【時事】岸田総理 実績情報整理 Vol.1
世間的には悪くない水準で支持率をキープしている岸田総理。が、保守界隈からは彼の方針を揶揄するかの如く「検討使」なる言葉まで飛び交っていたのは記憶に新しいかと思います。
岸田総理は本当に「検討するだけ」なのか、「実行する力」が欠落しているのか、歴代総理と比較して見劣りするのか、このあたりを検証していきたいと思います。なお、順番は時系列順ではなく「筆者の思いつき順」です。
長くなりすぎるので、前編後編に分けます…
◆実績や発言について
01.経済安保法案
「経済安全保障推進法」を成立させたのは非常に大きな功績だと思います。安全保障と聞くと「軍事」を思い浮かべがちですが、これは経済・企業活動と密接に繋がるものだったりします。科学技術や情報を諸外国に盗まれるのを防ぎ、半導体や医薬品を確保するのが目的の法案です。下記の4本の柱がそれです。
①医薬品や半導体などを安定的に確保するサプライチェーン強化
②サイバー攻撃に備えた基幹インフラの事前審査
③先端技術での官民協力
④原子力、高度な武器に関する技術に関しては特許出願の非公開
02.半導体工場誘致/設立
米国、韓国、台湾、中国では、半導体ビジネスは「国策」で、巨額の資金が投入されていますし、税制面等の支援もあります。日本はかつて半導体シェアが世界の50%以上だったのですが、日米貿易摩擦を境に勢いが低下していきます。輸入依存の近年、半導体不足で家電店から様々な商品が供給不足に陥っていたのは記憶に新しいかと思います。
経済産業省は、2021年6月に「半導体・デジタル産業戦略」を公表し、半導体産業再生に向けたロードマップづくりに乗り出しています。具体的には下記の3項目が掲げられています。
①製造基盤の確保
②次世代技術に向けた日米連携
③ゲームチェンジとなりうる将来技術の開発
関連する半導体関連の企業の動きも記載しておきます。
TSMC
台湾の半導体メーカーTSMCは、ソニーセミコンダクタソリューションズともに熊本県に新工場を建設することになりました。2022年、設備投資額を従来から1800億円増の約1兆円に引き上げると発表。追加で自動車部品大手のデンソーが約400億円を出資することも明らかになりました。
Rapidus
北海道の千歳市に拠点を構えるRpaidusについても支援表明しています。2020年代後半の製造基盤の確立に向け千歳市拠点設立の表明を巡り、政府として半導体人材の育成、関連産業など地元企業との連携強化を後押しする考えを示した。
03.原発再稼働
2022年に「冬の電力の供給不足が懸念される」と騒がれていたのはご記憶にある方も多いかと思います。昨年7月、エネルギー対策をめぐり岸田総理大臣は、萩生田経済産業大臣に対し最大9基の原発の稼働を進め、国内の電力消費量の1割相当の電力を確保し、火力発電の供給能力を追加的に10基分確保することを目指すよう指示したと明らかにしました。
また「これらが実現されれば、過去3年間と比べ、最大の供給力確保を実現できる。政府の責任であらゆる方策を講じ、この冬のみならず、将来にわたって電力の安定供給が確保できるよう全力で取り組む」と述べました。
04.独従軍慰安婦像撤去依頼
日独首脳会談で、岸田総理はショルツ首相に直々にドイツのベルリンに設置されている慰安婦像の撤去を要請していました。岸田首相は「慰安婦像が引き続き設置されているのは残念だ。日本の立場とは全く違う」と伝え、撤去に向けた協力を求めています。ショルツ首相も理解を示してくれています。
これは現実的には市民団体の反対や設置場所などの問題で撤去には至っていませんが、強く発信されたことは評価したいです。
05.ロシア経済制裁
文面にするとかなり分量が多くなるので、少々割愛しています。
金融措置等
■ IMF、世界銀行、欧州復興開発銀行等、多国間金融機関から融資の防止
■ デジタル資産などを用いた露による制裁回避への対応
■ ロシア中央銀行との取引を制限
■ プーチン大統領、露政府関係者、財閥であるオリガルヒ等の資産凍結
■ 露12金融機関、及びそれらの子会社に対し日本に有する資産を凍結
■ SWIFT(国際銀行間通信協会※後述)からの露排除 などなど
