どことなく毒草的な

「角、生えてるじゃん」
「…………」
「わ、角抜けたけどまた角生えちゃった。そんな怒らなくてもいいじゃん」
「それが時間潰しのために動画見て待ってた人に向かって言う台詞?」
「褒め言葉だって」
「どこが」
「ワイヤレスイヤホン付けてる姿って格好いいじゃん」
「……そう」
「バビルサみたいで」
「バリキャリみたいって言いたいにしては噛みすぎじゃない?」
「いや、バビルサみたいで」
「突然意味不明な古代ギャル用語みたいな単語言ってくるの何」

「豚に鹿って書くらしいよ」
「まさか馬鹿にしてる? 調べても豚と鹿の合い挽肉しか出てこないけど」
「どれ? 美味しそうじゃん。これ食べに行こうよ」
「いちごパフェ食べたいって終業後に突然呼びつけたのあなたでしょ」
「じゃあイチゴパフェ食べた後に行こう」
「普通は反対でしょ」
「時代は締めジビエ」
「確かにジビエは締められた末の獣肉だけど」
「いちごも狩るものだから実質ジビエで食べ合わせはいいし」
「呆れた。よく回る舌ね」
「そんなそんな、タンでもないです」
「…………」
「その冷たい目刺さるわ」

「で、バビルサって何」
「なんだっけ、あれだよあれ」
「アレアレ詐欺?」
「あ、そうだ。『死を見つめる』って言われてる」
「胡散臭い自己啓発本?」
「あと毒草を食べるらしい」
「発狂した菜食主義者?」
「あとは……あとは……」
「無理に探さなくていいから。気になってきたしもう自分で調べるわ」
「歩きスマホは危ないよ?」
「店探しも場所案内も任せてる人の言う台詞じゃない」
「ふふ、その言葉さっき聞いたわ」
「…………」
「ごめんて」

「『伸びすぎた牙が頭に刺さって死ぬので死を見つめる動物と呼ばれる』」
「なるほど」
「『異常に牙が伸びる理由は異性に魅力的に見えるように進化したから』」
「ふふ、それって私たちみたいね」
「その台詞あなたが思ってるより万能じゃないわよ」
「ふふふふ」
「……まぁいいけど。それに、似てるのはあなただけじゃない?」
「え、目線露骨すぎでしょ。セクハラじゃん」
「話題を振ったのが誰か思い出すべきね。それに毒草も好きでしょ?」
「もしかして私今プロポーズされてる?」
「三行半よ」
「プロポーズの台詞は長くする派なんだ」
「もうそれでいいわ」

「あ、言ってた店ってもしかしてここ?」
「…………ここね」
「うーんlosedって書いてあるわ。私たちの勝ちみたいだね」
「義務教育の敗北。closedに決まってるでしょ」
「じゃあ私たちの負けってこと?」
「そうね。あと30分早ければ空いてたかもしれないけど」
「うーんシビアだね」
「ジビエだけに?」
「ジビエだけに」
「お、そこの馬肉専門店空いてそうだね。兎にも角にも入っちゃいますか」
「ジビエだけに?」
「何の話?」
「…………」
「わ、また角が生えちゃった」


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