世界一わかりやすい恐竜教室①ティラノサウルス・レックス
はじめに
はじめまして!零井あだむと申します。
小さい頃は恐竜博士と呼ばれていたのに、気が付けばただの社畜です。
もちろん今でも恐竜は大好きなのですが、たまにSNSやネットなどで恐竜の話題を見ていると、
「大人になって改めて恐竜に興味を持ったけど、昔の知識と全然違う……」
「子供が恐竜好きだけど、言ってる事が全然わからない……」
こんな声を耳にするようになりました。
確かに、日々の研究は進歩しており、十年前に常識とされていた知識が、今では全く通用しなくなってしまうこともあります。
さらには様々な説やネットなどで流れている根拠の無いウワサなど、どれが正しい恐竜知識なのか、全然わからない……という声も。
・大人になってから、改めて恐竜を勉強してみたい元恐竜キッズの方々。
・子供といっしょに恐竜を楽しみたい、お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんの方々。
そんな方々の為に、知っているようで実は知らない恐竜知識を、あわよくば世界一レベルにわかりやすく解説したいと思って筆を取ることにしました。
記念すべき一回目に解説させていただく恐竜は……
皆様ご存知、地球史上最大の肉食動物、ティラノサウルス・レックスです。
ティラノサウルス・レックス
全長:およそ12メートル
生息地:北アメリカ(アメリカ・カナダ)
食性:肉食
名前の意味:暴君トカゲの王
①とにかく頭がでかい
頭がとにかくデカイです。
ただデカイだけでなく、もちろん理由があります。
顎の力がとにかく強く、ある研究結果によると、ティラノサウルスの噛む力は最大6トンにもなったと計算されています。ちなみに人間の噛む力は最大100キログラム。人間のざっと60倍です。
こんなに噛む力が強いと、逆に大変な負荷がかかってアゴでも痛めそう……なものですが、心配ご無用。頭蓋骨はなんと40ものパーツに分かれており、それぞれのパーツの間に少しずつ空白が空いていました。その事から頭部にかかる衝撃を効率よく吸収することが出来たと言われてます。
ジュラシックパークでは車に噛み付いてドアやタイヤを噛み千切ってましたが、あれくらいは多分余裕でしょう。
おまけに顎にはバナナみたいにぶっとい歯が何本も生えてます。
最大で30cm以上もの長さの歯が生えていたようで、人間の手首からヒジくらいまでの大きさは余裕であります。
おまけに歯にはステーキナイフのような細かいギザギザ(セレーション)が付き、肉を切り裂くのに優れていただけでなく、顎の筋力と合わせて、肉を骨ごと噛み砕くのに最適な作りになっていたようです。
太い骨をかみ砕いて、粉々にしてのみ込むことで、他の小型の肉食恐竜よりも多くの骨髄やミネラルを摂取していた可能性があったとの説も報告されています。事実、ティラノサウルスのものと言われている糞の化石からも、恐竜の骨の破片が大量に見つかっています。
めちゃくちゃな顎の筋力とぶっとい歯で噛みつき、骨ごとバキバキと噛み砕く……こんなヤツがうようよしていた白亜紀の北アメリカは、さぞ恐ろしい時代だったのでしょう。
②極端にみじかい前足
大きな頭に対して、ティラノサウルスの前足はめちゃめちゃ短いです。
実際は、大きな頭に対してバランスを取る為に前足が退化したと考えられていますが、これマジ? 頭に対して前足が貧弱すぎるだろ……と言いたくなるくらい小さく、あまりにも極端すぎる短さに「前足は何に使われてたのか?」と多くの学者にとって悩みのタネとなっていました。
しかし、見た目は弱そうな前脚ですが、実際はそこそこの筋力があったのではと推測されています。
一説によればしゃがんだ状態から立ち上がるのに使ったとも考えられており、ティラノサウルスの大きな体を起き上がらせる際、役立っていたとも考えられていますが、実際は何の目的に使っていたかは未だによくわかっていない、というのが本当の所です。
③めちゃめちゃ鼻と眼が良い
実はティラノサウルス、大型恐竜の中で最も脳が大きかったと言われており、中でも脳の「嗅球」と呼ばれる部分が大きかったと言われてます。かなりニオイに対しては敏感だった模様なので、獲物を追跡するにはもってこいの鼻を持っていたことでしょう。
さらには鼻だけでなく、優れた視力まで持っていたとされています。眼球の大きさはなんと、ダチョウの二倍。かつ、大半の肉食恐竜の目が横向きなのに対して、ティラノサウルスの目は正面についており、つまり人間と同じく「立体視」が出来たとされています。
立体視が出来るということは、より物体=獲物との距離を測り易くなったということ。ティラノサウルスが他の肉食恐竜と比べても、優れたハンターであったが推測できますね。
④本当は走れなかった?
