動的膝外反 (Dynamic Knee Valgus) に関する包括的レビュー
はじめに
動的膝外反 (Dynamic Knee Valgus: 以下、DKV) は、膝が内側に移動する不適切な運動パターンで、前十字靭帯損傷 (ACL損傷) や膝蓋大腿痛症候群 (PFP) などの怪我のリスクを高める要因です。本レビューでは、片脚動作(片脚スクワットや片脚着地)におけるDKVの修正可能な要因を整理し、それを改善するためのエクササイズ方法について検討します。
動的膝外反の定義とリスク
DKVは、以下の運動パターンが複合的に組み合わさることで生じます:
• 大腿骨の内旋と内転
• 膝関節の外反
• 足関節の回外と過剰な回内
• 前方への脛骨の変位
この動作により、以下の怪我のリスクが高まります:
• ACL損傷(特に非接触型)
• 膝蓋骨の位置異常による膝蓋大腿痛症候群(PFP)
研究により、片脚動作は両脚動作よりも負荷が高く、怪我の発生リスクが高いとされています。このため、本レビューでは特に片脚動作に焦点を当てます。
動的膝外反の修正可能な要因
1. 体幹の側屈筋力の不足
体幹筋力の低下は、重心が膝関節外側へ移動し、膝外反を引き起こします。特に、側屈筋力が不足すると膝関節の動的安定性が損なわれます。
エビデンス
• Nakagawaら(2015): 片脚スクワット中、体幹側屈筋力が弱い被験者は膝外反角度が大きいことが確認されています。
推奨エクササイズ
• サイドプランク: 側屈筋力の強化に有効。
2. 股関節筋力の低下
股関節外転筋、伸筋、および外旋筋の筋力低下は、膝が内側に動く動作を助長します。女性においては特に、この筋力が男性よりも低いため、DKVが発生しやすい傾向があります。
エビデンス
• Neamatallahら(2020): 股関節外転筋と伸筋の筋力が高い女性は、片脚動作中の膝外反角度が小さいことが確認されています。
推奨エクササイズ
• サイドライイングヒップアブダクション
• クラムシェルエクササイズ
3. 足関節背屈可動域の制限
足関節背屈 (Dorsiflexion) の可動域が制限されると、代償的に足部の過剰回内や脛骨の内旋が生じ、膝外反を助長します。
エビデンス
• Wyndowら(2016): 足関節背屈可動域が小さい被験者は、片脚スクワット中の膝外反角度が大きいことが確認されています。
推奨エクササイズ
• **膝壁テスト(Wall Test)**で足関節背屈可動域を測定し、ストレッチで改善を図る。
4. 疲労の影響
疲労により、膝関節の神経筋制御が低下し、膝外反が発生しやすくなります。ただし、疲労の影響に関する研究結果には一貫性がなく、さらなる研究が必要です。
動的膝外反を改善するためのエクササイズ
1. 臀筋強化トレーニング
臀筋(大臀筋と中臀筋)は、膝の外反を防ぐために重要です。
エビデンス
• Dawsonら(2020): 中臀筋と大臀筋を強化するエクササイズを6週間実施したグループは、片脚スクワット中の膝外反角度が顕著に改善しました。
推奨エクササイズ
• サイドライイングヒップアブダクション
• 四つん這いでのレッグエクステンション
2. リアルタイムバイオフィードバック
膝の適切な位置をリアルタイムでフィードバックすることで、動作パターンを即時的に修正できます。
エビデンス
• Marshallら(2020): バイオフィードバックを使用したグループは、片脚着地中の膝外反角度が有意に改善しました。
推奨方法
• モニターで動作を確認しながら片脚スクワットやステップダウンを行う。
3. プライオメトリックトレーニング
ジャンプや着地を伴うエクササイズは、膝関節の動的安定性を向上させます。
推奨エクササイズ
• ダブルレッグから片脚へのジャンプエクササイズ
• ステップダウンジャンプ
結論と臨床応用
動的膝外反 (DKV) は、下肢の怪我リスクを高める重要な要因ですが、修正可能な要因をターゲットにしたエクササイズによって改善可能です。特に、以下の点が有効とされています:
1. 臀筋の強化
2. 足関節の可動域向上
3. 体幹筋力の強化
4. リアルタイムフィードバックの導入
今後の課題
• 男性を対象とした研究の不足
• 疲労がDKVに与える影響の解明
これらの知見を理学療法プログラムに応用することで、膝関節の安定性を向上させ、怪我のリスクを低減できます。
文献タイトル:
“Dynamic Knee Valgus in Single-Leg Movement Tasks: Potentially Modifiable Factors and Exercise Training Options. A Literature Review”
Bartosz Wilczyński, Katarzyna Zorena, Daniel Ślęzak
International Journal of Environmental Research and Public Health (2020)