筋力と糖尿病の関連性について:中年女性を対象とした研究


タイトル: The Associations between Upper and Lower Body Muscle Strength and Diabetes among Midlife Women

この研究は中年女性における筋力と糖尿病の関係を調査したもので、特に上半身(握力)と下半身(椅子立ち座りテスト)の筋力が糖尿病リスクとどのように関連しているかを評価しています。以下にその重要な発見と理学療法士が注目すべきポイントを示します。

背景

世界的に糖尿病の罹患率は増加しており、特にアジア地域では患者数が顕著に増えています。本研究の焦点であるシンガポールでは、2035年までに成人の5人に1人が糖尿病になると予測されています。筋力の低下が糖尿病と関連している可能性が示唆されていますが、特に女性の中高年期における具体的な影響については十分に理解されていません。

方法

この研究は、シンガポールで行われたIntegrated Women’s Health Program (IWHP)のデータを用いています。参加者は45~69歳の中年女性1,170人で、以下の方法で筋力を測定しました:
1. 握力(Handgrip Strength; HGS): 握力計を使用。18kg未満を「弱い」と定義。
2. 5回椅子立ち座りテスト(5-repetition Chair Stand Test; RCS): 立ち上がり5回に12秒以上かかる場合を「遅い」と定義。
3. 筋力指数(Muscle Strength Index; MSI): 上記2つを組み合わせ、以下のように分類。
• Poor MSI: 弱い握力+遅いRCS
• Intermediate MSI: 弱い握力または遅いRCS
• Normal MSI: 握力が正常でRCSも速い

糖尿病は医師の診断、抗糖尿病薬の使用、または空腹時血糖値が7.0 mmol/L以上の場合と定義されました。

結果

• 握力(HGS)のみ: 弱い握力は糖尿病リスクを1.59倍(95% CI: 1.03–2.44)増加させる。
• 椅子立ち座りテスト(RCS)のみ: 遅いRCSはリスクを1.59倍(95% CI: 1.09–2.30)増加させたが、内臓脂肪量や筋肉量を調整後は有意差が消失。
• 筋力指数(MSI): Poor MSIは糖尿病リスクを2.37倍(95% CI: 1.40–4.03)増加させた。

重要な発見

1. 上半身と下半身の筋力を統合した指標(MSI)は、それぞれ単独の指標よりも糖尿病リスクをより強く予測する。
2. 糖尿病リスクは、筋肉量よりも筋力の低下と強く関連している。

理学療法士への提言

1. 筋力評価の重要性: 握力と下半身筋力の両方を測定することで、糖尿病リスクの包括的な評価が可能になります。
2. 運動療法: 筋力強化を目的とした運動(特に抵抗運動)は、血糖値管理および糖尿病予防に効果的であると考えられます。
3. 中年期女性へのアプローチ: 閉経後の筋力低下を予防・改善するため、特にこの年代に対する適切な筋力トレーニングを推奨。

結論

筋力の低下、特に上半身と下半身の筋力を統合的に評価した指数(MSI)は、中年女性の糖尿病リスクと密接に関連していることが示されました。理学療法士は、筋力評価と運動介入を通じて、糖尿病リスク低減に寄与する重要な役割を果たすことができます。

【参考文献】
Wong BWX, Thu WPP, Chan YH, et al. The Associations between Upper and Lower Body Muscle Strength and Diabetes among Midlife Women. Int J Environ Res Public Health. 2022;19(20):13654. https://doi.org/10.3390/ijerph192013654 

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