物、ものを呼ぶ展@出光美術館、の巻
出光美術館と帝劇、しばしのお別れ
出光美術館は、日比谷・帝劇のある帝劇ビルの9階にあります。
既報の通り、帝劇はビル(帝劇ビル)ごと建て替えることになっており、それに併せて出光美術館も今年2024年12月いっぱいで一旦閉館となります。
再開日程が発表されていないのは、帝劇ビルと国際ビルの両方(ちなみにこのビルは隣り合わせになっていて、地下1階と地下2階でつながっています)を建替える大規模再開発なので、まだ予定が見えないから・・・なのでしょう。
帝劇が閉まることで、日本有数の大規模劇場がしばらくなくなってしまい、いわゆる「東宝ミュージカル」の聖地も失われてしまうことは、ミュージカルファンのみならず相応の衝撃をもって受け止められたと記憶しています。
それは、出光美術館ファンにとっても同じことでした・・・
出光美術館のコレクション、いいんですよ・・・私なんかは特に書画・水墨のコレクションが展示される時はよくお邪魔していたので、寂しいことこの上なし、です。
『出光美術館の軌跡 ここから、さきへ』シリーズ
今年に入って出光美術館はコレクション蔵出しシリーズ(と、私は勝手に呼んでいます)として『出光美術館の軌跡 ここから、さき』4期連続企画展を催しています。
1期と2期は仕事が忙しすぎて見逃しましたが、3期「日本・東洋陶磁の精華—コレクションの深まり」展はとても興味深く見てきました。陶磁器のことは本当によくわからないので、学ぶことばかり。
ちなみにこれを見たあとに、サントリー美術館の『尾張徳川家の至宝展』を見たのですが、連続性があって面白かったです。
出光美術館とサントリー美術館て、企画展に連続性があることがしばしばあるので、この二つを回遊すると面白いことが多いです。
今回はⅣ期『物、ものを呼ぶ』展を見てきました。
『物、ものを呼ぶ』展
伊藤若冲、酒井抱一、鈴木其一・・・そしてプライス・コレクション
「物、ものを呼ぶ」とは、陶芸家・板谷波山が出光興産の創業者にして出光美術館の基礎となるコレクションを作った出光佐三に対して言った言葉なのだとか。
「何らかの理由で別れ別れになっている作品でも、そのうちのひとつに愛情を注いでいれば、残りは自ずと集まってくる」(展覧会図録「ごあいさつ」より)という意味だそうで、これは何かを蒐集したことのある人にとっては覚えのある現象なのではないでしょうか。
なんか、集まっちゃうんですよね・・・本当にラッキーとしか言えないような状況を経て。
で、佐三翁のところにも集まってくるわけですよ。
その集まったものが若冲だったり抱一だったり、果ては国宝に指定されるものまであるっていうんだから、スケールが違いますけどもw
会場に入るとまず、伊藤若冲『鳥獣花木図屏風』が迎えてくれます。
タイルに象が描かれた見える、あの有名な作品です。
これ、確かどこかで見たことあるんだけどなー東京都美術館の『奇想の系譜』展だったかな・・・でもこんなにまじまじと見た記憶はない。
出光美術館の良さってこういう所なんですよね。そんなに混むことがないので、じっくりと作品と向き合うことができる。
タイルのように見えるのは「升目書き」という技法なのですが、これ、どうやって書いてるんだろう。想像がつかない。
出光コレクションの中核をなす仙厓の禅画から、鈴木其一、再び若冲の軸があって、ちょうど若冲の屏風絵の反対側に、酒井抱一の『風神雷神図屏風』がありました。出光がもってたのか、これ。
俵屋宗達を尾形光琳がリメイクし、その尾形光琳のリメイクを酒井抱一が模写して更にリメイクしたこの作品。
間近でしげしげと見てようやく気がついたのですが、雷神様が踏んでる雲って、龍の形をしてたんですねぇ。
とすると、風神様が乗ってる雲は、ありゃ麒麟か?
