【時事】コオロギ食の情報整理
若干沈静化してきたようにも思いますが、twitterを開けば朝から晩までコオロギ関連のツイートが目に入ります。情報が錯綜していますし、しばらく時間が経てば再燃する可能性もありますので、今のうちに情報を精査しておこうと思います。
目的は「民間企業が風評に悩まされている」のを少しでも払拭するためではありますが、不都合な事実が出てきてもそれはそれとして記載していこうと考えております。
私のスタンスも表明しておきます。
・食べたい人は食べればいい、食べたくない人は無理に食べなくていい
(他の食材と同等。野菜嫌い、生魚嫌いもいるようなもの)
・SDGsには好意的でも否定的でもない。
・私自身は「変わった食材」に抵抗がないため、食べてみたい派
(ただいま、クッキー取り寄せしております)
・本当に危険性があるならそれは周知されるべき
そうでない事実に基づかない風評はあってはならない。
とまあ、こんな感じです。
◆ 徳島の高校の給食で出た件
1 時系列整理
2022年11月
・生徒同士が市販の乾燥食用コオロギを食べるゲームをしていた。
・教師が美味しさに驚き、環境を考える契機にと給食導入を考えた。
・ベンチャー企業・グリラス(鳴門市)からパウダーの提供を得る。
・食物科の生徒らがパウダーを使った「かぼちゃコロッケ」を考案。
・在校生のうち約170人が試食に加わった。
・食べるか否かは自身で選択可能。
・給食を考案した生徒「最初は抵抗感があったものの、香ばしくて美味しい食材だと感じた」
2023年02月
・2回目の給食、メニューは「大学芋」
2023年02月下旬
・ネットメディアを中心に話題になる。
(引用元:J-CAST NEWS)
2 徳島県教育課の声
3 生徒の声
楽しんでいる様子が浮かびますね。今後も、貪欲に新規の食材に挑んでいただきたいなぁと思います。
4 学校側の声
コオロギが甲殻類アレルギーがある旨は告知済みだった事がわかります。
また、ここでわかるのが、誤解を招く要因の一つが「給食」という言葉です。これは食物科の「調理実習」というカリキュラムの下で行われていて、いわゆる小中学校の全員一律の「給食」というイメージで語られるには、少々乖離しているのが実態。また「食べるも食べないも自由」で選択制だったとの事です。
ネットで散見された「選択しなければおかずが一品減ってしまう」を確認してみましょう。
5 実際の給食画像
この右下のカップに入っている分が当該コロッケです。もっと「メインディッシュのような扱い」で考えられていた方も多いと思います。私としても、予想以上に小さくて少し驚きました。
【著者私見】
まず小中学生の給食のイメージからは乖離した「高校 / 食物科 / 調理実習 / 選択制」の要素を勘案しないと正確なイメージが喚起されにくいと思います。生徒考案のメニューである旨、生徒の喫食後の評価も予想と違った方が多いのではないでしょうか?生徒は「満足している」ようです。
◆ PASCOとFUTURENAUTの件
1 時系列整理
2020年12月
・昆虫食の大学発スタートアップ「FUTURENAUT」(群馬県高崎市)と共同で「Korogi Cafe(コオロギカフェ)」シリーズを展開
・パンやフィナンシェなどにコオロギパウダーを配合し、通販限定で販売
・発売開始2日で完売したほど好評を博した
2023年02月中旬
・昆虫食の是非がツイッターで議論となり、敷島製パンにも飛び火
2023年02月下旬
・PASCO、風評被害に対し法的措置に言及
2 PASCOの対応 / 回答
3 FUTURENAUTの対応 / 回答
【著者私見】
双方、誠実な対応をしておられるものとお見受けします。変な隠蔽や印象操作などをする事もなく、きっちりお答えしているのではないかな。
◆ 事実確認
1 内閣府の食品安全委員会の資料の件
ネットで俎上に上がる2018年の内閣府の食品安全員会の資料、twitterでご覧になられた方も多いと思います。当該資料はこちらです。
(1)総計して、好気性細菌数が高い。
(2)加熱処理後も芽胞形成菌の生存が確認される。
(3)昆虫及び昆虫由来製品のアレルギー源性の問題がある。
