空から旭川・富良野を見てみよう(4)
Scene 9 続き
「くもじい師匠、くもみさん、ようこそ旭川空港へ。お待ちしていました」
「誰じゃ、おぬしは!」
「失礼しました。私は東神楽町のマスコットキャラクター”かぐらっきー”です!かぐ~~~Lucky!」(ポーズを取る)
「あーっ、”家具”と”ラッキー”!」
「さすが、くもみさんです」
「わしを師匠と呼んでくれるのか」
「はい、もちろんです。…早速ですが、今日はよく晴れてとてもおだやかな日ですね」
「じゃな」
「しかし旭川空港は長い冬の間、くもじい師匠のお仲間たちが降らせる膨大な雪を毎日取り除かなければなりません」
「そうじゃのう」
「失礼ですが、どうやって除雪しているか、お二雲(ふたうん)はご存じですか」
「いや、知らぬぞ」
「考えたこともありませんでした」
「それでは、こちらをご覧ください」
「何じゃ?」
「ビデオが始まるみたいですよ」
(ビデオが始まる。屈強な体格の十数人が戦隊ヒーローのように一列に並ぶ)
「我々は旭川空港除雪隊"WAX WINGS"!」
「おお」
「雪のない時、我々は東神楽町や近隣の町で農業を営んでいます。が、雪が降り始める頃空港に集まり、WAX WINGSに変身するのです!」
(ビデオは空港内除雪車庫の映像に移る。シャッターが開き、黄色い除雪車7台が姿を現す)
「うひょ、こりは大きいぞ!」
「すごい迫力です!」
(ナレーション)「隊員は夜明け前、午前4時に集合。羽田発のその日最初の便が到着する午前8時までの間に作業します」
(隊員が除雪車に乗り込む場面映像に続きナレーション)
「旭川はじめ上川地方に降る雪の特徴はサラサラと軽いパウダースノー。これに対応するため、Snow Sweeperという大型ブラシを備えた除雪車があります」
(早回しで滑走路の雪を掃く映像)
「おお、掃いちょる掃いちょる!じかに見たいのう」
「くもじい、また吹き飛ばされますよ」
「コホン。おお、カルガモのように並んじょるぞ」
(ナレーション)「除雪車は隊列を組み、車間距離を守りつつ作業にあたっています。航空機の車輪には冬タイヤがないので、ブラックトップという、滑走路の路面が見える状態になるまで繰り返します」
(朝が来て明るくなり、着陸する機体のランプが上空に見えてくる映像。ナレーション)
「彼らWAX WINGSの活躍により、旭川空港の就航率はおよそ99%。降雪による欠航は過去10年間で平均3.4便です」
(隊員の声)「しかし、我々はこの数字に決して満足しておりません。100%を目指し、日々研鑽を積み重ねています」
「頼もしいのう」
「昼間、急に吹雪いてきた時はどうするのですか?」
(ナレーション)「空港営業時間中も天候の急変に備えて、WAX WINGSのメンバーが交替で空港内に待機しています」
(ビデオが終わる)
「わしらの仲間は、これだけ手間をかけさせちょるのか」
「いいえ、私たちは雲からいつも大きな恵みをいただいています。雲は私たちの大切な”師匠”です」
「あっぱれじゃ!これからも旭川空港の安全、よろしく頼むのう!」
Scene 10(上富良野町里仁)
♪Mr. Fantasy Love(飛行ルート案内地図画面)
「後半は富良野じゃ。上富良野から富良野まで、JR富良野線に沿って一気に飛んでいくぞ!」
「Let's Go!」
♪Skyline
(テロップ)空知郡上富良野町 DATA
人口10,342人(道内53位) 面積237.10k㎡(道内129位)
2022年1月1日現在
豚の横隔膜肉”豚さがり”焼肉の発祥地
「JR美馬牛駅の南にある深山峠(みやまとうげ)が分水嶺で、そこを越えると上富良野町じゃ」
「いよいよ富良野ですね」
「東に見える山も旭岳から十勝岳に変わる」
「きれいです!」
「富良野盆地は北海道のほぼ真ん中にあり、”北海道のへそ”とも言われておるぞ」
「へそ?」
「へそ踊りといって、腹に顔の絵をペイントして、本来の顔を着物の裾で隠して練り歩く祭りもある」
「富良野のイメージと違うような…」
「ははは。おしゃれな観光地として知られるようになったのは、富良野を舞台にしたテレビドラマがヒットした1990年代以降じゃ」
