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[私の夢と罪]




叶えたい夢がある
私には取り戻したい宝物がある
亡くした大切な気持ち…

私には大好きな人がいた
いなくなってから
もう随分経つ…

その人への気持ちは時を追う事に
薄れていった

今はもう、これっぽっちも残っていない…


頭の片隅に
「あぁ、大好きだったなぁ」という
事実だけが
シミになって残っている…ただソレだけ…

朝日と共に起き
畑を耕し
種を蒔き草を刈る

日没と共に食事をして
糸を紡いで布を織り
フクロウの声を子守唄にして眠る

毎日…毎日…
それを繰り返す

私の育てた作物は美味しいと評判だ
愛を込めているから

私の作った布は美しいと重宝される
そうなるように想いを織り込んでいるから

そんな私は決して不幸ではない
むしろ裕福で幸せだ

それなのに
人は私を指差して言う
「かわいそう」だと…
「心を無くしてしまって不憫だ」と…

私は週に一度、作物や布を街へ売りに行く
荷車に品物を乗せて
ロバに引かせて
舗装されていない田舎道を
私はロバの手綱を引いて歩く

街に着くと私が作った品物目当てに
人だかりが出来る

私の市は、いつも盛況だ
良い買い物ができたと街に笑顔があふれる

それなのに
人は私の顔を見て言う
「かわいそう」だと…
「笑顔を忘れて憐れだ」と…

どうやら私は
…感情をなくしてしまったらしい…

叶えたい夢がある
私には取り戻したい宝物がある
亡くした大切な気持ち…

ある晩
私は
空に輝く星々に祈った

街に行く度に
人々が私を見て悲しい顔をする
私は、どんな事を言われても気にならない
だけど
人々が悲しい顔をするのを見ると心が痛む…

きっと
かつては私に心があった名残りなのだろう…

心が痛む…
だから私は願った

空に輝く星々に祈り願った

夜の光
お月様や星々の光を浴びながら
その光を織り込んで作った輝く布を
天に捧げた

両手で空に向かって掲げて
祈った!
願った…

目を瞑って
心が欲しいと呟き続けた…

どれだけの時間が経っただろうか…

空から声が聞こえてきた

穏やかだけど
凛とした強い声…

私は…聞き覚えがある…

目を開けて見上げると
手を伸ばせば届きそうな所に
女性が浮いていた…

目の前に
羽衣を纏い
フワフワと宙に舞う女性の姿があった

女性は言う…
「傲慢だったお前が、
心を亡くしているにも関わらず…
このように健気に祈るようになるなんてな…
思いもしなかったよ…」

そう言いながら
その女性は私に向かって掌を向けて
何やら呪文を唱えた

私の中に電撃が走る
衝撃と共に失くしていたモノが
私の中に流れ込んでくる…

頭の中を目まぐるしく過去の記憶が駆け回る「あぁ、私は女神様をも見下していたのだ…」

私は目の前の不思議な女性に謝罪した…
涙ながらにひれ伏し頭を下げた…

女性が言う
「もう良い…私も行き過ぎたことをしてしまった…許しておくれ…それよりもお前が作る布は素晴らしい!星々の輝きが染み込んでいる…」

女性は、私から布を受け取り
また呪文を唱えた…すると…

私の傍らに控えていたロバが光り輝く
弾けて光の粒になった後…光が再び集まり…
一人の男性の姿になった…

私は、声にならない声を振り絞って…抱きついた…

忘れてしまっていた私の大切な人…

女神様が
私を許してくれた…

私は心を取り戻した…

戻ってきた恋人にロバだった頃の記憶はないキョトンとしている…
私は
泣きながら
笑いながら
彼を抱きしめ続けた…

女神様の心は広く
私達を祝福してくれた

叶えたい夢がある
私には取り戻したい宝物がある
亡くした大切な気持ち…

私は失くしていた大切なモノを取り戻した…


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