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【書籍】「1984年」ジョージ・オーウェル

政治系のnoteは「間違ってはいけない」というプレッシャーがあります。誤情報を発信してしまうと、有権者の選択に何らかのマイナスの影響を与えてしまうので、慎重に慎重に名前や時系列、法律の条文や公式の統計を調べなきゃいけないです。まあ、自分の脳内整理が一番の目的、趣味の範疇なのでそれはそれで楽しいのですが、息抜きに音楽や映画や小説などの記事も書きたい訳なのですよ。まあ、こっちは読者が少ないんですけどねw

今回はディストピア小説の最高峰であるオーウェルの「1984年」について書きます。読んだ事がある方も結構多いと思います。政治系で言うと、マイナンバー反対の方が「1984年のように監視社会になる」という論調で語られるので、左派リベラルな方によく引用されるイメージですが、そういうのは抜きにして純粋に小説として紹介。


物語

時代は1984年。1950年代に起きた核戦争により、世界は3つの独裁国家(オセアニア、ユーラシア、イースタシア)によって分割統治されています。この3つの国は、間にある紛争地域をめぐって絶えず戦争が繰り返していました。舞台はこのうちの一つの「オセアニア国」のロンドン。

主人公のウィンストン・スミスは、真実省で働く青年。彼は国家のために「歴史を改竄して国民に知らせる」のがお仕事。つまり「政府の欺瞞を知る立場」です。国家に忠誠を誓いながらも、心の中では政府のプロパガンダやその支配者である「ビッグブラザー」に密かに反骨神を持ちます。

が、独裁国家のオセアニア国の監視体制は強固です。思想、言語などあらゆる市民生活に統制が加えられています。物資は欠乏、市民は常に双方向テレビ「テレスクリーン」によって監視されているのです。不穏な思想や行動はすぐさま密告されて、厳しい刑罰が下される。そんな恐ろしい国。

スミスは、古道具屋で買ったノートに「自身の考えを記録する」という、禁止された行為を始めます。そんな中、同僚の若い女性、ジュリアから手紙による告白を受け、愛し合うようになります。最初はジュリアを「体制側のスパイでは?」と疑っていたものの、徐々にその考えが杞憂であり、二人は愛し合うようになります。そしてとある店を隠れ家とし、ジュリアと共に過ごします。

スミスは、党内局の高級官僚のオブライエンと出会い、現体制に疑問を持っていることを告白。禁書をオブライアンより渡され、それを読んだスミスは体制の裏側を知るようになるのですが、ここで暗雲が。

禁止された行為の数々がとある人物の密告から明るみに出て、ジュリアと一緒にウィンストンは思想警察に捕らえられ、オブライエンによる尋問と拷問を受けることに。

拷問の末、彼らが選んだ選択は実に恐ろしい、おぞましいものでした…。


感想

私は比較的バッドエンド作品の余韻が結構好きだったりします。頭を後頭部からガツンと殴られるような衝撃。まあ、フィクションだから安心してこれを楽しめるのですけどね。まあ、さすがに世界に名だたる作品だけあって、そのインパクトはなかなかお目にかかれないレベル。

初めて読んだ時は遠藤周作の「沈黙」を思い出しました。「1984年」と「沈黙」は全く違うジャンルではあるのですが、追い詰められた人間が苦渋の選択で心をへし折られる感じが似てるなぁ、と。

この作品が描かれた時代背景は共産主義がその勢力を伸ばしている時代です。スターリン時代のソ連、ヒトラー時代のナチスドイツあたりをモチーフにしているとの事で「政府に思想信条を抑圧される恐怖」は、これでもかというくらい丹念に描写されています。「ニュースピーク」「ビッグブラザー」「二重思考」などは、現代日本に生きる私からは想像もつかない怖い世界。ただ、すぐ近くにある北朝鮮などを考えると「あり得なくもない世界」だったりするのですよね。

