「肩痛診療の最前線:専門医が教える診断から治療のガイドライン」

「長引く肩痛の患者が外来に来たら 専門医はこう診て、こう治す」(著:山本宣幸、発行:日本医事新報社)は、肩の痛みに関する診断から治療までの詳細なガイドです。著者の山本宣幸氏は、東北大学大学院医学系研究科の整形外科学分野に所属しており、肩痛治療のエキスパートです。本書では、肩痛に対する標準的な診察や治療法に加え、最新のエビデンスに基づいた治療法が紹介されています。

1. 肩痛の基礎理解

肩痛を訴える患者の多くは、肩そのものだけでなく、周囲の様々な部位の痛みを感じています。例えば、肩甲上腕関節や肩鎖関節、肩峰下滑液包などが一般的な痛みの発生源です 。肩の痛みには、3つの主要な要因が関与しているとされています。

• 侵害受容性疼痛:炎症や関節の損傷によって引き起こされる痛みで、肩関節リウマチや変形性関節症などに関連します。長期にわたる炎症が痛みを慢性化させることもあります 。
• 神経障害性疼痛:肩周辺の神経に影響を与える疾患や障害によって発生します。胸郭出口症候群や肩甲上神経障害などが含まれ、神経の過敏性が痛みを長引かせる要因となることがあります 。
• 心因性疼痛:肩の痛みが長引くと、心理的・社会的要因も痛みの一部として現れます。うつ病や不安などの心理的要素が、痛みの慢性化や重症化に関与することが少なくありません 。

2. 肩痛の診察:痛みの部位と性質を正確に把握する

肩痛を診察する際には、単に「肩が痛い」という訴えだけでなく、具体的にどの部分で痛みを感じているのかを特定することが非常に重要です。患者が感じる痛みの部位は、肩そのものだけでなく、首や背中、腕にも及ぶことが多く、これらは「関連痛」と呼ばれます 。

また、肩関節周囲の痛みは、複数の関節や筋肉が関与しているため、どの部位に痛みの焦点があるかを的確に診断することが必要です。肩関節には、幅広い神経の支配があり、例えば肩峰下滑液包と肩甲上腕関節の両方に痛みが現れることもあります 。

3. 標準的な治療法:凍結肩から腱板断裂まで

本書では、肩痛の治療法について、疾患ごとに細かく説明されています。以下のような治療法が紹介されています。

• 凍結肩(五十肩)に対する治療では、初期の炎症を抑えるための薬物療法や注射療法が中心となります。特に、ステロイド注射やヒアルロン酸の注射は効果的で、炎症の抑制と可動域の改善に役立ちます 。
• 腱板断裂の保存療法としては、リハビリテーションが推奨され、特に肩周辺の筋力を強化しながら機能を維持・向上させることが目標となります。一方、進行した腱板断裂に対しては鏡視下手術が推奨されます 。

4. 慢性肩痛と心理的要因の関係

肩の痛みが長引くと、心理的要因が深く関与してきます。例えば、肩の痛みが3か月以上続くと、うつや不安を引き起こし、それがさらに痛みを強く感じさせる悪循環を生み出します 。

本書では、痛みの評価ツールとして「PainDETECT」などを活用することを推奨しています。これは、神経障害性疼痛を早期に特定するためのアンケート形式のツールで、患者が痛みをどのように感じているかを詳しく評価することが可能です 。

また、慢性的な痛みの原因として、恐怖回避思考(Fear-Avoidance Thinking)が挙げられています。この思考は、患者が「痛みを避けよう」とする行動がかえって痛みを長引かせる要因となるため、これを認知行動療法などで改善することが重要です 。

5. 最新のリハビリテーションと手術法

肩痛治療の進歩に伴い、リハビリテーションの役割も進化しています。特に腱板断裂などの場合、早期からのリハビリが推奨されており、拘縮予防や機能回復のために特定の運動療法が行われます 。また、最新の手術法として、鏡視下手術やエコーガイド下での治療が紹介され、これらの技術は、従来の手術よりも低侵襲であり、回復が早いのが特徴です 。

6. 文献選びの重要性

肩痛に関する文献は膨大で、どの文献を参考にすべきか迷うことがあります。著者の山本氏は、自身が学び実践した文献の中から、特に有用なものを巻末で紹介しており、初心者から経験豊富な医師まで、効率的に最新の知見を得られる方法が提供されています 。

まとめ

肩痛の診察や治療には、適切な診断と包括的なアプローチが不可欠です。本書では、解剖学的な視点や最新の治療法、さらには心理的要因の重要性まで幅広く網羅しており、肩痛患者の治療に役立つ貴重な情報が提供されています。

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