陰キャ非モテの私が女装して発展場に行った話#11

ティッシュで精液を拭き取りながら雑談を始める。
ピロートークと呼んで良いのだろうか。

タケシはここから幾分遠いところに住んでいるらしい。
ここにはしばらく来れそうもないそうだ。
彼は私と同じく独身。
自身の持つ性癖のため地元から遠く離れたここで相手を求めたらしい。

私は彼が他人とは思えなかった。
独り身で性癖が普通の人と違う。
A面のエリカが人に求められたいように、B面の私は人を求めていた。
あの時一人、B面でここに来た自分を思い出す。
私は誰かを求めていた。

私はタケシが初めての男性だというと驚いていたが、エリカと会えて良かったと感謝してくれた。
私はショーツを履きブラジャーを着けブラウスを着る。
エリカでいられる時間ももう少し。

「そろそろ行くね」

私は彼に声をかけた。
メイクを落としてシャワーを浴びて元の自分に戻らなければならない。

「また会いたいな」

彼が言った。

「そうね、またどこかで」

二人の家はゆうに1000kmは離れている。
もう会うことはないだろう。

タケシさん。
私の初めての人。
優しい人。
お互いの本名も知らない。
私の普段の姿ですれ違ってもきっと気づかないだろう。

個室を出る前、振り返ってタケシの方を見た。気がつくと私の方からタケシの唇を求めていた。
タケシも応じて舌を絡め合う。

もうしばらくこうしていたい。
悪い娘でいたい。

人は誰しも完璧ではない。
それぞれの形に歪んでいる。
その歪みゆえに傷つくことも沢山あるが時々、歪み同士が綺麗にはまり合う時がある。
そんな気がした。

唇が離れる。

「優しくしてくれてありがと」

今度こそ本当に最後。

「じゃあね」

私は個室を後にした。


時刻は夜中の3時を回ろうとしていた。
どこかから誰かの喘ぎ声が聞こえる。
ナツメだろうか。

私は一人で鏡を見つめる。

エリカがいる。

少しメイクが崩れかけているようだが暗がりならばわからないだろう。
今日は色んなことが起きたため少し疲れた顔をしている。

「大丈夫。かわいいよ。大丈夫」

暗がりの中、私と彼女は言葉のない対話を続けていた。

もうすぐ夜が明ける。

日の出の前にエリカはいなくなる。

それまでもうほんの少しだけこうしていたいと思った。

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