バスオーボエって何?~ホルスト「惑星」だけではない特殊楽器2
バスオーボエは、バリトンオーボエとも呼ばれる。ちなみに、同音域の楽器(オーボエの1オクターブ下)ではあるが、リヒャルト=シュトラウスの発案で誕生したヘッケルフォーンは別物である。アンソニー=ベインズの名著『木管楽器のその歴史』によれば、口径(太さ)が異なるため音色がより太く力強いという。(私自身、実奏してそう感じた)
さて、ヘッケルフォーンとの関連は別の機会に紹介するとして、今回は、ホルスト「惑星」以外の使用例を示したい。
低音楽器のサイト http://www.contrabass.com/pages/heckel-rep.html では信じられないくらいの使用例が紹介されているし、『木管楽器のその歴史』では著名な作曲家の使用例が掲げてある。
ディーリアスに好例がある。いくつかあるうち、「舞踏狂詩曲第一番」「人生のミサ」は、「惑星」以上に特徴的な音色が味わえる。
前者は「バスオーボエ協奏曲」ともいえる構成であり、冒頭のイングリッシュホルン、クラリネットと対比が興味深い。「舞踏」といいつつもどのような踊りがまったく想像つかないのだが、重い音色からは荒涼たる英国ヒースが目に浮かぶ。
後者で特筆すべきは、第二部で「野の風景」を描写した箇所だ。オーボエ、イングリッシュホルン、そして、バスオーボエで羊飼いの笛を描写しているのだろう。ベルリオーズ「幻想交響曲」を豪華にしたといえば分かりやすいか。3楽器のアンサンブルの後に、合唱が加わる。いずれもディーリアスのバスオーボエへの愛が伝わってくる。
どちらも、ようやく録音が増えてきたが、実演はどうだろうか。とりわけ前者の日本初演有無が気になるのだが。この種の楽器に詳しい奏者に問い合わせたことがあるが、ご存じない様子だった。(後者は初演されている)
ここまでは本書でずいぶん前から知っていたのだが、偶然知ったケースもある。
グレインジャーというオーストラリア、アメリカ、イギリスで活躍した作曲家がいる。たまたまラトル指揮の「戦士たち」CDを聴いていたところ、ずいぶん低い音域でうごめくイングリッシュホルンに気づいたことがあった。あとで解説書(英語版)を読んだら、その音はバスオーボエであり、グレインジャーが敬愛するディーリアスに倣って使用したとあった。驚きだ。ずいぶん賑やかな曲であるが、バスオーボエのソロ部分だけはしみじみと印象深い。この作品は、20年も前になるが音楽大学の演奏で実演に接した。
さらに、NHKテレビで石井真木の新作を紹介していたとき、バスオーボエが登場しているのを見たことがある。また、ポップス音楽であるが、カーペンターズのアルバムにあるインストルメンタル曲で、バスオーボエのソロが聴ける。
意外にバスオーボエはあるものだ。
しかし、一体どうしてこの楽器を使おうと考えたのだろうか。また、ヘッケルフォーンとのかかわりは。(続く)