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元銀行員が図で解説! 経営者が知りたくなる「御社の決算書はどう修正されるのか」②
前回の内容に加えて行う作業があります。内容は以下の通りです。
「個人の資産・負債との合算」
「個人の確定申告書との合算」
「関連会社の決算書との合算」
「関連会社の決算書&個人の確定申告書との合算」
個人とは、代表者のことを指します。場合によっては、代表者の配偶者や代表者一族からの後継者も対象に加わります。
これらは、合算される場合もあれば、されない場合もあります。その基準は「銀行がそれぞれの情報や資料を入手しているか」です。
情報には他の銀行のものも含まれますが、その場合はエビデンスが必要となります。
今回は、個人の資産・負債の合算について書きます。
個人の資産・負債の合算
債務超過でも問題なく融資を受け続けられる企業があります。債務超過でも正常先と判定される企業があります。
このようなケースで、会社に役員からの借入金がない場合、代表者などの資産・負債を法人の決算書に合算しています。その結果、債務超過ではなく資産超過と判定されています。
法人の決算書が債務超過でも、個人との合算で資産超過となるのは、次の場合です。
個人の資産超過額 > 法人の債務超過額
※個人の資産超過額=個人の資産ー負債>0
逆に、法人の決算書が資産超過でも、個人との合算で債務超過となる場合は、次の場合です。
個人の債務超過額 > 法人の資産超過額
※個人の債務超過額=個人の負債ー資産>0
合算される資産や負債の例を、以下に記載します。
〈合算される資産の例〉
・預金
・有価証券(換金額が第三者も把握できるもの)
・不動産(評価額が分かるもの)
〈合算される負債の例〉
・借入金(住宅ローンなどの借入)
上に書いた例に記載されたものも含めて、合算される資産や負債はあくまで「銀行が把握できるものである」ということです。逆に言えば、把握されていないものは合算されません。
合算のメリットとデメリット
例えば、銀行に個人の預金がどれだけあるかを知られたくない、という感情。
この感情は、ものすごくよく分かります。私は銀行員時代、給料が出たらすぐに全額引き出し、別の銀行に移し変えていました。銀行にいちいち自分の預金を見られるのは御免だ、です。
でも、会社の決算書が債務超過で、債務超過額が仮に▲1百万円としたら、2百万円を法人と取引のある銀行の個人口座に入れてください。こうすることで、個人の資産が合算されて1百万円の資産超過になります。
この場合、資産超過分の1百万円は、現金の1百万円と等価ではありません。債務超過でなくなると、数百万円、数千万円の借入が出来る可能性に繋がります。
預け先の銀行を変えた2百万円が、資産超過の状態を作る。それを基にお金が何倍にも化ける可能性が出てくる。これが、合算のメリットです。
但し、担当者がちゃんと合算してくれれば、という条件付きですが。
こういった事をしようと思うと、銀行が実態貸借対照表(前回記事)の純資産をいくらと判定しているかを知っておく必要があるのです。
逆に、デメリットとなるケースは、先程の逆です。
特に、これまで「法人が資産超過・個人が債務超過」の状態で、最終的には資産超過の判定に留まれていたのに、新しい決算書の判定では合算後の最終判定で債務超過となった場合、急に借入がしにくくなる可能性が高まります。
この場合も、大事なことは、銀行の実態貸借対照表(前回記事)の純資産額がいくらになっているかを把握することです。
把握していれば、どれだけの個人資産を銀行に開示すれば良いかが分かります。
どうやって個人の資産や負債を調べるのか
かなりの割合で「銀行って、色々な手を使って調べるから、大概のことはお見通しでしょ?」と思われている方がいらっしゃいます。
結論から言うと、全然そんなことないです。
他の銀行との取引内容は一切わかりません。むしろ、他の銀行との取引内容を知っているということは、その銀行から情報が漏れているということで、とんでもないことになります。
では、主な資産や負債について、どのようにして調べるのか。
預金 :自分の銀行の預金残高
有価証券:自分の銀行の投資信託や債券など
保険 :自分の銀行の保険契約
不動産 :担保不動産、自宅などの謄本取得
※不動産について、複数の物件に股がって担保
設定されているものは、不動産登記簿謄本の
「共担目録」に記載され、そこから判明する。
※裏を返せば、担保設定がない不動産は把握
しようがない
他行借入:返済予定表
知人借入:把握出来ない
以上のように、把握する術が無いものは把握できません。債務超過額に合わせて資産を段階的に開示すると、「何もかも把握されたくない」という感情を緩和しつつ、自社の格付を上げることができます。
まとめ
前回と今回の記事を見ていただければ、銀行以外が示す予想信用格付はあてにならないことが、ご理解いただけると思います。
ここまでの2回の記事で記載した各勘定科目の修正や合算は、さらにそれぞれをどのように評価するかが決められています。
債務者区分や格付は、前回書いた通り、一旦決まってしまえば下方修正されることはあっても、上方修正されることは、まずありません。
1年間、判定内容が変わらず、資金調達に大きく影響します。
自社がどのように判定されているか、改善するにはどうすればいいか、どこまで銀行に情報開示するか、を知っておくことが、スムーズな資金調達に繋がります。
ご参考になればと思います。