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『RANGE(レンジ)知識の「幅」が最強の武器になる』(著 デイビット・エプスタイン 解説 中室牧子 訳 東方雅美) (2020年) 日経BP 書評
はじめに
突然ですが、あなたは一つの物事を深めるタイプでしょうか?それとも、さまざまなことに関心があって、幅広い分野に関わるタイプでしょうか?
ちなみに私の場合は、特定のことを追求するタイプです。
本書では、一つの物事を極めるいわゆる「スペシャリスト」の問題点を指摘し、幅広い分野で活躍する「ゼネラリスト」の利点を主張しています。
この投稿では、この本を読んでいて私が特に印象に残った4つの部分を要約して、さいごに記事の内容をまとめたいと思います。
スペシャリスト vs ゼネラリスト
一つの物事に精通したスペシャリストの問題点として、自身の専門性を過信してしまうことです。
自身の専門性を過信してしまうあまりにあらゆる物事を考えるときに、自分の専門分野を通してのみ考えるようになってしまいます。自分の専門分野で解決できるような問題であれば、そのような考え方でもいいのですが、さまざまな要因が絡む複雑な問題に対して、スペシャリストは視野が狭くなってしまいがちです。実際には、いろんな方法で解決できる問題が一つの方法でしか、解決できないと勘違いしてしまいます。
例えば、地球温暖化を引き起こすという問題に対して、自動車メーカーはガソリンを使わない電気自動車を販売することで、その問題を解決しようとするかもしれません。しかし、地球温暖化を解決する方法は電気自動車だけではありません。例をあげると、買い物の際に買い物袋を持参する。車ではなく、電車で移動する。植物を植えることでCO2を減らすなど、問題解決の手段はたくさんあります。
一つの方法にこだわらず、いろんな可能性を考えることで問題を解決できます。
クリエイティビティを発揮する方法
クリエイティビティを発揮する一つの方法として、アナロジー思考があげられます。アナロジー思考とは、一見するとまったく類似点が見られない二つの要素に、目には見えない共通点を見出して、新たな発見をするというものです。
アナロジー思考を活用して、異なる二つの分野を結びつけることで新たなサービスを作ることができます。
例えば、工場で使われていたベルトコンベアーを飲食店で用いることで回転寿司が生まれています。
クリエイティビティを発揮するための一つの手段として、常にいろんな物事に対して共通点がないか、考えるのが良いでしょう。
慣れている方法を捨てる。
なにかの課題に出会ったときに、人は慣れ親しんだ道具でこの課題を解決しようとします。しかし、時には、自分にとって慣れ親しんだ道具を捨てる必要があります。なぜならば、使い慣れたツールで問題に取り組むことで問題を解決できなくなる場合があるからです。
消防士が火から避難する訓練をしているときに、普段使い慣れているホースを捨てれば助かるような状況であっても、ホースを捨てることができずに、そのまま火に巻き込まれてしまい亡くなってしまった事故があったようです。
このように、人は使い慣れたものを捨てることができずに、身を滅ぼしてしまうケースがあります。
いろんな分野を学ぶことで、一番自分に合ったものを選べるようになる
プロゴルフプレイヤーのタイガーウッズは小さな頃から、ゴルフに打ち込んでプロゴルフプレイヤーになりました。
タイガーウッズのように、何かを極めようと思ったら幼い頃から、その物事に取り組んでいないといけないと思ってしまいがちです。例えば、ピアノや英語などは子どもの頃から習っていないと習得するのが困難だと、考えられがちではないでしょうか?
しかし、プロテニスプレイヤーのロジャーフェデラーは、幼少の頃はさまざまなスポーツに取り組んだようです。いろんな分野の運動をすることで、自分に合ったスポーツを選んだ結果、フェデラーはテニスで一流のテニスプレイヤーになりました。
フェデラーのように、さまざまな分野を知ることで得られる一番のメリットは、自分に適したものを選べるようになるということです。
経済学の用語で「マッチ・クオリティー」という言葉があります。マッチ・クオリティーとは、自分がその仕事にどのぐらい適しているのかという相性を表す言葉です。
マッチ・クオリティーを考慮せずに、早い段階から自分の専門分野を決めることは危険です。なぜなら、その人がどのぐらいその分野に向いているのかを見極める前に、進路が決まってしまうからです。例えば、医師になるためには、早いうちから医療について専門的な知識を身につける必要があります。しかし、いざ医者として働いてみたら、自分には向いていないと感じるかもしれません。このような事態を避けるためにも、幅広い経験を積んでから専門性を身につけるのが望ましいと考えられます。
まとめ
最後に、この記事で書いた内容をまとめて終わりたいと思います。
この記事では、スペシャリストの欠点とゼネラリストの利点について書きました。スペシャリストの欠点としては、視野が狭くなってしまいがちです。しかし、物事を考えるときには、多様な視点で考えた方が効果的です。
また、クリエイティビティを発揮するためには、異なる分野を結びつけることで新たな発見をする、アナロジー思考を活用するといいでしょう。
そして、時には自分が普段使い慣れている方法を捨てて新たな手法を取り入れることも重要です。
最後に、自分の進路を決める際には、早々にやりたいことを決めてしまうのではなく、いろんなことを経験してから方向性を決めることで、ミスマッチが起きることを避けられます。
本書では、スペシャリストが批判の対象となりがちでしたが、私はスペシャリストが専門分野を身につける自体は良いことだと思います。しかし、問題なのは、スペシャリストがその専門分野に執着してしまい、広い視点で物事を考えられなくなってしまうことです。
そのような問題を避けるためにも、ゼネラリストのような広い視野を持った人たちで専門家たちの専門的な知識を結びつけることが重要なのです。