不思議なのは統治者のビッグブラザーと、人民の敵(独裁政党を打倒するために、どこかに潜伏している反体制グループの主軸)ゴールドスタインは作中に一回も出てこないのです。「桐島、部活やめたってよ」的な「最後まで謎の存在」なんですよね。実在が疑わしいというか、もしかしたら、双方でっちあげのカリスマなのかな、と思ったりもします。

この作品が怖ければ怖いほど、当たり前の日常って実は奇跡のようなものなのかも、と思ったりもしました。人類の歴史は戦乱と内紛の歴史。平和ってのは危ういバランスの上に成り立っている。戦争が終わった後の日本に生まれたのは、かなりラッキーです。だからこそ、これを維持するべきなんですよね。(武力をもって防衛力を高めて維持するのか、9条を守って平和を維持するのかは本書の感想とはずれるので割愛)


カルチャーへの影響

ショッキングなこの小説はカルチャーシーンにも多大な影響を与えました。音楽的にはロックカルチャーってのはやっぱり「監視社会」や「権力・ファシズム」に対してはかなり忌避感が強いジャンルでしょう。反骨精神を皆さん、大いに発揮しておられます。多分、私が知らない作品も結構あるとは思うけど、知りうる限りで関連作品をちょい紹介。※私が知らんだけで、おそらくはこの作品に影響を受けた作品はあると思います。


音楽「1984」David Bowie

オーウェルの小説にインスパイアされた「Diamond Dogs」というアルバムがあります。その中でも、そのものズバリの「1984」という曲があります。これ、Bowieの中でもスリリングさではトップクラスじゃないかなぁ。めちゃめちゃ好きです。


音楽「Sex Crime(1984)」Eurhythmics

1985年に本書は映画化されているのですが、そのサウンドトラックを手掛けているのがEurhythmics(まあ、映画会社と監督の軋轢で実は本編中に楽曲がほぼ使われていないという謎展開だったりもするのですが)です。Annie Lenoxは本当に歌が上手いなぁ。不安定さがゼロというか、いつ聴いても完璧なんですよね。


音楽「2+2=5」radiohead

これは小説本編に出てくる「ビッグブラザーに盲目的に従うために、知性を剝奪された民衆」が教えられる数式です。radioheadならではの不安を掻き立てられるスリリングな曲になっています。彼らは「めっちゃ美しい繊細なメロディ」の曲も多いけど、個人的にはこういうバランスの曲が好きです。いつ聴いてもかっこいいなぁ。


音楽「The Resistance」MUSE

これ、割と最近のアルバムの気がしてましたが2011年だったのかと愕然。まあ、それはどうでもいいか。直接「1984年」にちなんだ楽曲がある訳じゃないけど、メンバーが「1984年」にインスパイアされてこれを作ったと仰ってました。グラミー賞受賞アルバムだったりもします。


音楽「Big Brother」Stevie Wonder

名作「Talking Book」に収録のこの曲も「ビッグブラザー」をテーマにしています。歌詞は割と怖いのに、なんか陽気な曲なんだよなぁ…


音楽「Orwellian」Manic Street Preachers

これも外せない、我らがマニックスの「オーウェリアン」です。オーウエルの名前にちなんだ作品。We live in Orwellian Times…僕らはオーウェルの時代に生きている。これも歌詞はなかなか怖いです。けど、サウンドは明るいんだよなぁ。


アニメ「PSYCHO-PASS」

この作品は読書好きを唸らせる書籍が頻繁に登場します。キルケゴールだったり、オーウェルだったり、ニーチェ、クラセヴィッツだったり。天才犯罪者の槙島が読んでいた本のひとつがこれでしたね。

槙島が読んでいた本の一覧にまとめた方のnoteを発見しましたので、引用させていただきます。


アニメ「攻殻機動隊 SAC 2045」

まあ、攻殻機動隊もある意味ディストピア+サイバーパンクなイメージですので、これが出てくるのは必定、必然という気はします。この作品の中では、空挺部隊のおじさんが「1984年」の紙の本をタカシくんに渡していました。

まあ、機会があれば是非是非作品に触れてみてください。おそらく「人生最大級の怖さ」が味わえます。

新訳版の解説はトマス・ピンチョンなのか…私も再購入するべきかな…


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