空から旭川・富良野を見てみよう(6)
Scene 14 続き
「メロンが空から落ちてきました」
「ん?こりはメロンではなさそうじゃの」
「何人か集まっています」
「あやつらじゃな。くもじいじゃ!」
「あっ、こんにちは」
「ぶつかるところじゃったぞ、危ないではないか!」
「失礼いたしました。お怪我はありませんか」
「大丈夫じゃ」
「ここは何なのですか?」
「モーターパラグライダーの体験を提供しています」
「モーターパラグライダー?」
「パラグライダーにエンジンをつけて、その動力で空を飛ぶことができます。くもじいさんのように大空を飛んでみたいというお客さんの夢をかなえるお手伝いをしています」
「わしらはもともと飛べるから必要ないのう」
「ですね」
(ナレーション)「そこで、この番組のアシスタントディレクターが体験しました」
(必要な備品を装着する姿の映像)
「おお、怖くないか」
「大丈夫です!…(小声)本当はちょっと緊張しています」
「無理しないでくださいね!」
(ナレーション)「体験飛行はパイロットと2人1組で行います」
「では、風を待ちます!よい風が吹いてきたら”3・2・1・Go!"とカウントしますので、Go!であちらに向けて思い切り駆け出してください」
「はい!」
「3・2・1・Go!」
「お、おおお、飛びます、飛んでいます!」
「ひざを上げて、ハーネスにすわってください!」
「すごい、すごいです!あちらに富良野の街が見えます。平野の向こうに十勝岳、奥は夕張岳でしょうか!あっ、反対方向に中富良野の町も見えます!」
(ナレーション)「フライトはおよそ15分」
「降りてきましたよ」
(備品を外すアシスタントディレクター)
「おお、どうじゃった?空を飛んでみて」
「くもじいさんは偉大です!」
♪Rainbow
「富良野川を渡ると富良野の市街地じゃ」
「川沿いの丘に秘密基地があります」
「ふらのワインの工場じゃ。富良野市が1972年に開いたぶどう果樹研究所が母体になっておる」
「市営なのですね」
「地元の山ぶどうを品種改良してできたぶどうから、コクのあるワインを作っておるぞ」
「くもみも早く飲めるようになりたいです」
スポンサーテロップ画面
「富良野駅前で懐かしい顔を見かけたぞ」
「ペンギン兄さんとペンギン姉さんじゃ」
「くもじい、知り合いなのですか」
「甘い記憶じゃ」
Scene 15(富良野市市街地)
「くもじい、コンテナ基地が見えてきました」
「ここから富良野駅の構内じゃ。富良野駅の旅客はJR北海道、貨物はJR貨物が担当しておる」
「はい」
「久しぶりに線路を数えてみようかのう。ひー、ふー、みー、あり?ずいぶん少ないのう」
「5本ですね」
「残っておるだけでも上出来じゃ。おお、ふらのベジタ号がおるぞ」
「ただのコンテナ列車みたいですけど」
「秋から冬にかけて、富良野で収穫された玉ねぎなどの野菜を滝川経由で札幌貨物ターミナルまで運ぶのじゃ。機関車がやってきたら発車じゃ」
「それ以外の季節は休みですか?」
「トラックでコンテナを札幌貨物ターミナルまで運んでおる。鉄道貨物はエコとして見直されておるのじゃが、野菜収穫シーズン以外は輸送量が少なすぎるのじゃ」
「鉄道貨物、がんばれー!」
「それにのう、くもみ」
「はい」
「根室本線の富良野から新得までは、まもなく廃線になってしまうのじゃ」
「ええっ?」
(ナレーション)「JR根室本線の富良野-新得間は2016年8月の台風で大きな被害を受け、沿線で協議を行ったものの最終的に復興を断念し、2024年3月の廃線が決定しました」
「石川啄木から始まり、近年は高倉健さん主演映画の撮影も行われた路線がこのような形で消えてしまうのは無念じゃ。悲しゅうてやりきれぬ」(やや涙声)
「くもじい…」
「せめて残った区間は、これからも大切にしていってほしいのう!」
「応援したいです!」
「くもみ、今回はどうじゃった…と、あそこにわしの好きなアレがあるぞ!」
♪Firecracker
「あー、富良野にもちゃんとありますね!」
「このもじゃは期待できそうじゃ!」
(テロップ)「? もじゃに覆われた家は何?」
♪Young Dixie Runners
「言われる前からエコじゃった。たまに出てくるもじゃハウス!」
「このあたりじゃな」
「ラベンダーのお花がまだ少し残っています。いいかおり」
