陰キャ非モテの私が女装して発展場に行った話#05

廊下の先にあるコミュニティスペースへ向かった。
そこは女装子と男性、または女装子同士が交流を深める場で、マッチングが成立したら個室で「発展」に至るのだ。
私が入ったときにはすでに2組のペアがおり、一人は私だけだった。
先ほどの男性はついてきていないようだ。
私は胸を撫で下ろした。
端の席に座ると設置されているテレビの映像を眺めた。

程なくして男性と女装子のペアが入ってきた。先ほどの痴漢男ではなく二人は顔見知りのようである。
男性が私に気がつくと声をかけてきた。
私は咄嗟に身構えた。
強引に誘われたらどうしようか。
だがそんなことはなく男性は気さくにそれでいて丁寧に声をかけてきた。

「ここにはよく来るの?」
「来ようと思ったきっかけとかあるの?」

私はただ答えるだけで良かった。
かつて男性の姿でここに来た時はどうだっただろう。
誰にも話しかけられる事もなく、話しかける勇気もなかった。
だが今は違う。
「エリカ」は「そこにいただけで求められた」のだ。
何もしなくても話しかけられるし、会話が途切れた時は向こうが考えて話を振ってくれる。
ただの言葉のやり取りでさえ自分が「接待」されていると感じられた。

「本当に初めてなの?普通にかわいいよね」

私の心臓が跳ね上がった。

普通に考えて目の前の女装子にブスと言い放つ奴はいないだろう。
お世辞でもかわいいというに決まっている。
だがこの「かわいい」と言う言葉が持つ破壊力を身をもって体感した。
脳内を快楽物質が駆け巡る。
この言葉は麻薬のようだ。
この言葉欲しさにどんどんとのめり込む気持ちがわかってしまう。

「ありがと」
私は答えた。

エリカが自分だけのものではなくなり外の世界で人に認められたのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?