肩甲骨運動異常(Scapular Dyskinesis)について
**Scapular Dyskinesis(肩甲骨運動異常)**とは、肩甲骨の動きや位置の異常を指し、肩関節の痛みや障害の要因として重要視されています。特にスポーツ選手や反復的な腕の動作を行う人に多く見られ、肩関節の安定性や可動性に大きな影響を与えます。この問題は肩甲骨の正常な動きを妨げ、最終的には上肢全体の運動機能にも支障をきたす可能性があります。以下、Scapular Dyskinesisの特徴、評価方法、そしてリハビリのポイントについて解説します。
Scapular Dyskinesisの特徴
肩甲骨運動異常は、肩甲骨の「上方回旋」「後傾」「内転」「挙上」などの動作が正常に行われないことが特徴です。この異常は主に以下の3タイプに分類されます:
1. タイプI(前傾型)
• 肩甲骨の下角が浮き上がり、肩甲骨が前傾している状態です。
• 多くの場合、肩甲挙筋や菱形筋、前鋸筋の筋力低下や緊張が原因とされます。
2. タイプII(内側縁突出型)
• 肩甲骨の内側縁が浮き上がり、翼状肩甲骨が目立ちます。
• 前鋸筋の機能不全が原因となりやすく、肩甲骨の安定性が損なわれています。
3. タイプIII(挙上型)
• 肩甲骨の上角が突出し、僧帽筋上部や肩甲挙筋の過剰な活動が見られます。
• 挙上に伴い肩甲骨が適切に下方回旋しないことで、肩関節に負担がかかります。
Scapular Dyskinesisの評価方法
Scapular Dyskinesisを評価するためには、視覚的評価や徒手的なアプローチが推奨されます。以下の評価方法が一般的です:
1. Kibler’s Scapular Dyskinesis Test
• 患者が両腕を前方挙上する動作を観察し、肩甲骨の動きや位置を評価します。
• 特に肩甲骨の内側縁や下角が浮き上がるかどうかを確認し、肩甲骨のアライメントと回旋が正常かを判断します。
2. Scapular Assistance Test (SAT)
• 患者が上肢を挙上する際、理学療法士が肩甲骨の上方回旋や後傾を補助しながら動きを確認します。
• 肩甲骨の動きを補助することで、症状が軽減するかどうかを確認し、肩甲骨運動が肩の痛みにどのように影響するかを評価します。
3. Scapular Retraction Test (SRT)
• 患者の肩甲骨を内転させた状態で、肩の挙上や抵抗テストを行います。
• 肩甲骨を内転させた際に症状が軽減する場合、肩甲骨周囲筋の強化が症状の改善に有効であることが示唆されます。
Scapular Dyskinesisのリハビリテーションポイント
Scapular Dyskinesisの治療には、肩甲骨周囲の筋バランスを整え、安定性と可動性を向上させることが重要です。具体的には以下のアプローチが推奨されます:
1. 前鋸筋と僧帽筋の強化
•前鋸筋と僧帽筋下部の強化は、肩甲骨の上方回旋と後傾を助けます。バンドエクササイズや体幹回旋運動を組み合わせて、肩甲骨の安定性を強化します。
2. 肩甲骨のストレッチとモビリゼーション
•僧帽筋上部や肩甲挙筋などの過剰に働く筋肉のストレッチを行い、肩甲骨のアライメントを整えます。
3. 体幹の安定化
•体幹の安定は肩甲骨の動きに影響を与えるため、プランクや体幹回旋のエクササイズを行い、全体的な筋力を強化します。
まとめ
Scapular Dyskinesisの評価とリハビリテーションは、肩甲骨と肩関節の正常な動きを取り戻し、痛みや障害の軽減に役立ちます。肩甲骨の安定性を高めることで、肩関節や上肢全体の機能改善が期待でき、日常生活やスポーツにおけるパフォーマンス向上にも寄与します。