「もじゃはどこじゃ?おお、ありじゃの!」
「柔らかなアーチ状の屋根、煉瓦造りに溶け込むかのような紅葉もじゃ、煙突まで覆いつくすもじゃ、こりはもはや芸術じゃ!」
「お家で紅葉狩りができます!」
(ナレーション)「この家は富良野市の文具・印刷会社の所有で、1951年に建てられました」
「もじゃ歴72年!」
(ナレーション)「独特のカーブを持つ屋根は国鉄から払い下げられたレールを曲げたものと言われています。テレビドラマのロケにも使われました」
「リアルレトロ建物の紅葉もじゃ、これからも大切に!」
♪Land of Innocence~希望の大地~
「改めてくもみ、旭川・富良野はどうじゃった?」
「大自然の中で可愛い動物やきれいなお花をたくさん見られてよかったです!」
「そうか」
「都会的なところもありましたし、いろんな苦労を乗り越えて暮らしてきた人たちがとても魅力的でした!」
「そりはよかった。では、もう少しだけ飛んで行こうかのう!」
「はーい!」
<了>
あとがき
6回に分けて執筆、ようやく富良野にゴールインできました。定番の有名観光地も”くもじい的”注目ポイントも並列に紹介しつつ、テレビ番組が1本できるほどのネタを既に持ち合わせている、すなわちそれほどこの地域を繰り返し旅してきたと、改めて実感しました。自動車を運転せず、鉄道や路線バス・徒歩のみでここまで見て回れたことにも我ながら感心します。
羽田空港発旭川空港行きの旅客機は苫小牧上空から高度を下げはじめ、夕張山地を越え、富良野盆地を北上して旭川市内上空で旋回して着陸態勢に入ることは以前から気がついていました。窓側の席を指定すれば番組の撮影よりもはるかに高い位置ではあるものの、空撮映像に近い光景を見られます。事前リサーチで公園アニマル・トンガリ物件・もじゃハウスの3点がこの地域にあることを突き止めて、これは行ける!とひらめきました。
この作品では対象地域内にある著名な町をひとつ外しています。企画を考え始めた時はもちろん含めるつもりで、”じゅるる”ネタを想定していましたが、現地を訪ねたところあいにく都合がつかず、半端に紹介するよりはあえて言及しないほうがすっきりすると判断しました。
対して比布町のナナプラザ、ブイに描かれたドラえもん師匠やアンパンマンさんは町を歩いていて偶然発見できたもので、現地を実際に歩いてリサーチ以上のものが得られた経験はとりわけ印象に残りました。
私はゲームやアニメにはほとんど関心が向きません。本物の番組ではしばしばゲームキャラにちなんだネタが登場して、子供の頃からゲームに親しんできた世代を主要ターゲットにしている節がうかがえましたが、本作のくもじいが繰り出すネタの多くはそれよりひと昔前の流行を反映しています。本物の番組でも「あたり前田のクラッカー」など使っていましたし、古いネタでも多分構わないのでしょう。
鉄道に関しても、本物の番組では車両や検修工場の作業など動きのあるものを強調していましたが、本作では駅の紹介に力点を置いています。
富良野を一躍有名観光地にした人気テレビドラマも、私は全くと言ってよいほど見ていません。純粋にラベンダーや地域のたたずまいが好きで繰り返し旅するようになった人間です。このドラマはテレビ東京系から見て”他局番組”にあたることもふまえて、最小限の言及に留めました。
一方、書いているうちにやはり本物の番組で、すなわちプロフェッショナルが撮影する映像で見てみたかったという思いがひときわ強まりました。私が実際に見てきたものについては具体的に書けますが、旭川空港など一般人非公開の施設についてはどうしても平板的な描写しかできません。
旭川・富良野は映像の被写体としても優れていて、「空から日本を見てみよう」のコンセプトに十分応えられるポテンシャルを持つ地域です。作中で言及した通り、くもじい的注目に値しそうな物件がここ10年でいくつか姿を消していることからも、番組放送期間中にこの地域を取り上げる機会がなかったことはつくづく惜しいです。
最後までご覧いただきありがとうございました。
主な参考資料
旭川市・比布町・当麻町・東川町・東神楽町・上富良野町・中富良野町・富良野市 各公式サイトおよび観光案内サイト
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