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『中国の出産事情』

国に駐在して「えっ?」と驚かされることの一つに、中国人社員の休暇を取る際の理由があります。日本と違って、中国では妻や子供が熱を出したり風邪をひいたりすると会社を休む夫・父親が比較的多く、日本人が思っている以上に中国人は家族を大切に思う風潮があります。

一方日本では子供が休んで仕事を休む母親は普通に受け入れられても、一家の大黒柱である父親は家族を養うために「そんな理由で仕事は休むことは出来ない」と心配しつつも会社へ向かう方が多いのではないかと思います。

もちろん全ての日本人が同じような事を思っている訳ではありませんし、働き方が徐々に変わってきている今、家族の面倒を見るための時間をしっかり取られている人も沢山いると思います。昔から「日本人は働き者」という印象は多くの国でが持っていて、それは誇りとして多くの日本人の奥底に根付いている物なのかもしれません。

それ故に家族の不調のために休みを取っても、周囲の人も「そんな理由で休んで平気かな?」と思ったり、「休まなければならない程、深刻な症状に見舞われているのかもしれない!」と必要以上の心配してしまう事もあるのだと思います。人によってはもしかすると妻のちょっとした熱や風邪くらいでわざわざ仕事を休むなんて…と違和感を覚える人もいるかもしれませんね。

私の周りでも奥さんのために何度か休暇を取られていた旦那さんが居ました。「奥さんの体調結構悪いのかな?大丈夫かな?」と思っていたら、実はオメデタだったということもあります。吉報を聞いて喜ぶのもつかの間、これから入院や出産など様々な段取りを考えると旦那さんも落ち着かず、こうなると業務だって影響がないわけがありません。そんな事が中国で起きると、中国人の旦那さんは日本人の想像以上に家族を優先します。

それは何故なのでしょうか?今回は中国の妊婦・出産事情について説明していきたいと思います。

40年近く続いた一人っ子政策の撤廃

実は今、中国では第二子「二胎(èr tāi)」を産む女性が増えています。2016年1月1日、中国は人口の過度な高齢化を緩和するため、1979年から約36年間続いた「独生子政策(一人っ子政策 dú shēng zǐ zhèng cè )」を撤廃しました。

これまで夫婦は第一子をもうけると第二子を産まないという宣言をして「一人っ子証」を受け取り、その宣言にともなって特典として産休が法律より1か月延長されたり、奨励金が出されたりすることになっていました。

逆に一人っ子政策に背いた場合は、ペナルティとして罰金があり、昇級や昇進がダメになったり、左遷させられたりする人も多くいました。それが2016年、一変して「全面放开二胎(quán miàn fàng kāi èr tāi)」となったわけです。

「全面」とついているのは、一人っ子政策の後期には一人っ子同士の結婚に限り、子供を二人もうけても良いという一部の緩和があったためで、今回は無条件でOKになったという意味です。上海などの大都市においては、教育資金などの問題からほとんど一人っ子しかいませんが、地方都市にいくと明らかに兄弟をつれた4人家族などを見かけたりしますが、そういう人はおそらくペナルティを払っていたわけなので、2016年より晴れてどんな夫婦でも希望によって第二子を産んでも良いことになりました。

なお、これまで中国では、定年退職の年齢は、男性は60歳、女性は55歳であり、往々にしてそれ以前に早期退職している人が多いため、いわゆる子供の祖父母は非常に若く、さらにヒマという状態。そうした祖父母が「もう一人産みなさい、世話は任せて」と自分の子供たちに言い、祖父母が子育てを全面的にバックアップ(むしろ任せっきり)という社会になっているのが日本と大きな違いです。

妊婦とその夫が並ぶ、大行列の産科


中国では評価の高い病院にかかりたい場合、大行列に忍耐強く並ぶのが基本です。それは産科においても例外ではありません。妊婦検診の際はたくさんの妊婦が待合室で付き添いの夫と長蛇の列に並んでいます。

しかも、午前中いっぱいとか1日仕事になるので、夫はもれなく仕事を休んでいることになります。妻からすれば「他の妊婦にはみんな夫がついているのに自分にはついていないなんて…」ということで、妊婦検診の日に「仕事にいかなくちゃ」と言える中国人の夫は少ないでしょう。

夫は検診の付き添いで会社を休むほか、入院などが起きた場合にも駆けつける必要があるため、この時期は急な出張などを依頼するのは難しいかもしれません。

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出産後はゆっくり養生


中国では昔から出産後の回復期6週間を「坐月子(zuò yuè zi)」と呼び、重視する風習があります。2000年前からある伝統だそうで、この時期にしっかり休まないとその後の身体に大きく影響すると多くの中国人は信じていますが、あれこれと細かいタブーがあります。

最もよく言われるのが「不能碰冷水(bù néng pèng lěng shuǐ 冷たい水に触れてはいけない)」。「身体を冷やすな」という意味からきていますが、伝統的には「不能洗澡(bù néng xǐ zǎo 入浴すべきでない)」そうで、現代でも産後1週間は入浴しないのが一般的。

ほかに「不能出门(bù néng chū mén 外に出てはいけない)」、「不能见风(bù néng jiàn fēng 風にあたってはいけない)」、「不能哭(bù néng kū 泣いてはいけない)」などがあり、食べ物についても同様に食べるべきもの、食べないほうがいいものなどの細かな規則があります。

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「坐月子」を行う場所ですが、伝統的に農村部では夫の実家、都会の人だとホテルのような施設で養生するのが定番となっています。これまでは一人っ子政策のため“一生に一回しかない月子”はイベント性が高く、都市部の富裕層ではこの期間を専門施設で過ごす人が増加中。

施設はナース常駐24時間体制で赤ちゃんの世話をしてくれるので、女性は授乳以外はほとんど横になって休めるようになっています。身体の回復に効く食事、太らなくておいしくて母乳に良いスイーツ、スリムになるためのフィットネス教室などが楽しめます。

費用は月30万円くらいが相場ですが、最近では5ツ星ホテル並みの施設も登場し、最高級ではなんと月1000万円越えのもあるとか。もはや本来の意味以上にステイタスに近いものになっているようです。また私の実体験では、妊娠7か月くらいで会社を辞めた同僚がアメリカへ渡航。子供のアメリカ国籍を取得すべく、現地で出産および養生するというのもありました。

子孫を残すことで、より大事にされる妻
中国の伝統「坐月子」は、現代のように便利でない時代に出産後は仕事をせずにひたすら養生してもらうということであり、子孫を産んでくれた妻を夫やその父母が大事にすることの象徴であると言えるでしょう(夫の家の子供を産むという感覚が強いので、女性の実家ではないのです)。

つまり、子供を産むことで家の中での妻のステイタスが確立され、一生で最も優遇される時間となります。なお、ホテルのような施設で養生してもらう場合、妻と新生児のお世話が全てお任せとなるので夫はやっと一息つける、むしろ家に戻ってきてからが大変かもしれません。

妻の出産・産後で中国人部下の休みが続くと「日本では立会いに間に合わなくて一人で産む女性も多いし、産後もそんなに大げさじゃないよ…」と言いたいところかもしれませんが、妻のみならず、夫の父母や親戚一同からも一斉にあれこれと口うるさい時期となりますので、中国の伝統なんだと理解してあげることが重要でしょう。

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