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『分析者のための行動経済学入門』の話①:内容紹介編
何年も前にnoteを作ったものの、これまで何も書いていませんでした。せっかくなので、『分析者のための行動経済学入門 プロスペクト理論からナッジまで、人間行動を深く網羅的に解明する』(ソシム)を紹介したいと思います!
本書の概要
本書はソシムの「データサイエンスシリーズ」(通称カラフルシリーズ🌈)の第8弾として執筆しました。このシリーズは、データ分析に必須の知識をわかりやすく、かつ濃密な内容で解説するのが特徴で、累計20万部を突破している大人気シリーズです。
これまでに『数理モデル入門』『データ解釈学入門』『統計学入門』『分析モデル入門』『認知バイアス入門』『データ可視化学入門』『微積分+線形代数入門』といった書籍が出版されてきました。
著者の方々とも配信をしましたので、こちらもぜひご覧ください📺
本書『分析者のための行動経済学入門』は、人間の行動をデータ分析する際に知っておくと役立つ知識を提供します。データ分析者を主な対象としていますが、経済学を学ぶ方にも有益な内容です。なお、経済学・行動経済学の事前知識は不要です。
「はじめに」にも書きましたが、データ分析では統計手法やプログラミングスキルを習得することが重要です。しかし、それ以上に「人間行動の理解」が不可欠です。なぜなら、多くのデータは「人々の行動や選択の結果」として生み出されたものだからです。
「なぜ、人はそのような行動をとるのか?」という視点を持つことは、分析方針の検討や結果の解釈に大きく役立ちます。
本書の構成
本書は2部構成ですが、さらに細かく4つのパートに分けることができます。
第1部:分析者のための行動経済学-基礎知識
📚 行動経済学の基礎をつかむ(第1章)
行動経済学の基本概念を紹介し、データ分析にどう活かせるのかを説明します。特に【記述】や【因果】の分析において、行動経済学がどのように役立つのかを事例とともに解説しています。
💡 行動経済学の土台を築く(第2章-第3章)
第2部(第4章-第9章)の内容を理解するために必要な「因果推論」(第2章)や「経済モデル」(第3章)の考え方を解説します。第2章では「再現性」に関する話題にも触れています。
第2部:分析者のための行動経済学-考え方と実践
📖 本格的な行動経済学に挑戦(第4章-第7章)
プロスペクト理論(第4章)、現在バイアス(第5章)、社会的選好(第6章)、ヒューリスティックスとバイアス(第7章)といった重要な知見を、クイズや事例とともに学べます。
🐘 行動経済学の応用(第8章-第9章)
これまでの知識を活かし、第8章では「ナッジ」、第9章では「応用事例」を紹介。ナッジについては作り方や倫理的な視点も解説し、応用事例ではより良い分析のための視点を提供します。
本書の特徴
行動経済学に関する書籍は数多くありますが、本書には以下のような特徴があります。
1. 行動経済学を体系的に学べる構成
行動経済学の書籍は、大きく分けて2種類あります。
① 経済学の知識がなくても読める一般向け書籍
② 経済学を学んでいることを前提とした教科書
①一般向け書籍は面白いものの、体系的な説明が不足していたり、さらに学びたい人には物足りないことがあります。一方、②教科書は体系的ですが、経済学の基礎知識がないと理解が難しい場合も。
そこで本書では、まず最低限の経済学の知識を紹介し、その上で行動経済学を体系的に解説する構成にしました。特に、消費者や人間の行動に焦点を当て、効用最大化の経済モデルを紹介した後に、それと現実の違いを考慮するのが行動経済学の考え方であることを明確にしました。
ただ、経済モデルで使う数式は、できるだけ簡単なものにしています。足し算や引き算、掛け算、不等式といったレベルです。また、具体的な数値例を基に議論していますので、理解しやすいかと思います。
経済モデルを前提として、リスクや参照点があるとき、時間を通じた意思決定、他者との関係、限定合理性といった要素をどのように扱っていくか体系的に説明しました。
また、具体的な事例を使って感覚を掴み、その後に定式化する流れを採用。教科書的な部分もありますが、豊富な事例を盛り込むことで、読み物としても楽しめる内容になっています。
2. 経済学のトップジャーナルの研究を厳選
質の高い研究を紹介するには目利きが必要です。経済学研究者として、特に重要な研究や、経済学に馴染みのない人にも興味を持ってもらえる研究を選びました。「行動経済学」の研究はいろんな学術雑誌で載っていますが、基本的には経済学のトップジャーナルに掲載されている研究を選んでいます。分野横断的に取り上げることも可能でしたが、経済学の学術雑誌の中から選んでいますので、経済学としての行動経済学を理解していただけるかと思います。
さらに、再現性に関する議論がある研究には注釈を加え、より深く学べるように配慮しています。
取り上げたテーマ・キーワードは多岐にわたります。
💶 ビジネス:価格設定、クーポン、サブスク、オークション
💰 ファイナンス:投資、貯蓄、借金、保険
⚾ スポーツ:マラソン、野球、ゴルフ、水泳、ダーツ、競馬
🍺 健康:飲酒、喫煙、ジム通い
🌎 向環境行動:節電、節水、公共機関の利用
💖 向社会的行動:寄付、献血、口コミ投稿
また、「自然フィールド実験」と呼ばれる現実社会で実施された実験研究を多く紹介しました。具体的には、Wikipedia、Spotify、Airbnb、Apple Watch、Duolingo、Alibaba、eBay、Lyftなどをフィールドとした実験を取り上げています。身近な題材を通じて、読者が自身の課題に応用する際のヒントを得られるようにしました。
参考文献も無理を言ってたくさん載せてもらいました。事例については、元論文にたどれるように出典を記載しています。
書籍案内①:行動経済学を掴むために
本書を読んで「少し難しい」と感じた方は、まず以下の書籍を読んで行動経済学の全体像を掴むのがおすすめです(順に、図入りの解説書、新書、教科書を取り上げています)。
長くなってきていますので、さらに詳しい書籍案内(より深く学べる専門的な本の紹介など)は、次のnoteで書きたいと思います!