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三題噺【アブ・運転・骨董品】
両側に商店街が並ぶ道を車で進んでいた。人混みが多くてなかなか前が進まない。今日と明日は、この町が毎年主催しているイベントがあり、観光客が多く訪れているのだ。
やっとのことで車を停めると、時間はお昼時になっており食事処はどこも行列ができている。お腹がなりそうなのを堪えつつ、さっき通り過ぎたときに気になったお店に入ってみることにした。お客もそれほど入っていなかったので商品をじっくり見ることができるだろう。
それは骨董屋である。昔から骨董品には目がなく、家族曰く「よく無駄な買い物をし」てきた。しかし、無駄とは言う勿れ。古い物には、それがまとう雰囲気やロマンによって、お金を払う価値と家の中に置く価値が十分にあるというものだ。それに唯一そこにしかないかもしれないじゃないか。
骨董屋に入ると、食器や絵画や人形、家具、少しレアそうな雑貨などある。奥に入っていくと、店主の姿が見えた。店主はこちらに気付くと、不器用な様子で「いらっしゃい」と言う。私もそれに合わせて軽く会釈する。
静かな店内をゆっくり見てまわるとレジ横に気になる商品を見つけた。商品の前に不器用な出来の説明カードが置いてある。
「ハナアブ、飼ってみませんか。餌は蜜だけ。刺されることもありません。店主おすすめ。」
商品を見ると、虫かごの中に成虫のハナアブが飛びまわっている。二、三匹いる。
「それ、いいでしょう。人懐っこいんですよ。」
レジ前に座っていた店主が私を見て嬉しそうに言った。
店主によると、お世話は本当に簡単なそうだ。買い物をしたついでに、おまけで一匹もらう。ハナアブは耳横でぶんぶんいいながら私のもとを離れなかった。
それからハナアブとの生活が始まった。家族がお世話を嫌がったので、基本私の傍をうろついている。餌は自分で取りに行くし、外に出掛けたら帰ってきた。仕事の時は家でお留守番させた。そんな日々が数か月続いて…
ある冬のある日、ハナアブは外に行ったきり夜になっても帰ってこなかった。ハナアブを探し回ったが見つかるはずもなかった。
私は家の庭に小さな塚を作った。
人生で初めて、骨董屋に行っていい買い物をしたと想いながら。