沼の淵。【出会い②】
日も落ちてきたので、そろそろ出ようかとカフェ・バーを後にした。
彼に実年齢がバレていた衝撃で、完全にイニシアチブは彼がとっていた。
デレデレしていた彼が余裕のニヤニヤに変わりつつあった。
お店を出たところで彼がどうする?帰る??晩ご飯行こうか?と聞いてきた。
ランチ→散歩→お茶→晩ごはん???
そんなフルコースは想定してなかった。
「俺はまだリイハさんと一緒に居たい。だから晩御飯も行こう?」
そんな風に言われて悪い気はしなかった。
気ままにお店を探すために、また歩き始めた。
繁華街を通り過ぎて、また別の繁華街に入る。
そんな中で「ラブホ街」に差し掛かった。
あれ?
これは??
もしや???
そーゆーことか???
頭の中がグルグルしている私を余所目に、スタスタとラブホ街を抜けた。誘われる素振りもなかった。
内心ホッとしたけど、ああいうアプリってそういうのありきの人がデフォルトだと思っていたから、デレデレのこの青年が考えていることがいよいよわからなくなった。
適当なお店に入って乾杯をした。
彼とカウンターの席で横並びでお酒を飲んだ。
正面からは気づかなかったけど、キレイな横顔だった。
正面だとデレデレの彼も横だと正気でいられるようだった。
横で話す彼の距離感が心地よかった。
大して飲んでいないのにほろ酔いで店を出た。
彼に手を引かれて駅まで手をつないで歩いた。
こんな風にデートらしいデートをしたのは久々だった。
昨日まで声しか知らなかった青年と手を繋いで歩いている。
10歳も年下の青年と手を繋いで歩いている。
主婦になって誰からも満たしてもらえなかった承認欲求がヒタヒタと満ちていくのが分かった。
最寄りの駅まで彼は何事もなかった様に送り届けてくれた。
あれ?
解散??
時計を見るとまだ21時前だった。
彼は少しはにかんで
「もう一軒本当は行きたいけど。リイハさんそこそこ酔ってるし、帰りが心配になるから。今回はこれで解散しようか」
「…うん。…ありがとう」
「また連絡する」
爽やかに彼が笑った。
彼に手を降ってホームに向かった。
何事もなく。
手を繋いだだけ。
高校生みたいなデートが終わった。
また、まんまと会いたくなるデートをしてしまった。