(4)重金属類(カドミウム等)が生物濃縮される問題がある。
これは欧州のEFSA(欧州食品安全機関)の2018年資料に記載があり、それを抜粋したものです。が、これは2022年にUPDATEされており、懸念は払しょくされています。(提案された用途及び用量において、当該新食品はヒトの消費に対して安全であると結論していると記載有)
食品安全委員会の資料はこちらで検索可能です。
では個別に確認してまいりましょう。
大雑把にまとめると、カドミウムやアレルギーも含めて「コオロギだけが危険という訳ではなく、他の生物同様」というもののようです。
重金属およびアレルギー物質については、英国食品基準庁の見解も記載しておきます。
2 コオロギ食習慣の件
日本では、新潟県、福島県、長野県、山形県などで食べられてきた記録がいくつかの研究論文で報告されています。概要は「昆虫食文化事典, 三橋淳著」にまとめられています。
日本において、イナゴと比較してコオロギが一般的な食用昆虫とならなかった理由は、大量に捕獲することがイナゴに比べて困難だったことが理由の1つだと考えています。一方、タイやカンボジアなどではイナゴと同様にコオロギは一般的な食用昆虫として食べられてきた歴史があります。
レファレンスデータベースでも記載がありますね。
2-追記 海外でのコオロギ食
110ヶ国で2100種の昆虫食消費
500種がアフリカ、324種が中国 、255種がインド、164種がタイ。
直翅類では、コオロギは世界中で最も消費されているようです。
3 キチンについて
「人間はコオロギを消化する酵素を持っていない」という主張も目にします。これはどうやら「コオロギに含まれるキチンという成分は人間には消化できないから健康被害が出る」という主張。まず、キチンへの無理解が根底にあるのかなと思います。
キチンについてはカニやエビの甲殻以外にも、キチンを含む生物はイカ、貝類、キノコやカビなど多岐にわたっています。消化できないものも、人間は普通の食生活で口にしています。コオロギがNGなら、カニやエビ、イカや貝類も同列ですね。
4 漢方の辞典に「妊婦は禁忌」の記載
「コオロギは、微毒。妊婦には、禁忌。 出典:漢方医学大辞典」というツイートも目にします。
これに関してはTAKEOさんの解説を拝借。
東南アジアでは妊婦を含めて日常的にコオロギを食べている地域がありますが特に東南アジアで不妊が多いわけでもなさそうです。特にミネラル分の補給を目的として医師が妊婦にコオロギ食を勧めているケースもあるとの事。
(3/12追記)
判明した事実を整理のため追記しておきます。これは少し複雑なので、極力わかりやすいように…。まず出典の「漢方大辞典」ですが、ここのコオロギの箇所の出典は「本草綱目」となっています。本草綱目とは、1500年代に中国で書かれた、当時の漢方の集大成みたいな書物のようです。
4-追記1 本草綱目の誤訳?(出典との乖離)
実はこの「本草綱目」と、後に日本で出版された「漢方大辞典」に差異があるようなのです。
https://twitter.com/oekakimaestro/status/1621420683883601922?s=20
しんじさんのツイートを拝借。整理すると下記のようになります。
・これはそもそもカマドウマの記載との事。
・蟋蟀に関しては別枠で記載があり
・そこの「気味(有毒/無毒等)」には何も書かれていない
・不妊の記載もない
この事から、出典の「本草綱目」と「漢方医学大辞典」の内容がそもそも乖離しているのがわかります。要約すると「本草綱目には毒性についても記載なし、妊婦に禁忌という記載もなし」です。
4-追記2 漢方医学大辞典の中でも乖離がある。
こちらでは「微毒」や「妊婦は禁忌」の記載があります。
が、こちらではむしろ効能を大きく謳っているのです。
アップにするとお分かりいただけるかと思いますが、前半は主に「利尿作用」について記載されています。では「妊婦についてはどう記載されているのか?以下、私なりの解釈。
・闘蟲(闘牛や闘犬のように虫を争わせる遊び)では蟋蟀が盛ん。
・その百戦百勝のものを将軍と呼ぶ。
※上記漢方大辞典の「別名は将軍」はこの事を指している?
