光
やはり追い立てられるなら夕日が良い。メロスも、夕日を背にして走ったからかっこういいのだ。切羽詰まった絶望と、1日の終わりを暗示する夕日は相性が良く、素晴らしい叙情を生みだす。デスクトップのすみでは、システムのデジタル時計がもうすぐカウントをリセットさせて3時から4時に変わろうとしている。当然ながら、午後ではなく午前、つまり夕日の沈む前ではなく朝日が登る前だ。僕は、自分がまた関係のないことを考え始めていることに気づきPCに集中を戻そうと深呼吸をした。すると一緒にあくびも出てきた。まったく締まらない。どうせどう頑張ってもろくでもないことに変わりないのだから、深呼吸くらいはかっこうよく決まってもいいではないかと文句を口の中で呟いてみた。案の定状況は何も変わらなかった。目の前の仕事に意識を戻し、次は何をやるべきかと思案していると、のどが渇いてきたような気がした。心なしか眠気も徐々に強まってきている。作業に戻る前にコーヒーを淹れることにした。机から立ち上がり、ケトルに水を入れて電源を入れ、流れるような手さばきでマグカップとインスタントコーヒーと砂糖を出す。脳みその回転も悪くなっているので、砂糖たっぷりのMAXコーヒーリスペクトレシピを作っていく。お湯が沸くまでまだ時間があったので、何をしようかと思案する前に僕の左手はYouTubeアプリを立ち上げていた。ホームには僕がいつも見ているチャンネルのつまらなそうな新着動画がどこまでも連なっている。気がついたらお湯が沸いていた。何だったら少し冷め始めていた。僕はお湯にマグカップに3割ほど入れる。もちろんこれで完成ではない。冷蔵庫から牛乳を取り出し、表面張力ぎりぎりまで注ぐ。このままだとこぼれてしまうので、その場で少し飲むと、人肌よりもぬるくなってしまっている。電子レンジに入れて1分ほど温め、あつあつのこども舌専用カフェオレが出来上がった。机に戻って作業を再開した。朝日が登るよりも先に仕事が終わったらいいのにと思いつつそんなことが自分にはできないこともよくわかっている。なんとか一段落つく頃、ふと窓の外に目をやると、一夜をともにした闇は薙ぎ払われ、そこには荒野のような光が満ち始めていた。今日も朝日に追い立てられて、僕の1日が始まった。
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