そして、ふたつの『十二ヶ月花鳥図』by酒井抱一
今回の展覧会で、私にとっての目玉のひとつでした。
ひとつは元から出光コレクションにあったもので屏風仕立て。もうひとつは2019年にジョー・プライス・コレクションから蒐集した軸装されたもの。
二つの『十二ヶ月花鳥図』が向かい合わせに展示されていました。
酒井抱一の描く植物って、少女漫画の背景に使われる花みたい。
キラキラとしていて繊細かつ華麗。牡丹の花なんて、レースを集めて作ったみたいに見えます。
ちょっと時を忘れるくらいに眺めてしまいました。
本当に綺麗で、そこだけ空気が変わって爽やかな風がながれているような気持ちになりました。
昔の人たちはこういう風に、目から涼を取っていたのかもしれませんね。
書の数々
今、NHK大河ドラマで「光る君へ」を放送しているせいでしょうか。
平安期の各種「藤原くん」たちにもなんだか親近感がわいています。
今回は「伝藤原公任」「伝藤原行成」がそろい踏み。他にも、『見努世友(みぬよのひと)』という古筆切(奈良~平安、鎌倉時代くらいまでの能書家の書の断片)を集めた古筆手鑑の中に花山院もいたりして、ちょっとミーハー気分が高まりました。
以前から、天皇の書が好きな私にとっては、伝聖武天皇、伝光明皇后、嵯峨天皇の古筆切をそろって見られたのは、なかなかに気持ちが高まるものです。
あと、かな文字の臨書として必ず通る、伝紀貫之「高野切」の本物を見られたのも嬉しかったですねぇ。
正統派の文字はやはり飽きることがありません。
どんな文字を臨書しても、ここに戻ってきてしまいます。
蒐集された書はいずれも紙(料紙)が美しくて、それも見どころですね。
やっぱり絵巻物が好き~伴大納言絵巻
今回の展覧会の目玉のひとつ、『伴大納言絵巻』三巻のうち上巻。
国宝です。
これは展示替えなしで通期で見られるようなので、是非見ておいた方が良いもの。
応天門の変を描いた絵巻物なのですが、中でも上巻は炎上する応天門というドラマチックな場面が描かれています。
その、炎上する応天門という派手な画のとなりの場面がものすごく大胆なんですよ。
清涼殿の前にたたずみ、遠く応天門が燃えている様子を眺めている、誰とはわからない男性の後ろ姿。
それしか描かれていない大胆な画面構成は、見ているだけで遠くの喧噪が聞こえてきそうな錯覚を覚えます。
漫画に、こんな構図ありますよねぇ・・・
この劇場的な演出を、誰が思いついたのでしょう。
本当にすごい。
この男性は誰なのか。
伴善男?
源信?
それとも頭中将?
真相は藪の中なのです。
京の街と江戸の街
他にも、池大雅『十二ヶ月離合山水図屏風』や谷文晁のデッサン(『青山園荘図稿』『戸山山荘図稿』)など見どころはたくさんありましたが、最後を締めくくるのは、京の祇園祭を描いた屏風と、『江戸名所図屏風』の並びでした。
江戸名所図屏風をみていると、確かに今のお台場や芝浦あたりは埋め立て地が広がったけれど、基本的な地形は変わっていないのだなぁ、と思います。
増上寺、神田明神、日本橋、浅草寺・・・なじみのある地名を目にしてほっとします。
一番最後の英一蝶『四季日待図巻』に描かれた人々は、こういう街に住んでいたのだなぁ、とそんな様子まで想像が広がり、とても楽しい気分で見終えることができました。
図録について
今回のこの4期にわたる企画展の図録は、全て和綴じという凝ったつくりになっています。
4期の図録を全て買うと図録購入特典プレゼントがあるそうです。
レジでスタンプカードを渡されました。
有効期限があるのでご注意ください。
和綴じ本は、ぱたん、と両開きになるので見やすくていいですね。
おしゃれだし、私はとても気に入っています。
ところで、サントリー美術館は9月18日から英一蝶展を開催しているのですが、今回の『物、ものを呼ぶ』展の最後が英一蝶だったこともあって、相互割引をしているのだとか。
英一蝶展も見に行く予定なので、これは密かに嬉しかったです。