Spotify「Yes 20」
Yes との出会い=プログレとの出会い
自己紹介記事でも書きましたが、ぼくと Yes との出会いはそっくりそのままプログレとの出会いに重なります。あれは1975年(中2)の秋、Roger Dean のジャケット・デザインに誘われて買った「こわれもの」にレコード針を落とした瞬間から、あのブラックホールに吸い込まれるような凝縮感の彼方から爪弾かれるアコギに両耳を奪われた瞬間から、ぼくの音楽ライフは新たな一歩を踏みだしたことになります。
振り返ると、このときの 4th「こわれもの」との邂逅は、かなり幸運だったと思います。もし最初の Yesとの出会いが 2nd「時間と言葉」だったなら、たぶんぼくはそれほどのめりこまなかったでしょう。また、いずれはどのみち Yes ファンになっていたとしても、ずっと遠回りをしていたにちがいない、とも思います。つまり、それほど黄金期の Yes には筆舌に尽くしがたい魅力が満ち溢れていたのです。
特にほくが衝撃を受けたのは、キーボード Rick Wakeman でした。当時はキーボード担当がいるロック・バンド自体が珍しく、だからはじめて耳にした Yes サウンドはとてもカラフルで、天空から光が降り注ぐようでもあり、オーケストラ顔負けのシンフォニーを現前化させました。マルチキーボードの華やかな電子音は、それまでに聴いていたギター中心のロック・サウンドとは音そのものが違った、と言ってもいいでしょう。初期のプログレ界はキーボードが主役を占め、ELP の Kieth Emerson と Yes の Rick Wakeman という二大巨頭が牽引していたのは事実です。しかも 1973年~74年の Rick といえば、まさに飛ぶ鳥をも落とす勢い。ソロ活動は本家の Yes 以上にロック・シーンを席巻していたほどです。
黄金期メンバー
Yesというバンドは、メンバーチェンジが大当たりした好事例としても有名です。3rd「イエス・アルバム」で Steve Howe が、4th「こわれもの」で Rick Wakeman が、それぞれ加入したことで後世に語り継がれるバンドのマスト・ピースが勢揃いした、という見方は周知のところです。
Vocal Jon Anderson
Bass Chris Squire
Guitar Steve Howe
Keyboard Rick Wakeman
Drums Bill Bruford
ぼくもこの見方に異論はなく、広義の黄金期 Yesという場合は、このメンバーに Patric Moraz (キーボード) と Alan White (ドラム) を付け加えればいいように思います。1971年「こわれもの」~1978年「トーマト」の時期です。逆に厳密に分けるなら、1971年「こわれもの」~1974年「リレイヤー」の大作主義が続いた時期。それは他でもなく、プログレの世界的ブームが絶頂を極め、あっという間にピークアウトした時流と一致します。
プレイリスト・ディテール
したがって、ぼくのプレイリストも黄金期 Yes を中心とした構成になっています。オープニングはライブの定番どおり、ストラビンスキー「火の鳥」からの「Siberian Khatru」。ラストのアンコールが「Roundabout」。まんべんなく黄金期の大作「Close To The Edge」「Ritual」「The Gates Of Delirium」を配し、ところどころにアクセントの小品を、時代を画した小品を交えています。まあ、Yes ファンならご納得いただける王道は外していない、と自負しています。それより、とりわけディープなファンにも届けたいのが、あえてマイナーな次の 3曲です。
「Into The Lens」
THe Buggles と Yes が合体した10th「ドラマ」から。1980年「ドラマ」は Jon と Rick が脱退したアルバムです。70年代半ばから下降線を辿ってきたプログレ王者がついにニューウェーブに呑み込まれたのか、と当時のファンは侃々諤々でした。ぼく自身も例外ではなく、かなりの落胆を覚えました。この曲はのちに The Buggles の 2nd「Adventures In Modern Recording」に「I Am A Camera」として短縮再録されます。それにしてもこのMVは忘れられません。短髪&メガネの Chris Squire の姿たるや……。当時19歳のぼくは本当に腰が抜けそうで……。
誤解のないように断っておきますが、ぼくは The Buggles が大好きです (デビューアルバムはロック史に残る名盤だと思っています)。とりわけ Trevor Horn のプロデューサーとしての腕前は超一流。ただ、このときはヴォーカル Jon の代役を求められたのですから、そりゃ本質的役割が違いすぎましたね。期待された化学反応は起きませんでしたが、3年後の次作アルバムで名プロデューサー Trevor の真価は発揮されます。
「America」
