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僕という宇宙の解体新書

 自分の投稿記事一覧を見たら、風俗の話ばかりだった。真面目な物語は図書館に行けばいくらでも読めるし、みんなは僕に対してアングラでコミカルな内容を求めているに違いない。実際、風俗話は周りからの反応が特に良いし、何より気楽に書けるのだ。このまま風俗レポライターになってしまおうか。

 と思ったが、僕は捻くれているので貴様らに冷や水を浴びせてやりたい気持ちが勝った。

 だから今回は自分語りをしようと思う。ただ淡々と事実を述べるだけなので、いつものようなノリは期待しないでほしい。しかも正常でありふれている話だ。ゲロで興奮したとか、セクハラしすぎて学年主任に怒られたとかではない。

 それで、先にどのような内容かハッキリ述べると、今回は僕が文章の奴隷になった経緯についてだ。当たり前だが、僕は文章を愛している。書くのも読むのも好きだ。将来は文章で飯を食っていきたいと思うほどに。では、何故そこまで文に依存しているのかを語ろうか。さっさと本題に入らないと、読者が飽きてしまうからね。

 僕は最初から文章が好きなわけではない。むしろ嫌いだった。とくに書くのが苦手で、作文はいつも名前とクラスだけ書いた原稿用紙を提出していた。何を書けば良いのかわからなかったからだ。少し欠けてはいたけれど、物事に対する感情や想いが全くなかったわけではない。算数のように、明確な答えがないから困っていたのだ。何を求められているのか? 何が正解なのか? それがわからなくて、一切書けなかった。

 周りの人間が文章の書き方をちゃんと教えてくれなかったのも要因の一つだろう。いくら訊いても、思ったことを書けば良いんだよとだけ言われる。当時小学生だった僕には理解できなかった。

 そんな僕が感想文を書けるようになったのは、中学生の頃だ。当時の僕は作文を書かなかったせいで、居残りをさせられてた。たしか工場見学についての作文だったと思う。僕はいつも通り、帰らなければいけない時間になるまでぼうっとしているつもりだった。帰ったらどのゲームをやろうかな、授業中にテロリストが来たらどうしようかな、なんてことを思案していると、僕と同じく居残りさせられていたクラスメートに話しかけられた。

 「なあ、何してんの?」

 「何もしてない」

 「書かないの?」

 「まあな、何書けば良いのかわからないし」

 クラスメートは一瞬ポカンとした顔をしたが、すぐに何か思いついた表情を見せる。

 「じゃあ喋ろうよ。最近何のゲームしてる?」

 僕は暇だったので、クラスメートとゲームの話をした。内容は忘れてしまった。多分ドラクエだったはずだ。ひとしきり話し終えた後、クラスメートは僕にこう言った。

 「じゃあ今の話を作文にしよう」

 「は?」

 そいつは至極真面目な顔をしていた。僕は意味がわからなかった。

 「工場見学は何書けば良いかわからなかったので、ゲームの話を書きますって最初に書いて。ほら早く。ハリーハリー!」

 クラスメートに急かされながら、僕は言われた通りに書く。そして、ゲーム話をしていた僕の物真似をし続けるクラスメートの言葉を、一言一句そのまま書き連ねた。

 「ほら、これで作文完成したじゃん」

 僕の手元を指差しながら、クラスメートはニカっと笑った。たしかにそこには、文字で埋まった原稿用紙が数枚あった。僕は混乱しながらも質問をする。

 「いや、これってただの会話じゃん。工場見学関係ないけど?」

 「それで良いんだよ、作文なんて。思いついたことを書けば良い」

 その日以来、僕は文章を書けるようになった。やり方を教えるだけではなく、一緒に書くのを手伝ってくれたのは、そのクラスメートが初めてだった。僕にそこまでしてくれた理由は不明だ。だがそのおかげで、僕の中にあった濃霧は晴れた。ありがとう。

 僕はかなり忘れっぽいので、そのクラスメートの顔や名前を一切覚えていない。彼なのか彼女なのかも分からない。卒業アルバムをめくっても、それっぽい肉の塊が並んであるだけだ。もしかしたら、そのクラスメートは僕の妄想だったのかもしれない。

 けれど、そいつが僕の恩人であることは絶対的な真実だ。だから僕は長い文章を書く時、誰でもない誰かに毎回感謝している。益になるものは何も返せないけれど、想いならきっと届くはずだから。

 さて、そろそろ話を変えよう。

 舞台は高校の頃にうつる。当時、漫画研究同好会の副会長であった僕は、文化祭で何か漫画を描かなくてはならなかった。ダラダラとソシャゲをやるために自分の代で復活させた同好会だったので、過去の作品を使い回すという手も使えなかったのだ。

 どうせ誰も文化祭に来ないので、別に漫画を描くのは構わなかったが、とある問題が一つだけあった。

 僕、絵、下手。

 これは作品を創り上げる際に大きな障害となった。イメージに手が追いつかないのだ。僕は苦悩する。どうせなら、納得のいくものを出したい。足りない脳で考え抜いた結果、文化祭の二週間前に最低な考えが思いつく。

 漫画ではなく文章だけなら僕でも思い通りに創れるんじゃね?

 デッドラインぎりぎりに完成したそれは、当時の僕にとっては傑作だったが、今思うとひどいものだった。起承転結が滅茶苦茶で、文章が今以上に読みづらい。その上キャラと内容とも薄っぺらく、テーマもない。ライトノベルを作った気でいたが、あれはホコリよりも軽いゴミだ。とても作品とは言えない代物だった。今すぐ高校にリメイクした作品を贈りたいくらいだ。

 けれど漫研の会員たちは、そんな僕の駄文を読んで面白いと言った。ここの文章が好きとか、このキャラが面白いとか、とにかく褒めちぎってくれた。

 その時にはじめて、世界が僕を認めた気がした。ようやく生きていることを赦されたのだ。会員たちの言葉は、きっと嘘かもしれない。裏で馬鹿にされていたのかもしれない。けれど僕は救済された。それが悪魔の手だとしても、僕はその手を掴んで空虚から出てこれたのだ。他人の考えを奪いたいから読書も始めた。何もかも駄目な僕は、自分で作品を考えることができないからだ。

 という訳で僕は今も文章を書き続けている。僕の文章が褒められている間だけは、生きていても良いと思えるのだ。

 以上が文章の奴隷になった経緯だ。前述した通り大した話ではないし、ありふれていてつまらなかっただろう。しかし、たまには風俗以外の話をしたかったのだ。どうか温かい目で見守ってほしい。

 では、また近々。次は明るい話をしたいね。

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