バスオーボエって何?~ホルスト「惑星」だけではない特殊楽器3

ホルストをはじめとする作曲家が、なぜバスオーボエを「惑星」に採用したかを推測する前に、時系列的に楽器の登場(発明)と、関連曲の初演を明らかにしてみた。

バスオーボエ年表

本年表を解説する。
『木管楽器の歴史』によると、トリベールがバスオーボエを改良し、世に出した。発明ではないのは、それまでも類似楽器はあったためである。形状は、バスーンの曲部に続く菅を半分にして、イングリッシュホルンのような膨らんだベルを付けたもの。ずいぶん奇妙な形だ。
その後、現在も製造しているロレーが、現在に通じる直管のバスオーボエを登場させた。曲管の改良である。
それでも改良が不十分と感じたRシュトラウスは、ヘッケルフォーンを誕生させた。こちらは、ドイツの楽器メーカーとして名高いヘッケルが発明した楽器である。ワグナーが先に構想し、Rシュトラウスの構想・依頼をもとに開発された。ワグナー生前の使用はなく、Rシュトラウスが初めて用いている。「サロメ」「エレクトラ」「アルプス交響曲」などに使われている。ワグナーはアルペンホルン的な音色も期待したようだ。実物の管の口径は、他の木管楽器よりも急な角度で広がり、豊かな音量が意図されている。
一方、バスオーボエは、開発経過は不明である。推測するに、「ファミリー」としての楽器群を開発する時代背景が関係するのではないか。トランペット、トロンボーン、フルート、クラリネットが代表例だろう。事実、年表にある「ダフニスとクロエ」「春の祭典」は、アルトフルート、バストランペット、ホルン奏者持ち替えのヴァグナーチューバが使われている。なお、ファミリー化その最大傑作は、サキソフォーンやサクソルンだ。
さて、オーボエについても同じ試みがなされたのではないか。事実、当時のカタログには、通常のC管オーボエよりも高い音域の楽器も散見されるし(Es管やG管など。ミュゼットとも呼ぶ)、バスよりも1オクターブ半下のコントラバスオーボエも試作された。ファミリー楽器であるため、オーボエやイングリッシュホルンからそう遠くない音色が求められたと考えられる。特定の目的のもとに、ほぼ単独で誕生したヘッケルフォーンとは出自からして異なる(それでも小さなヘッケルフォーンは試作された)。
どちらが好ましいか人それぞれだろう。参考までに、40年ほど前の吹奏楽雑誌(バンドジャーナルか)によると、ハインツ・ホリガーはヘッケルフォーンよりもバスオーボエを好んでいて、バスオーボエの所有を明らかにしていた。
バスオーボエ、ヘッケルフォーンの誕生を機に、これらの楽器を意図した作品が発表されるようになった。年表から見れば、「惑星」は、その「集大成」とも言えようか。「集大成」と考える理由は後述する。(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?