貿易措置
■ 最恵国待遇の撤回
■ 機械類、一部木材、ウォッカ、金などの輸入の禁止
■ 贅沢品の輸出の禁止
■ 露軍事関連団体に対する輸出、半導体など・先端的物品・石油精製装置等・ロシアの産業基盤強化に資する物品・化学兵器等関連物品のロシア向け輸出に関する制裁
■ 石炭・石油輸入のフェーズアウトや禁止を含むエネルギー分野でのロシアへの依存低減
査証措置(ビザ)
■ ロシアの関係者に対して、日本への査証発給の停止
※SWIFT=国際銀行間通信協会はベルギーに本部を置く非営利組織、国際金融の送金を手がける世界的な決済ネットワークです。世界の1万1000以上の金融機関が利用し、決済額は1日5兆ドル(日本円でおよそ670兆円)ほど。SWIFTから締め出されれば、貿易の決済が難しくなるため、ロシア経済に打撃を与える最も厳しい制裁の1つとされていました。
これに関して、いかほどの効果があったのかは意見が分かれてはいます。
効果は限定的だったという見方
ロシアも石油や天然ガスが主要な輸出品です。当初は外国企業との決済が難しくなり、経済に打撃を与えられると見られていましたが、ロシアの去年1年間のGDPの伸び率で見てみると2.1%の小幅なマイナスでした。
今回の金融制裁はロシアの全銀行をSWIFTから締め出した訳ではありません。政府系ガス会社の銀行など一部の銀行を残す形にしたので、そのあたりが影響したとみられます。欧州ではロシアの天然ガスに依存している国も多く、決裁停止に踏み切れなかったのです。また、中国などの複数の国は制裁に加わらず依然として資源を購入していたことも要因の一つ。
効果は出ていたという見方
麗澤大学の中島真志教授はかなりの制裁効果が出ているとみています。
ロシアの輸出にも打撃を与えようと、欧米などはロシア産原油に「上限価格を設定する追加制裁」も打ち出しました。軍事費も膨れあがり、財政収支も悪化しています。
06.NATO首脳会議に招かれる
岸田総理のNATO首脳会合への出席のポイントは下記の通り。
❶ NATOからの招待を受けたもの
❷ 日本の総理大臣による出席は史上初めて
NATO加盟国30か国以外に主要パートナー国として日本、豪州、ニュージーランド、韓国、スウェーデン、EUの首脳等が出席。同会合では、ウクライナ侵略、インド太平洋地域の安全保障情勢等について議論が行われました。
07.防衛費増額
防衛費GDP比2% / 5年間で防衛費43兆円
「防衛費1%枠」という言葉を聞いた事がある方は多いのではないでしょうか。GNPに対する防衛費は1952年度予算の2.78%から徐々に減少、1967年度以降は1.0%を切っています。そして、毎年度の予算枠として1976年11月に三木政権によって閣議決定されたのが1%以内の枠。これも1986年12月に中曽根政権が撤廃を决めましたが、政策の撤廃後も防衛費水準はほぼ1%前後。ちなみにNATOは加盟国に対してGDPの2%以上を国防費とするよう要求しており、2021年時点ではGDP比2%を達成した国々が全30加盟国中11ヶ国。
岸田総理は2022年12月に「防衛費2%」に達する増額を打ち出しました。
08.防衛3文書閣議決定
上記2%公言の時に併せて「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3つの文書を閣議決定しています。内容は下記の通り。
09.日豪安保・日豪共同宣言
2022年10月、日豪首脳会談が開催され「安全保障協力に関する日豪共同宣言」が発表されています。同会談ではTPP11協定、自由で開かれたインド太平洋構想、日米豪印の連携、ロシアのウクライナへの核使用示唆への批判や、北朝鮮の核問題・拉致問題などが話されています。
2006年に安倍元総理が提唱したのがきっかけで組織された「QUAD」(加盟国:日米豪印)の路線を継承している動きですね。
10.安倍元総理国葬儀決定
昨年、安倍元総理が凶弾に倒れてご逝去されました。これを受けて超迅速に国葬を決定して、無事に執り行いました。これがいかに迅速な判断だったかを時系列を記します。ご逝去から国葬決定まで1週間未満なのです。