「えっ?」
「それまでは地味な土地で、北海道旅行のガイドブックにもあまり取り上げられていなかったのじゃぞ」
「意外です」
「今は北から上富良野町・中富良野町・富良野市・南富良野町と4つの市町に分かれて、富良野市が中心じゃが、開拓は上富良野から始まっておる。1897年に今の三重県津市から8人が原野だった富良野盆地に来て開拓を始めたのじゃ」
「その頃はどんなことをしていたのですか」
「最初は畜産じゃ。鉄道が開通するまで馬は物資の輸送に不可欠じゃった。鉄道開通後も農耕や軍事に長年広く使われておった。それと硫黄じゃ」
「硫黄?」
「うむ。富良野という名も、アイヌ語で”臭気”を意味する言葉から来ておる」
「そうなのですか!祈りを込めるような当て字ですね」
「十勝岳で硫黄を採掘して、火薬やマッチの原料として売っておった。じゃが1926年、十勝岳は大噴火を起こした」
「大変!」
「泥流が村に達して、開墾した田畑はほとんど埋もれてしまったのじゃ。一時は廃村案も出た」
「大ピンチです」
「じゃが、地元に暮らす人々の粘り強い努力で、北海道としては早い時期に稲が実るまでになった」
「すごいです!」
♪Firecracker
「あっくもじい、地面に緑色のスポンジがあります!」
「スポンジにしては色が不ぞろいじゃな。海でもないのに波打っておるぞ」
「あそこの道にひとりで歩いている人がいます!」
「本当じゃ。話を聞いてみようかのう」
(テロップ)「? スポンジのように波打つ地形は何?」
「このあたりじゃな」
「道路が一直線に伸びています!」
(ナレーション)「ここは上富良野町里仁(りじん)の西11線道路。いくつもの丘の高低差を乗り越えていくことから、ジェットコースターの路(みち)と言われています」
「こりは絶景じゃ!」
「美術展で絵を見ているみたいです」
「そうか」
「白いセンターラインを越えるような恋をしてみたいです」
「ん?どうしたくもみ、誰か好きな雲でもできたか?」
「いえ、たまには格好つけさせてください。今回はじゅるるがあまりないので」
「キャラ変はほどほどにのう」
「さっき見かけた人がまだ歩いていますよ」
「くもじいじゃ」
「あっ、おはようございます」
「おぬしはどこかへ出かけるところか?」
「近所の公民館まで。毎朝出かけていますよ」
「いつも急な坂道を歩いているのですか?」
「雪が積もったらさすがに車使うけどね、気候のよい時はなるべく歩くようにしてるよ。田舎は車社会だから都会人より運動不足なんて言われちゃ悔しいからね。慣れればなんてことないよ。…このあたりは関東や関西から移り住んできた人たちがペンション開いたり、アウトドアやったり、カフェとか写真スタジオとか作ったりしているよ」
「憧れます」
「うるさいのが嫌な人にとっては確かに憧れなんだろうね。観光バスもあまり入ってこなくて静かだし、雪や寒さがそんなに苦手じゃなければ理想なんじゃないかな。都会から毎年来る常連さんもいるよ」
「あまり大きな声で言わないほうがよさそうじゃな」
「ただの丘に都会の人が繰り返し来てくれるなんて面白いね」
「丘はどうしてできたのか知っちょるか?」
「さあね、考えたこともないわ」
(ナレーション)「丘の土壌は十勝岳からの火砕流が堆積したもの。寒冷な気候のため、土の中に含まれる水分が凍結と溶解を繰り返して岩石が細かく崩れ、なだらかな丘の斜面を形作ったのです」
「冬は氷点下20℃を下回る日もあるよ」
「聞くだけで凍えそうです」(震える声)
「よく晴れて穏やかな朝はダイヤモンドダストや霧氷、サンピラーとかが見られるよ。わざわざそれを狙ってくるカメラマンもよく見かけるね」
「見てみたいです…けど、私たちは凍ってしまいますね」
「じゃな」
「あっ、大きなトラックが横切りました」
「国道との交差点ですね」
「お話ありがとうございました!」
「これからも達者でのう!」
(ナレーション)「国道237号線は旭川から日高の浦河までの国道。北側山間部の旭川市から占冠村までの区間は、沿道に広大な花畑が多いことから”花人街道”の愛称がつけられています」
「はなびと?」
