【映画】メモリーズオブサマー
映画「メモリーズオブサマー」を観た。最高だった。以下、ネタバレを含みます。
メモリーズオブサマーを翻訳すれば夏の思い出といったところであろうが、この作品ではひと夏を通じて少年が大人になるまでが描き出される。そう思って映画を観た。
まず、冒頭のシーンに心打たれた。雨が上がって日差しがさしている情景。そこに、少年とその母親が歩いている。何か悪いことが終わって、これから良いことが起こる様子を暗示しているのかと思ってみていたが、2人の表情は暗い。
その後、母親と少年は踏切を渡ろうとする。しかし、踏切の途中で少年は突如立ち止まる。横からやってくる列車。ひかれそうになる少年。踏切を渡りきった母親はそれに気が付き、叫び声をあげる。さて、少年は…。
冒頭の映像はここで終わって、本編に移る。ここまでわずか数分であるが、心動かされる描写である。
季節は夏のはじめ。少年は母親と一緒にいるのが何よりも楽しそうである。ベッドで母親に抱きついたり、母親とのチェスを楽しんだり、母親と水辺で楽しそうに遊んだり。特に水辺で遊ぶ様子は、美しく尊かった。
しかし、母親は少年を、いや家族を裏切っている。不倫しているのである。職場から連絡があったからといって、夜遅くおしゃれをして出かける母親。母親が不倫しているということに、少年は気がつく。そして、そのことを父親にそれとなく知らせようとするが、それは母親に対する「裏切り」だとして母親に怒られる。
少年は母親を裏切れず、従順な子どものままでいることにする。しかし、父親は母親の「裏切り」に気がついてしまう。そして家族に不穏な雰囲気が流れたところで本作は終わる。
そして最初のシーンに戻る。踏切の途中で立ち止まった少年はひかれるのか…。結論から言うと少年は後ろに下がり列車にひかれることを回避できていたのだが、この描写が本当に素晴らしいと思った。
母親と少年の間を列車が通り過ぎるという描写から、両者の関係性が変わったことが暗示されているように思えた。つまり、当初、少年は母親を愛していたが、このタイミングでは母親に対して反抗し、自立的になったと思われるのである。
ただ一方、この映画を通じて少年がどのように成長したか分からなかったのも事実である。でも、それは少年が踏切を渡りきれなかった、というラストシーンが示すとおりなのかなと思う。つまり、踏切は子どもと大人の境界線を暗示していて、少年は大人になりきれなかったのかと思った。
「そして父になる」で車道を挟んで父と子が別々の道を歩いていたシーンを今でも鮮明に覚えているように、この作品で母と子の間を列車が走り抜けたシーンを私は忘れることはないだろう。