ジュラシックパークではジープを全速力で追いかけ回してましたが、実はあそこまでの速度では走れなかったとは言われてます。
せいぜい出せて30キロほどだったのでは?との説もありますが、実はティラノサウルスが生息していた当時の白亜紀では、その程度の速度でも充分に狩りが出来たのではと言われています。
当時、ティラノサウルスが主に獲物としていたのはトリケラトプスやハドロサウルスなど、ティラノサウルスと同じく大型の草食恐竜。そこまで素早くなかった植物食恐竜を仕留めるのには充分な速さで移動できたと見られており、事実、Tレックスに噛みつかれたあと、治癒した痕跡がある植物食恐竜の化石が見つかっています。
おまけに、ティラノサウルスはアークトメタターサル構造(陸上脊椎動物の脚で、中央の中足骨の上の方が潰されたように挟まれた構造の事)という足の作りを持っており、例えばダチョウ恐竜のオルニトミムスなど、足の早いとされている恐竜と同じ特徴を持っています。
負荷の方向が一直線になる事で歩いたり走ったりする時の衝撃を吸収できたと言われています。
さすがに車に追いつくほど早くは無かったとはいえ、それなりのスピードで移動できた、優秀なハンターだったことは間違いなさそうです。
あと、若い頃のTレックスは大人よりもスマートな体型で、大人よりも素早く動けたのでは?と考えられています。
この事から、Tレックスは群れで狩りをしており、若い個体が素早さを活かし獲物を追い詰め、大人の個体が待ち伏せて仕留めるという狩りをしていたのではないかとも推測されています。
⑤羽毛ふさふさ疑惑
Twitterやネットを見ていると、時折「ティラノサウルスの現代の姿!」とおう触れ込みで、こういう画像が回ってくることがあります。
まさに鳥のように、全身が羽毛ふさふさな姿ですが、
実際のティラノサウルスに、羽毛が生えていた証拠は一切見つかってません。
だったら、ティラノサウルスに羽毛が生えていたという話はどっから出てきたのでしょうか?
ヒントは「鳥」です。
現代に生きている鳥は、恐竜の中の「獣脚類」に分類される一部の恐竜が進化して、我々がよく知っている現生鳥類になったと言われています。
ティラノサウルスも「獣脚類」に属しており、その中でも鳥に進化したと言われている「コエルロサウルス類」に属していることから、実は羽毛が生えていたのでは? と推測されています。
その説を裏付けるかのように、2004年、白亜紀前期の中国遼寧省熱河層群から発見されたディロング・パラドクサスという原始的なティラノサウルスの仲間の化石に、なんと羽毛の痕跡が認められたのです。
2012年にはモンゴルで、ユティランヌス・フアリというティラノサウルスの仲間の恐竜が見つかっており、こちらにも羽毛の痕跡が確認されています。
これらの証拠から、ティラノサウルス羽毛ふさふさ説が浮上したわけです。
ですが、ディロングは全長1.6メートル程の小型な恐竜で、またユティランヌスは平均気温10度ほどの寒冷地に住んでいたとされています。
羽毛の主な役割は「保温」ですが、ご存知ティラノサウルスは全長約12.5メートルほどの大きな恐竜で、比較的温暖な地域に生息していました。
もしティラノサウルスの全身が羽毛に覆われていたら、体温が体の中にこもってしまい、とても機敏には動けなかったでしょう。
さらに、ティラノサウルスの皮膚の化石も実際に見つかっています。
「ワイレックス」と呼ばれる非常に保存状態の良いティラノサウルスの標本には、皮膚の印象化石(皮膚そのものではなく、皮膚の痕が残された化石)が保存されていました。
またゴルゴサウルスやアルバートサウルスといった他のティラノサウルス科の恐竜の印象化石にも見られないことから、結論、ティラノサウルスは基本的にはウロコで覆われていて、一部に羽毛が生えていたという考え方が、現代では一般的になりつつあります。
結論:やっぱりティラノサウルスはすごい
ここまで、最新研究に基づく、ティラノサウルスのすがたを解説しました。
1905年、ヘンリー・オズボーンによりティラノサウルス・レックスが命名されてから、既に100年以上の時が経過しています。
ジュラシックパークで一躍主役を飾る勇姿を見せてから、実は走れなかっただの、腐った肉しか食べなかっただの、羽毛フサフサだの、さまざまな説が浮かんでは消えていきました。
しかし、絶滅して尚も王者としての貫禄は消えず、最新の研究によって、やはりティラノサウルスは優秀なハンターであり、地球史上最大の頂点捕食者であったことを、さらに裏付ける結果となりました。
一番有名で、世界中の誰もが知っていると過言ではないティラノサウルスですが、まだまだよくわかっていない部分が多く、新たな研究によって、少しずつ本当の姿が明らかになっていく。新たな真実がわかるにつれ、より王者としての立場を不動にする。
だからティラノサウルスは、かっこいいんじゃないでしょうか。
以上、ティラノサウルス・レックスの解説でした。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました!