痛みのメカニズムって?
1. 侵害受容性痛 (Nociceptive Pain)
侵害受容性痛は、損傷や炎症によって痛みを感知する侵害受容器が刺激されることで発生します。
プロセス
1. 組織損傷と炎症:
• 切り傷や打撲などで組織が損傷すると、炎症性メディエーター(プロスタグランジン、ブラジキニン、ヒスタミン、サイトカイン)が放出されます。
• これらの物質は侵害受容器(自由神経終末)を活性化させ、感受性を高めます。
2. 侵害受容器の活性化:
• 侵害受容器はAδ線維(速い伝達、鋭い痛み)とC線維(遅い伝達、鈍い痛み)を介してシグナルを脊髄に送ります。
3. 脊髄での処理:
• シグナルは脊髄後角で中継され、他の神経伝達物質(グルタミン酸やサブスタンスP)によって増幅されます。
4. 中枢への伝達:
• 脊髄から視床に伝達され、最終的に大脳皮質で「痛み」として認識されます。
特徴
• 明確な原因(外傷や炎症)が存在する。
• 治療法: 抗炎症薬(NSAIDs)、局所麻酔、物理療法。
• 例: 関節炎、骨折、筋肉痛。
参考文献: (Vardeh et al., 2016)
2. 神経障害性痛 (Neuropathic Pain)
神経障害性痛は、末梢神経や中枢神経系が損傷した場合に発生する痛みです。
プロセス
1. 末梢神経の損傷:
• 糖尿病、外傷、ウイルス感染(例: 帯状疱疹)などが原因。
• 損傷した神経は異常な活動電位を発生し、痛み信号が過剰に伝達される。
2. 異常な再生とエクトピック発火:
• 損傷した神経が再生する際、神経終末が過敏化し、非侵害刺激(温度、触覚)に対しても痛みを感じる(アロディニア)。
• エクトピック発火(本来発火しない場所での電気信号発生)が持続的な痛みの原因となる。
3. 中枢感作:
• 脊髄後角でNMDA受容体が過剰活性化し、痛み信号が過剰に増幅。
• 結果として、慢性的な痛みが持続する。
特徴
• 刺すような痛み、焼けるような痛み、しびれ。
• 治療法: 抗てんかん薬(ガバペンチン)、抗うつ薬(デュロキセチン)、神経ブロック療法。
• 例: 糖尿病性ニューロパシー、帯状疱疹後神経痛。
参考文献: (Rowbotham, 2005)
3. 中枢性痛 (Nociplastic Pain)
中枢性痛は、明確な組織損傷や神経損傷がないにもかかわらず、脳や脊髄での痛覚処理が異常をきたすことで生じる痛みです。
プロセス
1. 中枢感作:
• 痛覚の増幅が脳や脊髄で固定化される。
• 本来痛みを抑制する内因性オピオイド系が機能低下し、痛覚信号が過剰に伝えられる。
2. シナプス可塑性の変化:
• 持続的な刺激によりシナプス結合が強化され、わずかな刺激でも痛みとして認識される。
• 海馬や扁桃体が関与し、感情や記憶が痛みの認識に影響。
3. 心理社会的要因の影響:
• ストレス、不安、うつ状態が視床下部-下垂体-副腎系を活性化させ、痛覚を増幅。
特徴
• 広範囲の痛み、疲労感、睡眠障害が伴うことが多い。
• 治療法: 認知行動療法(CBT)、運動療法、抗うつ薬。
• 例: 線維筋痛症、慢性腰痛。
参考文献: (Chimenti et al., 2018)
4. 心理社会的メカニズム (Psychosocial Mechanisms)
心理社会的要因は痛みの強さや慢性化に大きな影響を与えます。
プロセス
1. 心理的要因:
• 痛みへの恐怖や不安は、痛み回避行動を引き起こし、筋力低下や活動制限を招く。
• 慢性的なストレスは視床下部-下垂体-副腎系を活性化し、慢性痛を悪化させる。
2. 社会的要因:
• サポートの欠如や経済的問題が患者の痛み体験を悪化させる。
3. 学習と記憶:
• 過去の痛み経験が痛覚システムに固定化され、新たな痛みの感知を増幅する。
特徴
• 痛みが心因性で増幅される。
• 治療法: 心理療法、支持的環境の提供。
参考文献: (Summers, 2000)
5. 運動器系(筋骨格系)の関与
筋骨格系の異常が痛みの原因になることがあります。
プロセス
1. 筋筋膜性疼痛症候群:
• 筋膜や筋繊維の過緊張やトリガーポイントが痛みの原因に。
2. 関節負荷と炎症:
• 関節炎や軟骨損傷が慢性的な痛みを引き起こす。
3. 動作異常:
• 不良姿勢や動作パターンが慢性的な痛みを助長する。
特徴
• 痛みが特定の動作や姿勢で悪化。
• 治療法: 姿勢改善、筋力トレーニング、関節モビリゼーション。
参考文献: (Smart & Doody, 2006)
これらのメカニズムは単独でなく、複雑に相互作用することが多いため、個別化された多角的アプローチが必要です。