・蟋蟀は冬になると必ず死ぬが、軽々しく捨ててはならない
・保存しておけば産厄を救う神驗(効き目、ご利益)がある
・凡そ産に臨んで分娩せぬには乾いたもの一箇の煎湯を服すれば生まれる
・主に横産、逆産の患がない
これで何故「妊婦は禁忌」となるのかが不明です。大きく効能を謳っているようにしか思えませんね。
5 プリン体について
コオロギはプリン体が非常に多く含まれているという情報の検証です。
TAKEO ONLINEさんがこれについて検証しておられます。以下引用。
ポイントは2つ。
➊上記の通り、ここには尿酸が含まれていた
❷卵白も鶏むね肉の数値も随分高い。
では2021年と2022年のデータはどうなっているでしょうか?
プリン体総量ということでは「一般的な食肉と比較し、コオロギのプリン体は同等かやや高い」とのこと。
鶏レバーのプリン体総量
湿重量あたり 312mg/100g(水分75%)
乾燥重量あたりに換算すると 1248 mg/100g となります。
鶏レバーと比較すると、コオロギのプリン体は同等(かちょっと少ない?)とも言えるかもしれません。
TAKEO ONLINEでは「痛風や高尿酸血症の方への影響の程度は今後の研究が待たれますし、私たちも注意していきます。でも気にする方は食べないほうが良いかもしれません。いずれにしても結局は食べる量の問題です」と記載されておられます。まあ、その通りですよね。
5-追記1
良く出回る画像について追記しておきます。
上図の右側がプリン体について語られるときによく出てくる画像。左側がオリジナルです。元々は「糖尿病ネットワーク」というサイトに掲載されていたもので、これを改変したもののようです。3141.9mgは上記説明のとおり尿酸を含むもの、M. Sabolová, et al. 2022の数値で言うと323 – 1322 mg/100gとなります。同等の算出基準で鶏レバーを計測すると1248 mg/100gです。
6 ドライクリケット表示
乾燥コオロギを原材料表示に「ドライクリケット」と記載すると、知らぬ間に買ってしまうのではないかという声もありました。その表示がこちら。
表面のパッケージがこちら。誤認しようがないレベルで「コオロギ」が前面に出ています。コオロギは現在まだ高値推移していますし、付加価値商品の分野だと思いますので、むしろ隠す理由がないですね。
メーカーのFuturenautさんの回答がこちらです。
7 聖書の記述が書き換えられたとの噂
聖書には禁忌の記載項目があって、ここの記載が書き換えられたという噂。ではこれはどこがどうなったのでしょうか?
これはツイートした方の勘違い、もしくは確認ミスだと思われます。
8 補助金について
これはBuzzfeedさんが既にきっちりと確認しておられたので、そのままお借りします。
「コオロギ事業に6兆円」昆虫食めぐり“血税が使われている”と拡散した情報は誤り。実際の予算額は? (buzzfeed.com)
あれは農業や畜産業全般への補助金なので、コオロギ養殖のために設けられた補助金ではありません。紐解いてみるとこうです。
・SDGs Action Plan2021全体:6.5兆円
※色んな産業を含むかなり多岐にわたったものの総額
・農水省新事業創出・食品産業課題解決調査・実証等事業:2億300万円
・フードテックビジネス実証事業:3,000万円
※これはコオロギに限った補助金ではない
なお、FUTURENAUTさんはこのように述べておられます。
6-追記1 補助金情報追加
【著者私見】
上記の通り、ほぼ「事実無根のデマが跋扈している」が現状でした。冷静に堅守しておられる方の意見も、多数派に押し流されているイメージです。