Yes 初のオムニバス・アルバム「イエスタデイズ」から。原曲は言わずと知れた Simon & Garfunkel の「America」。超絶技巧のソロを積み重ね、形式的な美を構築する Yes スタイルが如実に見られます。サウンドはきらびやかになり、変拍子の導入によって楽曲そのものも長尺に。そもそも Paul Simon の歌詞には、プログレとの親和性がありました。意表を衝かれた驚きとともに、こんな衒学趣味もなかなかいいな、という再認識の喜びもありました。「イエスタデイズ」リリースが1975年。ちょうどバンドが方向性を見失った頃です。
プログレを知る以前のぼくが聴いていた洋楽は、Simon & Garfunkel 、Carpenters、The Beatles、Michel Polnareff、あたり。冒頭で書いたとおり1975年に「こわれもの」と出会ったということは、リアルタイムのアルバム・リリースからは 4年ほど遅れていたことになります。これこそまさに「思春期あるある」で、中2 のぼくは少しでも背伸びがしたくて年長者の聴く音楽ジャンルに惹き寄せられていたのです。そして、この年代の感性は永遠に刻まれるのです (ちなみにリアル・タイムラインにキャッチアップするのは1977年「究極」以降)。
「Cinema」
1983年の11th「ロンリー・ハート」から。Jon が復帰して全米チャート 5位を獲得した、Yes 復活の商業的成功を収めたアルバム (プロデューサーは Trevor Horn)。しかしその代表的シングル「Owner Of A Lonely Heart」よりも、ぼく的にはむしろこの「Cinema」を推します。10th「ドラマ」のツアー後に解散したバンドは Trevor Rabin を迎え、Chris、Alan、Tony Kaye、の四人で再起を期します。このときのバンド名がまさに Cinema だったわけで 、結局 Jon Anderson が復帰したことによってバンド名は Yes に変更/回帰します。早い話、新生 Yes のもうひとつの裏の名前だったのですね。もともとは仮題「Time」という 20分もあるインスト・ナンバーのイントロ部分。なるほど、納得の切れ味です。
いかにも Yesらしい畳みかける切迫感、Alan のドラミング。わずか 2分のなかにバンドの技術が凝縮されています。この曲によって Yes は、1985年のグラミー賞最優秀ロック・インストゥルメンタル・パフォーマンス賞を受賞します。皮肉なことに、これが Yes 唯一のグラミー賞です。
ABWHについて
ところで、多くの読者が気になるのは、ABWH の扱いをどうするか、でしょうね。公式に Yes を名乗っていない以上このリストには含めていませんが、黄金期 Yes の本質を理解するファンには ABWH こそがその衣鉢を継いでいた、と映るのではないでしょうか。実は、ぼく自身もその考えには完全同意です。このラインナップを見てください、興奮しないプログレ・ファンはいないはずですから。
Vocal Jon Anderson
Drums Bill Bruford
Keyboard Rick Wakeman
Guitar Steve Howe
Bass Tony Levin
大衆消費社会が確立した80年代、ポップ化・商業化に折り合いをつけながら苦難の道を歩んだ Yes ですが、1988年にはふたたび Jon Anderson が脱退します。そして「輝ける70年代よ、もう一度」と音頭をとったのが、ABWH なのです。まさに黄金期復活を夢見た、かつての Yes メンバーを核とするプログレ・スーパーバンドの結成でした。それは17年ぶりに復帰した Bill Bruford の足跡が証明していました。1972年「危機」発表後に Yes を抜けた Bill はその後 → 後期 Crimson → Genesis のサポート → UK → 再結成 Crimson、というキャリアを重ねていたのです。つまり、89年 ABWH 結成時のメンバー構成は、単なる元 Yes メンバーというだけではなく、再結成 Crimson のリズム隊との合体に他ならなかったのです。
1989年「閃光」が ABWH 唯一の公式アルバムです (この邦題は言いえて妙です)。燃え尽きる寸前の、花火の最後のきらめきを連想させます。
1991年 Yes は「結晶」を発表、このアルバムは ABWH の幻の 2nd「ダイアログ」が元になっています。90125 イエス ( Jon 以外の「ロンリー・ハート」メンバー)と ABWH がひとつになり、8人Yes としてマスコミ的には大きな話題を呼んだものです。しかし、そのサウンドのみならず、90年代以降の Yes の活動についても、語る紙数はもう尽きたように思います (note に紙数があるわけないでしょ!)。という言い訳で、あとはお察しください。
最後に Yes 全アルバムから選んだ「ぼくのベスト5」 を記します。100点満点で採点しています。
それでは、また。
See you soon on Spotify (on note).
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