあっと使って気を晴らしてしまおうか。
近くの現在をハッキリさせるために遠くの未来をぼやけさせるのは、老眼鏡の仕組みみたいだ。なんて思いながら近所で遊べる店を調べていると、画面全体を覆う大きさの広告が、自分のスマホをジャックした。
地域最大級の格安デリヘル! ご新規様歓迎!
もちろんそのピンクに光る広告はすぐに閉じたが、退屈から抜け出せるヒントは見出せた。
アニコス風俗に挑戦したときの、とても充実した気分をもう一度味わってみよう。残念なことにコスプレはないが、デリヘルという特別感から味わえるものがあるにちがいない。実家住みなのでホテルにはなるが、ソープよりゆっくりできるし。
根拠はないが、心が叫んでるんだ。
困っていそうな人に声をかけるときと似た正義感に駆られた自分は、スマホをより強く握る。もちろん人助けなんてしたことないのだけれど、この焦りのような何かは、多分きっとそうだろう。
1時間くらい吟味し、脳内のゼーレが熾烈な議論を重ねた結果、どのサイトのランキングでも若干下に入っている店舗となった。
というか、他の店舗に電話したらどの女の子も埋まっていて、その店しか空いていなかった。マジでどうなってんだこの町。煩悩まみれのおっさんしかおらんのか。
自分がこうなってしまったのは、この恐ろしい町で生まれ育ったせいだと責任転嫁しつつ、出かける準備を淡々とこなす。すべての支度を終えてホテルに到着したのは、19時ごろだった。
ここでデリバリーヘルスのシステムについて解説するのが、更なる読者の獲得へと繋がると思うので、少し語らせていただく。
デリバリーヘルス通称デリヘルとは、名前の通り、ピチピチギャルが指定した場所へと赴き"色々な"サービスを提供してくれる店舗である。なお、当方はホテルでしか利用したことがないので、自宅での利用を知りたい場合は他をあたってほしい。
では、大まかな流れを説明しよう。
まずは店舗に電話をし、目当ての娘のスケジュールが空いているかどうかを確認。いま空いていても、次の予約を考慮してこの範囲までしか移動できないというのもあるので、当日予約はあまりオススメできない。まあ、自分はそれをしたのですが。
ここで指名なし、つまりフリーにするのもナシではないが、男の仕事の8割は決断であると、どこかの誰かも言っていた気がして、自分はしっかり指名する縛りをもうけている。そのせいで思っていたより時間をくってしまったが、これからの事を考えたら些事である。
次にホテルへ向かい部屋をとり、入室した後に再度電話をして到着したことを伝える。何度も電話するのは手間ではあるが、その手間を楽しむのが真の漢と言えるだろう。
そして女の子が到着したら、お楽しみの時間が始まるのだ。これが一連の流れ。
話を主軸へ戻そう。
今回、近所で最も安いラブホテルを選んだ(前から気になってた)のだが、エレベーターが動く際ハリーポッターに出てくるマンドレイクの鳴き声みたいな音が聞こえたし、部屋の壁のあちこちにヒビが入っていた。ここ大丈夫かマジで。事前に大島てるで調べておけば良かったかもしれない。
カーペットのシミを見て親近感を覚えたり、指名した今ドキ系でちょっと性格キツそうな顔をした巨乳の女の子について考えたり、謎に腹筋をしたり、携帯をいじったりして待機する。
店舗へ電話かけた約30分後、扉がノックされた。
——それは術師の常套手段であり
成人男性であれば本来防げたであろう凡策——
勝利を確信した者への
急襲
こちらがドアノブに触れるより速く、扉がこじ開けられる。危うく突き指しかけるが、そんなことはもうどうでもいい。ただ目の前にいる存在が気になって仕方ない。
え、ここ界王星?
目の前に自爆寸前のセルがいるんだけど。
は?
そう驚くのも束の間、それは自分を押しのけて部屋へ侵入してきた。もう逃げられない。
「こんばんは」
挨拶をされたので反射的に返す。こんばんは。
「メイです」
叫びかけたが、何とか飲み込む。自分は瞬時に"やられた"のを理解した。さっきまで見ていた、今ドキ系でちょっと性格キツそうな顔をした巨乳の女の子の名前も、メイであったのだから。
股間に集中していた血液が全身に拡散する。
新手の強盗ではなかった事に安堵するべきか、ここまでひどいパネマジをくらった事に絶望すべきかわからないが、とりあえず落ち着こう。
精一杯の意地を張って、メイちゃんを歓迎する。
たとえそれが毒であろうとも、出されたものをマナー良く喰らい尽くすのが紳士である。この程度で不満や文句を垂れるようでは、真の風俗好きとは言えないだろう。
自分の愛想笑いを見て笑い返したメイちゃんは、ゆっくり荷物をテーブルに降ろしてから、やけに大きな声でこう言った。
「電話ァしますね」
どうぞ、と促す。
女の子が現地へ到着した時にすることといえば、電話である。もちろん相手は友達などではなく店舗だ。無事に到着して、これから行為をするというのを伝えるのだ。
普段ならこの連絡だけでご飯3杯はいけるのだが、どうやら今はお腹いっぱいらしい。不思議だね。
携帯を耳にあてるメイちゃん。最近のスマホはやけに小さいようだ。スマホといえば、そろそろ自分も買い換えなくては。6年も前に買ったスマホをいまだに使い続けているので、そろそろ限界が来ている。
なんて考えていたらメイちゃんのスマホが店舗に繋がったようだ。
「ウェイ?」
メイちゃん、中々にファンキーである。
え? 最近の陽キャって上司にもそんな感じなの? こわ。
その様子に恐れおののきながら話を聞いていると、あることに気づいてしまった。
なんと彼女、日本語を喋っていないのである。発音からして、恐らく中国語か韓国語だろう。
スマホに向かって、わけのわからない言葉を発し続けていた。パネルどころか国まで違うパターンとは驚きである。そういえば、電話しますねと言った時もイントネーションが若干変だった。
たしかに住んでいる所が神奈川と書いてあっただけで、出身は書いていなかった。
けれどさ、いきなり国際交流が始まるとは思わねえじゃん。心の準備というものがある。
……一応出身きいてみるか。
連絡が終わったのを確認してから、勇気をもってこちらから話しかける。
「あの、メイさんはどこの方ですか?」
「アー……わかりません」
「出身はどちらですか?」
「ごめんなさい」
うそだろ。話が通じねえ。
これから自分はどこの国の出身かわからない人にサービスしてもらうのか? というか、ここまで相手とコミュニケーションが取れない娘をデリバリーしてきた店舗は喧嘩を売っているのか? そもそも、写真と違いすぎないか? 一致しているのは性別くらいではないか? なぜ自分は日を改めてでも人気店にしなかった?
不安が心を乱し、思考が暴走する。
しかし今回ばかりは仕方ないだろう。
現実から逃げるためにデリヘルを呼んだら、現実よりも残酷な夢を見せられているのだから。
プレイ内容自体はいつもと変わらなかったので今回は割愛する。爆発的なビジュアルと、浴びるほどキスマークを付けられたこと以外は、普通によかった。いつも通りシャワーを浴び、サービスをうけ、帰ってもらっただけ。
あの思い出を振り返るとつらいものがあるので、さっさとまとめに入ろう。
このようなことにならないために、諸君らもデリヘルで遊ぶ際は必ず人気店にしよう。そしてこの自分の無念を、どうか晴らしてほしい。
では今回はここらへんで。
どうか皆さんが自分より不幸になりますように。