見出し画像

どうしてこうも不遜なのか

確定申告の書類を作った。
もちろんパソコンで書面に入力して、紙にプリントする。
所管税務署までは歩いて30分程度なので、散歩がてら出向いて提出する。私にとって、年に一度の恒例行事である。

国税庁のサイト「確定申告書等作成コーナー」には、以前作った申告書データを読み込ませる機能がある。これは重宝している。

しかし、今年はいささか様相が違っていた。
「作成開始」をクリックすると、例の陰険な顔をしたウサギもどきカードの有無を尋ねられる。「いいえ」と答えたら従来の書面提出しかできないはずであるが、そこでなぜか「提出方法の選択」の項目が現れる。下のほうに、e-Taxのメリット広告が出ているが、そう大したアドバンテージではない。

「書面」を選択すると「確認」というボックスが出現して、またe-Taxのメリットやらを案内される。「このまま次へ進む」をクリックすると、次はアンケート。それに答えて次に進むと、またもボックス。「e-Taxは約7割の方が利用している…うんぬん」の広告を読まされる。そこで「このまま次へ進む」をクリックして、ようやくおなじみの推奨環境確認画面にたどりつく。

悪質サブスク業者かよ!

解約させるまでにやたらといろんな画面を表示させて、操作者の気持ちを萎えさせる手法そのままである。その手口で、既に亡くなった人の口座からも金を巻き上げている業者もいると聞く。国民の義務を管轄する役所が斯様な真似をして、みっともないとは思わないのか。

複数箇所から収入を得ていたり、所得の分類や扶養の有無など記載事項が煩雑だったり、日頃仕事などで多忙を極めていて時間を取りづらかったり、税務署がかなり遠かったり…などの事情を抱えている人たちには、e-Taxとやらは助かるシステムなのかもしれない。それでも、あのウサギもどきに個人情報の餌を与えることに抵抗感を持つ人は少なくないだろうと想像する。

私は収入源が1ヶ所で、記載項目は極めてシンプル。添付するべき書類も大切に保管している。税務署まで歩くことは健康維持にもつながる。放っておいてほしい。

私が幼い頃は、都内の下町で小さな薬店を営んでいた祖父母の家によく”お泊り”していた。両親の都合である。確定申告の時期になると、区から「青色申告のてびき」といったパンフレットが送られてきた。私はそれを見るたび、「どうして赤色申告や黄色申告はないの?」と疑問を呈して、祖母を笑わせていた。今は検索すれば、簡単に答えが得られる。青色と白色の2種類である。

国民を「ウサギもどきカード」の奴隷にしたいと目論む政府にとって、書面による確定申告は「黄色申告」的な位置づけにしたいのだろうか。私に言わせれば、あのウサギもどきの顔を見せられる申告方法は「赤色申告」である。

デジタル化に夢中になる人たちって、どうしてあれほど自信満々なのだろう。不遜なのだろう。

以前通勤で使わざるを得なかった鉄道会社では、ホームに大きなパネルを設置していた。駅名標と停車駅案内、路線図、時刻表を一体化させて、掲示類の数を削減する目的だろう。賢いアイデアである。

ところがある年のダイヤ変更の頃、ほとんどの駅で時刻表の掲示を取りやめてしまった。鉄道会社のアプリをダウンロードすれば時刻表の他、様々な情報が得られるという宣伝ステッカーが貼られた。

ちょうどその頃から遅延や運転抑止、運休が多発するようになった。それまでは輸送障害をあまり起こさない優良会社という定評があったのだが、一気に劣化した。

何かトラブルがあると、とりあえずホームの時刻表を確認して目下の状況を把握して、これからどう動けばよいか、おおよその判断をしておきたい。しかし時刻表があったスペースは、若いモデルが出演している観光特急の広告に占領されている。無性に腹が立った。

「時刻表の更新には経費がかかる」と言い訳する会社もあるが、この会社の場合はちゃっかり自社の宣伝に使っているのだし、ポスター印刷経費は時刻表と大差がないだろう。

逆恨みは承知だが、その鉄道会社で熱心に宣伝されている沿線の観光地の心証も、かなり悪くなった。幼い頃、父に連れられて行ったきりで、通勤を卒業したら再訪してみるのも悪くないかもと思いかけていたが、再訪などとんでもない。日常生活必需品を外してまで宣伝を押し付けてくるような下品な観光地など、敬遠するに限る。地元観光協会側から「時刻表スペースに、うちの方に来る観光特急の広告を出してほしい」と頼んだのではないとは思うが、想像もつかないところで恨みを買っているという自覚をお持ちいただきたい。

いいなと思ったら応援しよう!