蛍 そこに 星群 が 生命 蟲 のような 無数の ・
近づいては 離れて 他と交れど 解けず やわらかくはずむ膜 透明な輪郭をキラリとさせる膜 温かく包み込む膜 じんわり溶け出す膜 毅然とした膜 憎らしい膜 こんなふうに 誰かとつながりたい
愛は空間的なもの 世界を永遠に証明する印 一瞬一瞬、形を変えて 流れては再構成する運動体 さあ、目を閉じて 細い通路の奥まできて 明るい小さな部屋へ 乱雑に積み重ねられた本 窓から微かにただよう 瑞々しい木蓮とインクの香り まだ温もりの残った椅子 ドアは開けられたまま 過去から未来に向かって 時だけが静かに流れている
何年もかけて積み上げた 形に残らないもの 後ろを振り返る足跡 この手からこぼれ落ちた 私の砕けた身体が 風さらわれてゆく また帰ってきた 懐かしい地平まで 温もりの残像は偽りか その輪郭を撫でれば 目の前で砂と化して崩れ去る 粉塵の舞う部屋 わずかな光を掴み取る 勝利の日は近い
その星の瞬きを いつか見失うのだろうか 黒い空に煌めいた怪しい光を いつか忘れるのだろうか 遠い記憶の砂丘に 葬った原風景
秋風に歩みが早まる 誰もいない工事現場を横切って 橋が見える川沿いに立つ リズミカルにゆれる彼岸花 虚空へ捧げる乙女の祈り 幻を深く愛した人 幻に生かされた人
入道雲立ち込める青々とした夏 巨大な太陽が降り注ぐこの海辺の都市は いつか夢で見た大麦畑のように思われた 夜になると幾分涼しい 心地よい風がわたしの身体と戯れて遊ぶ 風はシルクのように肌に生じては溶けた どこかで風鈴が鳴っている 頭上高くには荘厳たるオリオン座 火照った家々の壁を冷ます 猫がこちらに気づいて大きく伸びをした わたしもひとときの涼みに甘えてみようか おなかを出して床に寝転ぶ 軽い衣にくるまれて 生まれたままの姿で
再びやってきた すべてが消えたような朝 大理石の沈黙 見知らぬ白けた空 気の抜けたサイダーのような青 リズミカルな鳥の鳴き声 世界との通信を試みる
水銀の波がまぶたに押し寄せる夜
自由を知らずはじけた柘榴に吹く乾風
巨大な旅客船が横切る 窓には無数の顔、顔、顔 皆こちらを見ている 二人乗りジェットスキー 勢いよく水しぶきをあげて どんどん先を越していく 僕はひとり小舟に乗る オールを手にして 前へ前へとゆっくり漕ぐ 潮風が頬を撫でた 何度過ごしただろうか 祈りをつむぐ漆黒の夜 波は荒々しくうねり 生き物は海底に息を潜める 星たちは無慈悲に輝いて 季節は移ろい すり切れた指先に 木蓮の花びらが触れる 君のことを思い出した もう会えないけれど ずいぶん遠くまで来た 新しい今日がは
レモンになった日 頭から果汁滴る 胸のあたり どっしり魔物がいて ヒリヒリした愛の熱を 手足の先まで伝う こんなことが あっていいのかね レモンを葬る 搾りきった亡骸を うちの庭に埋めた 優しい心に出会う頃には 実がなっているだろう
どこまでも 鳴り止まない和音 幾重にも重なり 途切れることなく 頭の中を埋めつくす それは肌の下にも入り込む 皮膚がはがれ落ちて 身体は離ればなれ 僕も和音の一部になった 気がつけば草原の上 重い手と足 頬に夜風を感じる 隙間の中に放り込まれて 寂しくて 考えごとばかり
深い霧につつまれて 人生の終わりを待つ これが本当の最期なら やり残したことあるけれど 本当の最期なのだと 家族の顔を見て悟る 空港の手荷物検査 スーパーのレジの会計 コントロールできない いのちの流れ 気づけば棺に横たわり マスクに霧が忍び込む 意識は風船のように 痛みもなくしぼんでいった
みんなバブルの中 朝の光に目を覚まして 遊びまわる微生物 世界にはどれだけの 草の露が存在するのか 同じ草木から 命を分かち合うのに お互いを知らず
空気をもとめて 呼吸する言葉たち 溢れかえって 苦しくもがいて 砕けて散って また出会う 僕という幽霊が ぼんやり現れる ふと見上げた夜空 浮かんだ月 思っていたのとは 違う場所に