2022/07/08(金) 安倍元総理ご逝去
2022/07/09(土) 選挙戦最終日
2022/07/10(日) 投開票
2022/07/11(月) 関係者通夜
2022/07/12(火) 安倍元総理葬儀
2022/07/14(木) 国葬の方針発表
(ここは単なる私見ですが…)反発も多かった国葬ですが、決定前からそんな事は容易に予測できたことです。おそらく岸田総理は「他でもない安倍元総理を送り出すためだから、それでも構わない」と考えていたように思います。「検討するだけ」の方にこんな迅速で力強い決断は出来ないですよね。
11.国葬儀時来日の首脳陣と会談
安倍元総理の国葬儀において、各国・組織首脳が多数来日しておられます。こういう表現はよろしくないかもですが、個別に来日しておられたら警備やテロ対策が非常に煩雑になり、下手したら国際問題になりかねないので、一時期にこうやって各国首脳陣と会談や表敬訪問を受けるのは非常に効率的だったと思っております。
国葬儀に来日された方々と、岸田総理は多くの会談を行っております。表現は良くないかもですが「転んでもただでは起きない」ような印象です。
(※褒めていますので誤解のなきよう)
可能な限り拾ったのですが、漏れがあったら御教示ください。
12.憲法審査会定例化
私見ですが、安倍元総理の時に野党が躍起になって森友学園だ、加計学園だ、桜を見る会だと騒いでいた目的の一つは「改憲議論の足止め」だと思っております。実際、停滞してしまった感は否めません。
岸田首相は任期満了を迎える「2024年9月までの改憲」を目指していますが、ではどのくらい精力的に実現に向けて動いているのかを検証。
16回の開催は過去最多。改憲を党是に掲げる自民党だけでなく、維新、国民民主党も後押ししています。野党構成比が変わったのは大きい要因ですね。
衆議院における開催回数が多いですね。それにしても、民主党時代のやる気のなさときたら…
13.G7サミット広島開催決定
令和4年5月23日、岸田総理大臣とバイデン米国大統領の共同記者会見において、2023年G7サミットを広島で開催するとの発表があり、広島開催が決定。日程は令和5年5月19日~5月21日です。
原爆の落とされた広島に、米・英・仏などの核保有国首脳が集います。
14.霊感商法被害者救済のため法改正
2022年12月、霊感等による知見を用いた勧誘による消費者被害の深刻化に対応するため、「消費者契約法及び独立行政 法人国民生活センター法の一部を改正する法律」が成立しました。安倍元総理の事件後、多くの被害が浮き彫りになった感がありますが、ご逝去半年未満で法改正です。
ちなみに、この法改正に尽力したのは河野大臣です。
15.女性の再婚禁止期間廃止
女性は離婚後半年近く再婚が出来ないという法律を聞かれたことがある人は多いと思います。再婚禁止期間が定められていた理由は、再婚後すぐに生まれてくる子供のためでした。父親が「元旦那」なのか「新しい旦那」なのかによって、扶養義務や相続権が変動するからですね。以前は180日でしたが、平成28年に法改正で100日に短縮されています。
が、離婚直後に別の男性との子どもを出産した場合、前の夫の子どもとされないよう母親が出生届を出さず、無戸籍となる問題が依然として解決していませんでした。
今回の民法の改正案ではこの問題を解消するため、離婚直後に子どもが生まれたとしても、母親が再婚していた場合は「子どもを、再婚した夫の子どもと見なす」という新たな規定が設けられました。また、女性の100日間の再婚禁止期間の廃止も盛り込まれています。
明治以来続いてきた法律が、現代風にUPDATEされたのです。
◆筆者私見
コロナ禍、少子高齢化、ウクライナ情勢、インフレ、半導体不足、安倍元総理の事件とかなり難易度の高い時期の政権運営。正直、よくぞここまでやってるなぁ、というのが私の意見です。
「検討を加速する」どころか「フルスロットルであらゆる事を具現化」しているのではないでしょうかね。失態があった場合の批判はあって然るべきでしょうが、正確に認識を出来ていない批判は単なる難癖と化します。
自戒も込めて「まっとうに動いている方を批判しないように」と思います。