頸部アライメント改善による頸原性頭痛(CGH)への効果を検証した2年間のパイロット研究



概要
頸原性頭痛(CGH)は、頸椎やその周囲の構造的異常が原因となる二次性頭痛で、慢性化することが多く、治療が難しいとされています。本研究は、頸部の前方頭位(forward head posture: FHP)や頸椎の前弯の矯正を目的とした治療が、CGHの痛みや障害を改善できるかを検証しました。この研究は、頸椎矯正装置「Denneroll」を多角的治療プログラムに追加し、その効果を2年間にわたって追跡した、初のランダム化比較試験です。

研究デザインと方法

対象者の条件
• 40~55歳のCGH患者60名が参加。
• 頭痛の診断基準は、頸原性頭痛国際研究グループのガイドラインを採用し、以下の特徴を満たす患者を対象としました:
• 痛みが主に首や後頭部に集中。
• 前頭部、眼窩、側頭部、頭頂部に痛みが放散。
• 首の可動域が制限され、触診で圧痛を伴う。
• 頸椎の動きや圧力で痛みが誘発される。
• 頭痛頻度が週1回以上、3か月以上続いている。

研究手法
• 実験群(30名):
• 多角的治療プログラム(徒手療法、モビライゼーション、運動療法)+Denneroll装置による頸椎矯正。
• 対照群(30名):
• 多角的治療プログラムのみ。

治療内容
1. 多角的治療プログラム(両群共通):
• 徒手療法(筋膜リリース): 後頭下筋を緩めるために持続的な牽引圧を3~5分間施行。
• 頸椎モビライゼーション: Maitland法を用いた低速動員術を実施。
• 機能的運動療法: 頭頸部深層屈筋の持久力強化、肩甲骨のリトラクションエクササイズ、姿勢再教育、頸部の低負荷レジスタンストレーニング。
2. Denneroll装置(実験群のみ):
• 矯正用EVAフォーム装置を頸椎の異常部位(中部または下部頸椎)に配置し、仰臥位で15~20分間使用。
• 使用時間を段階的に増やし、ソフト組織の「クリープ変形」を目指した。

評価指標
• 一次アウトカム: 頭痛頻度(過去2週間のエピソード数)。
• 二次アウトカム:
• 頭痛障害インベントリ(HDI):日常生活への影響を測定。
• 頭痛インパクトテスト-6(HIT-6):頭痛による影響の重症度を評価。
• 薬剤使用量(Daily Defined Dose: DDD)。
• 頸椎のアライメント(前弯角度と前方頭位の距離)。
• 評価時期: 治療前(ベースライン)、10週間後、1年後、2年後。

結果

1. 短期的な効果(10週間後)
• 両群とも頭痛頻度、HDI、HIT-6、DDDにおいて同様の改善を示しました(統計的差異なし)。
• 多角的治療プログラムだけでも短期的な緩和効果が確認されました。

2. 長期的な効果(1年後および2年後)
• 実験群は対照群と比較して、以下の点で有意に優れた結果を示しました:
• 頭痛頻度: 実験群では頭痛頻度が著しく減少(例:2年後、実験群は月1回未満に対し、対照群では週1~2回の頻度が維持)。
• HDIスコア: 実験群での障害軽減が顕著で、対照群では症状が再発傾向にありました。
• HIT-6スコア: 実験群での症状の軽減が持続。
• 頸椎アライメント: 実験群では前弯角度の改善(ベースラインの5.5°から18.9°)と前方頭位の減少(25.6mmから6.4mm)が確認されました。

3. 安全性と満足度
• 実験群では副作用がなく、安全性が確認されました。
• 満足度は、実験群で「非常に満足」63.3%、「やや満足」33.3%と高評価でした。

考察

なぜアライメント改善が重要か?
• 短期的効果: 両群が共に改善を示した理由は、筋膜リリースや運動療法がもたらす神経学的効果(感覚入力の増加と痛みの軽減)に関連すると考えられます。
• 長期的効果: 実験群の持続的な改善は、頸椎アライメントが正常化されたことによるものです。不良姿勢がもたらす異常なストレスや変性が改善し、筋骨格系が適応した可能性があります。

臨床への応用

1. 多角的治療プログラムの有効性: 徒手療法や運動療法は、CGHの短期的緩和に効果的。
2. アライメント矯正の追加: Denneroll装置のような矯正ツールを使用することで、長期的な治療効果を最大化できる可能性があります。
3. 患者教育: 正しい姿勢の維持やアライメント改善の重要性を説明し、長期的なプログラムへの継続的な参加を促す。

結論

本研究は、頸椎アライメント矯正を含む治療が頸原性頭痛の長期的な管理に有効である可能性を示しています。Dennerollを用いたアプローチは、2年間にわたり持続的な改善をもたらしました。さらなる大規模研究により、この手法の有効性が確立されることが期待されます。

参考文献:
Moustafa, I. M., Diab, A., Shousha, T., & Harrison, D. E. (2021). Does restoration of sagittal cervical alignment improve cervicogenic headache pain and disability: A 2-year pilot randomized controlled trial. Heliyon, 7, e06467. https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2021.e06467

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