「花を愛する人たちじゃな。空に戻るぞ」
♪Skyline
「はい。くもじい、観覧車が見えてきました」
「深山峠アートパークじゃ。目の錯覚をテーマにしたトリックアート美術館が人気じゃ」
「富良野線が見えてきました」
「そろそろ上富良野の中心街じゃな」
♪Firecracker
「あっ、くもじい!」
「どうした?くもみ」
「あそこの丘にハートがあります!」
「キスマークみたいじゃ。激しくつけられたのかのう」
「何言ってるんですかくもじい、丘ですよ」
「コホン、そうじゃった」
「ああっ、丘一面にお灸のもぐさが載せられています!」
「本当じゃ。相当愛されてお疲れなのかのう…と、一体何じゃ、こりは?」
(テロップ)「? 丘のハートやお灸は一体何?」
Scene 11(上富良野町中心部)
「ここじゃな」
「近くから見ると少し淋しそうです」
「さびしんぼハートじゃな。あの者に聞いてみるか。くもじいじゃ!」
「はい」
「ここは何じゃ?」
「上富良野町日の出公園です」
「日の出公園?」
(ナレーション)「日の出公園は上富良野町市街地に接する小高い丘に作られた19.2ヘクタールの公園です」
「夏は何といってもラベンダー。他にもお花がいっぱい咲きますよ。冬はスキー場として使われています」
「このハートも花壇ですか?」
「いえ、これは単に緑色のハートです。7年前に作りました。丘の上にはハート型の花壇が別にあります。丘の上は絶景ですよ。登ってみませんか」
「おお、邪魔するぞ。よいこらせーっと、くもじいじゃ」
「あっ、もぐさはこれですね」
「これがラベンダーの株ですよ。よもぎではありません」
「ラベンダー?」
「はい。満開の頃は一面紫色です」
「こりは絶景じゃ!」
「上富良野町は、富良野地区ラベンダー発祥の地です」
「そうなのですか?」
(ナレーション)「日本のラベンダー栽培は1937年にフランスから種子が輸入されたことに始まります。全国4ヶ所で試験栽培を行ったところ、北海道が生育に最も適した環境とわかり、札幌市内と後志地方で香料としての生産が始まりました。戦争中は栽培が制限されましたが、戦後1948年に上富良野町在住の農家数軒で委託栽培を開始。北海道奨励特用作物の指定を受けて、富良野地区で広く栽培されるようになりました」
「ロマンチックです」
「ここでウェディングフォトを撮影するカップルもいますよ」
「愛のスポットじゃな」
「愛の鐘もあります」
「おお、鳴らしてもよいか」
「どうぞ」
「またくもじい、調子に乗る」
「では参るぞ。あの鐘を鳴らすのはあなた、この鐘を鳴らすのは、くもじいじゃ!」
カーン、カーン、カーン、カーン…(反響音十数回)
「結構でかい音じゃのう」
「町の皆さん、お騒がせしてごめんなさい」
「この鐘を鳴らすカップルは幸せになるのじゃぞ!さて空に戻るか…と、町のはずれにあやつがおるぞ!」
「あっ、くもじいコレクションのあれですね!」
「比布に続いてここにもおるか。くもみ網の用意はよいか!」
「準備万端!」
♪Coro Coro Sound System
「晴れでも雨でも嵐でも、いつも笑顔の公園アニマルズ!」
「このあたりじゃな。おお、こちらにもアンパンマンさんが。お勤めご苦労様です」
「くもじい、早く行きましょう」
「隣の公園じゃな。いたぞ、ぬかりはないか」
「はい、大丈夫です」
「では行くぞ!おりゃー」
「うりゃー…ていっ!」
パサッ(網がかかる音)
”捕獲成功”
♪Scarecrow Man
「キリンですね」
「いや、ゾウじゃぞ」
(ナレーション)「コレクションナンバー41番、上富良野町島津公園で見つかった”背中はキリンだゾウ”」
(テロップ)「アニマルポイント すべり台の片面はキリンの首 もう片面はゾウの鼻」
「いったいどちらなんじゃ?」
「扱いに困りますね。あっ、子供のゾウもいます」
「親を支えておる。けなげじゃのう」
(テロップ)「アニマルポイント 小さいゾウに支えられている」
(ナレーション)「そんな貴重な公園アニマルの捕獲に、くもじいは見事成功しました」
(アルバムのページをめくる音)「総選挙をやりたいのう」
「番組そのものが忘れられています」