【ブックレビユー】『悲素』(新潮文庫)帚木蓬生著
《真実は此処に在る…!》
2021年8月読了。
この前に著者の『沙林』を読んで大いに心を動かされ(これはこれで必読!)、長らく積ん読状態だった本書を読んだ。 和歌山カレー事件は、オウム同様についこの前の出来事ぐらいの認識だったがもう20年か…。 先日加害者家族(=「林真須美死刑囚」の家族)のドキュメンタリー番組を見たばかりであったのと、その直前には「(彼女の)長女が幼い娘と心中自殺」と云う報道も有った為、この事件の真実は何だったのかを改めて確かめたい思いも有った。
地下鉄サリン事件の方も凄まじかったが、こちらの方も何と凄惨な事件だった事か…、文中にも出てくる「ガヤガヤと騒々しいメディアやワイドショーの類の取材攻勢」ばかりが記憶に残っていたので、本書で綴られる詳細を読み、改めてこの事件の残酷さに言葉を失った。 上記の番組で、事件後あの家は放火され全焼したと知り、「そこまでしなくとも…」と云う気持ちも多少有ったのだが、事件の仔細を知るにつれ、誰が放火したのかは知らないが「(決して良い事ではないが)止むにやまれぬ気持ちが有ったのかもしれない」と、思い直す気に成った。
それにしても一審判決から最高裁まで、「物的証拠が確定」していたとは…。 「本人自供(無し)」にばかり拘るメディアに翻弄され、騙されていた様な気分にも正直成った。詳しくは本書を読んでいただきたい。
これでは再審請求など今後も通らないだろうし、刑の確定は必然と思うが、本人が真実を語らぬまま執行される日が来るのかと思うと、オウム事件同様やるせない気持ちにさせられる。
又、前著『沙林』同様、こんなにも毒物の検出や対策が困難であった事、更にこの主人公が居なかったらこの事件とてこんなに迅速且つ正確な捜査~公判には到らなかった事などを読むにつけ、改めて警察関係者の苦労と主人公の活躍に心から敬意を捧げたい。 日本国民であれば一度は読むべき貴重な労作だと強く推奨する。